第7話 王達への拝謁

文字数 3,231文字


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…

多数の黒い何かが

闇に紛れながら東へと歩みを進め

その 獲物の目前に


迫ろうとしていた







エーレの湖で放たれた、目を覆う程の閃光
その烈しい閃光と共に
ネフティスの体が宙に舞い 
それは木の葉の如く か弱く

落ちていった


ザ       ッ…
「ネフティス!」
 岩陰に身を潜めていたカフラが声を上げ、ネフティスの下へと駆け出した!
 護衛の兵士達がそれに気が付き、カフラの方に駆け寄る!

Pi! Pi! Pi! Pi!――― 
 再び森の岩陰から不気味な音が響き、

!―――――――――――――――

 轟音と共に、稲妻のような烈しい閃光が視界を奪った。
 咄嗟に右手を目の前に上げるカフラ。

――― 灼熱の爆風がカフラを襲う。


ォォォォ…
 閃光が消え、カフラが目をゆっくり開けると、

…  ジジジジジ…
「 モ… モントゥ! 」
 目の前でモントゥが盾と武器を重ね合わせ、蒼白い光を放つ雷神の盾(アイギス)を前面に発生させながら、カフラを閃光から守っていた。

「カフラ様、 ご無事で」
「無事か!モントゥ!」
「カフラ様そのまま、そのままで」
「黒い影が消えた位置から、何かが放たれています」

「!」
「ネフティス! ネフティスは!」
 突然の事態と、閃光に貫かれたネフティスを気にし、動揺するカフラ。
 必死にネフティスを探し周囲を見渡すが、ネフティスは見当たらず、その視界の先には、護衛の兵士達がもがき苦しみながら倒れていた。

「あぁ っ …」
 その、一瞬で変わり果てた光景に言葉を失うカフラ。

「カフラ様」
「ネフティス様は目の前に倒れておられます」

 モントゥがカフラに声を掛けるが、カフラの動揺は収まらない。
「ネフティス! ネフティスは無事か!」

「わかりません」
「カフラ様、私の後ろにいて下さい、ネフティス様の所へ向かいます」
 そう言うとモントゥは、雷神の盾(アイギス)を展開しながら、ゆっくりとネフティスの下に近付いてゆく。

―Pi!  キュ!

「また、あの音!」
「…ック」
 雷神の盾(アイギス)に力を入れるモントゥ。

「…来い」
 雷神の盾(アイギス)の光を増しながらモントゥが身構えた、その時、

――― キィィィィィィィーーーーーーーーーーーーー

「はぁう!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なっ、な ん だ…」
「こっ、 こ の お と は !」
「あぁぁぁ!」

 突然、頭の中に刺さる様な音が鳴り響き、
その音は体の自由を奪い、モントゥとカフラは頭を抱え、その場で身動きが取れない状態に陥ってしまった。

 すると

…スッ
 森の奥から黒い影が現れ、

「あぁぁぁ!」
「ち… 近寄るな!」
 カフラ達の方へと近付いてきた。

 黒い影は、ゆっくりとカフラ達の方へ近付くと、ネフティスの前で立ち止まり、その身を低くし、

「あぁぁぁ!」
「ネフティス!!」

しばらくすると、ネフティスの身体の一部が光を放ち始め、

…パァァァァァ
淡い黄金色の光を放ちながら、輝きだした。



 一時、輝いていた淡い黄金色の光がゆっくり消えると、その黒い影は立ち上がり、
再びカフラ達の方へ近付いてきた。

「き!… 貴様!」 
「ぁぁぁ!」

 黒い影はモントゥの所で止まると、体に触れ、モントゥがばたりと倒れる。
 そして、カフラの目の前に辿り着くと、

「…」
 何かの音を発しながら、カフラの首元に触れた。
 その瞬間、カフラの視界が消え、

 意識を失った。







『 … む 虫の音が… 聞こえる』

 ォ…

『 … だ だれ か   呼んで… 』


…ス様!」「カフラ様!」「カフラ様!」

「 … モントゥ…」
 意識を取り戻したカフラ。その目の前にはモントゥとマトケリスが必死の形相で囲み、カフラを呼んでいた。

「… よ… る… か…」
 意識を失っている間に陽が沈み、周りは闇に包まれ、モントゥが持つ松明と、遠くに薄っすらと篝火が焚かれているのが見えた。

「!」
「ネフティス! ネフティスは!」
 突然、カフラが目を見開き、起き上がると、ネフティスの名前を大声で呼びながら、周囲を見渡し、倒れた妹を探し始めた。

「カフラ様、ネフティス様も無事でございます」
 足元もおぼつかず、ふらふらと立ち上がろうとするカフラのそばに寄り、体を支えるモントゥ。

「そうか!」
「どこだ!ネフティス!」
「カフラ様、ネフティス様はあちらで休んでおられます… ただ…」

「どうした!」

「こちらへ」
 モントゥがそう言うと、カフラを支えながら森の中にある岩陰に歩き出し、話を続けた。

「カフラ様」
「ネフティス様は… 受けた傷の場所が悪く」
「意識が… 戻っておりません」

「なっ…」

「…体液が… 流れすぎました」
「傷口は塞がっておりますが、体が冷えており」
「今、一生懸命暖めております」

 カフラはその話を聞くと突然走り出し、

「ネフティス!」「ネフティス!」
 ネフティスが横になっている下へ、駆け寄った。

「…ネフティス」
 そこには血色を失い蒼白い顔色をしたネフティスが横になり、カフラはか弱く眠るネフティスの手を握ると、その表情を見つめ、その身を小さく震わせながら、その場に崩れるように(うつむ)いた。

 モントゥ達は、その様子を静かに見つめ、カフラの感情が治まるのを待ち、
一時の静寂の後、カフラが身体を上げるのを見ると、声を掛けた。

「カフラ様」
「今、マトケリス様の兵達がラーム族の集落へ向かい救援を呼び、食料も集めて頂いております」

「 …ゆるさん 」

「…カフラ様」

「許さんぞ!」

 顔を上げたカフラの表情は、温厚だった表情は消え失せ、激しい怒りで満たされ、
その激しい衝動に自らを抑える事が出来ない、悲憤に支配されていた。

「モントゥ!」
「兵達と黒い影を討つぞ!」
「お、カフラ様、落ち着いて下さい!」

「モントゥ!」

「兵達も、動けません!」

「なに!」

「兵達も、生きてはおりますが、傷が深く動く事が出来ないのです!」

 唖然とするカフラ。

「兵は森の中で休ませていますが、しばらくは動くことは出来ないでしょう」

「…なら」
 カフラは近くに置いてある武器の方へ歩き出し、

「なりません!」
 モントゥがその行く手を阻む。

「また! 同じように攻撃を受けるだけです、何もできぬまま!」

「モントゥ!」
雷神の盾(アイギス)を渡せ!」
 怒りの衝動で我を忘れ、カフラは必死に抑えるモントゥを押し通ろうとする。

「カフラ様!」
「陽が、陽が昇りましたら」
「私が向かいます!」
「それまで!それまでの間に策を考えましょう」

「モントゥ!」

「ネフティス様を置いてゆかれるのですか!」

「そこをどけ、モントゥ!」

「カフラ様、堪えて下さい、堪えて」

「モントゥ!」

「カフラ様! 堪えて」

「モントゥ!」

「モントゥ…」
「クッ…」

 カフラはモントゥの言葉を理解すると、歩みを止め、静かに項垂れた。

「…わかった モントゥ」
「ありがとう…」 ゆっくりと顔を上げるカフラ。
「…」
「今宵から復活の祭事を執り行う」
「ネフティスが目覚めるまで、誰も入れるでないぞ」

 カフラはそう言うと、ネフティスが眠る岩陰に戻り、静かにネフティスの横に座る。

 そしてやさしく手を握り、
「…ネフティス」

復活の祭事を始めた。







 それから陽が数度登り、陰りを繰り返し、

 カフラは休む事無く、冥界の王と、天界の王に謁見し、ネフティスの魂がアケトより再び戻る事を願い、祈り続け、

五度目の陽が沈んだ時だった。

 全てが漆黒の闇に包まれ、静寂に支配されたエーレの湖を白い霧が覆い、
遠くから唸り声のような低い何かの音が聞こえてきた。

 すると、音も無く暗闇にゆらゆらと動く、鈍い光が浮かび上がり、その光が徐々に大きくなると、ネフティスが眠る岩陰の方へと向かってゆく。
 そして、周囲を警戒しているモントゥやマトケリスの横を通り過ぎたが、彼らはピクリとも動かず、

その鈍い光を放つ何かは

冥界の王に祈りを捧げる、カフラの下に訪れた


 カフラは祈りを終え、その鈍い光を放つ何かに顔を向け、それをじっと見つめると、
その鈍い光を放つ何かに、ゆっくりと話し始める。

「拝謁を賜り、ありがとうございます」

「冥界の王」
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登場人物紹介

ニーヴァ(テュケ)/ Neva-Ra

太陽神

原始文明、カルーン文明の王

カフラ / Kafra-Ra

純粋で心優しき性格で、カルーン族の次世代の王と期待されている重臣。

ゲブとヌトの長男

ムメン / Mumen-Ra

カルーン軍を治める将。先端が二股に分かれた|巨大な槍《ウアス》を持つ巨人で、他部族の心の内を読む、バイタル・トレーサー《生体追跡者》

ゲブとヌトの次男。

Montu(モントゥ)

太陽神ラァーの護衛。一時オシリスを守る旅の護衛として東南の大陸に旅に出る。

ホルフレー

モントゥが一番に信頼を置く、愛弟子(息子)。

オシリスの命によりクパ族の戦士と共に、セトとの連絡隊の任務に就き、

その途中で、翼竜に乗る種族と出会い、翼竜を操り根拠地フシに辿り着いた。

ネイト

武器を考案、製造する事を得意とする、知性の高いカルーン軍の重臣

ウプウアウト

セトの右腕、東南の大陸全土を周り偵察を行い、ホルフレーが乗る翼竜に乗り根拠地フシに戻って来た。

カブラル

ウプウアウトの側近。事前に黒い物体を偵察し、その情報をセトに伝える。

雷神の盾を持つ兵士《アイギス・メシェア》

セトの精鋭部隊に所属する兵士。蒼き稲妻を放つ|雷神の盾《アイギス》を装備する兵士。

黒い外骨格を持つ兵士

ハペプの子孫。

セトの精鋭部隊に所属し、黒々とした鎧とも違う何かを身に纏う異様な雰囲気を漂わせる兵士。

テム

ラァー(テュケ)の父にして、始まりの神。

旅の途中で、砲弾型の壺を拾う。

ネフティス

天真爛漫で美しい女性。ゲブとヌトの次女で、セトの妻。

アセト

農耕を司る美しい女性。ゲブとヌトの長女で、オシリスの妻。

ゲブとヌト

ホルスとテフヌトの兄弟。

ホルスのモースティア族進攻の際、まだ幼く、カルーンの都でホルスとテフヌトの帰りを待っていたが、その両親が亡くなると、親族であるテュケ(ラァー)が彼らを受け入れ、育ての親となった。

ホルスとテフヌト

モースティア族を統治し、モースティアの王となる。

カルーンへ凱旋の時に、カルーン軍と闘いになりホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまう。

セクメトの両親であり、ゲブとヌトの兄妹。

Chris Farrell(クリス・ファレル)

人類移住計画を担うUNIT-9のリーダー。

元軍人だが、心優しい側面もあり、それ故に人間らしい曖昧さをにじませながらUNIT-9を率いる。

TU (Terraforming of the Earth and Space union/地球圏再生計画組織)に所属。

Claudia Mitchell (クローディア・ミシェル)

生物学者で責任感の強い女性、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

凍結保存された卵子を、移住先のRoss 128b星へ運ぶ任務、”Oocyte cryopreservation”を密かに担う。。

カーター

パイロット兼、UNIT-9のサポートをするヒューマノイド。

”Adam and Eve Project”、クローニングされた男女の子供たちを、移住先のRoss 128b星へ連れてゆく任務を密かに担う。

オスカー

科学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

ハイブリッドタイプのヒューマノイドで、その身体には半永久機関のジェネレーターを備えており、最悪の場合、テラフォーミングを完遂させ、人として地球生命を再生するミッションを与えられている。

マクシミリアン・シュミット

宇宙物理学者の黒い肌をした大柄の男性。UNIT-9のサブリーダー。

マイヤー

生物学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

クローディアの義理の妹

Mobile Trooper/機動装甲 (鉛色の兵士)

UNIT-9に配備されている戦闘兵器

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体

Master Mētis(マスター・メーティス)

Ardyに転送された意識体。

ジェフリー博士専属のヒューマノイドで、その能力はヒューマノイドの最高位である、マスター・ゼウスを凌ぐ能力を持つと言われている。

セクメト

モースティア族の王 / ホルスとテフヌトの長女。
モースティア族を統治したホルスと共に、モースティアの地に移り住むが、程なくしてホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまい、幼くしてモースティア族を支配する王となる。

その両親を亡くした原因がテュケ(ラァー)にある事を知ると、テュケ(ラァー)を深く恨み、モースティア族を率いて、カルーンの都を襲う。

旅人 / 短剣を持つ術者 / ヌイ

モースティア族の血を継ぐ者。

美しい装飾が施され、精巧に造り上げられた白い鞘に収まった短剣を持つ、モースティア族の地を継ぐ神官。

幼き頃に、カルーン軍を率いて侵攻して来たホルスとの戦いに破れ、一族は後継の男児(ヌイ)を連れて、密かにモースティアを脱出し、再起を図る旅に出る。

その旅路で、男児(ヌイ)は成長し、立派な成人となると、自らの名前を大陸で伝えられている大地を意味する言葉、ヌイと名乗り、その腰にはマケの短剣を身に付け、モースティアの血を継ぐ神官へと成長してゆく。

成長したヌイは、ある時、求めていた知性を持つ種族、炎を操る者達に出会い、捕らえられてしまい、必死にそこから脱出したが、信頼を置いていた仲間達は亡くなり、孤独となるヌイ。

希望を失い、心神喪失のまま歩き出すと、砂漠の真ん中で助けられ目覚める。

そのヌイの目の前には、かつての敵、カルーンの都がそばにあった。

ヌーク

クパ族の長。

東南の大陸に近い対岸に暮らす、カルーン族に友好的な種族で、陸と海を生活の場とし農耕に長けている。

穏やかな雰囲気を感じさせ、顔は中心に折れ目があるひし形をし、まだら模様の皮膚をしている。

マトケリス

クパ族の重臣。

東南の大陸に詳しく、そこに住むラーム族と親交がある。

オシリスを”見えない何か”が住む地、ラムスに案内する。

スフィラ

クパ族の戦士。

ホルフレーと共にセトとの連絡隊の任務に就く。

ヤァー族 (アーダム / キ)

東の果てにある大陸で暮らす猿人類

ホバ族 (エレ / エバ / ミ)

北の大陸で暮らす、野生生物に近い猿人類。

砲弾型の壺を持ち、エレという謎の存在に助けられている。

アー族(長 アーマト)

東南の大陸、北東地域に暮らす猿人

ラーム族

東南の大陸に住む、ヤァー族より一回りも小さい、野生生物に近い種族。

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