第1話 言葉を操る者

文字数 2,921文字


それは眩い光で大地を照らしていた

惑星を覆った閃光と共に、大地は(たぎ)り、赤々とした惑星の命を噴出したその場所に

青い色の光に包まれ、黄金色の光(サイマティクス)を放つ巨大な大地が浮遊し

その前には

先端が丸い洗練された棒(セケム)を持ち、見た事も無い厚みのある何か(プロテクティヴ・ローブ)、をその身に纏う何者かが整然と並び、静かにその場に佇んでいた







――ババババッ!
数匹の体毛が薄く、体格が良い生物達が、物凄い勢いで森の中を駆けてゆく。

―バシュ!! ―バシュ!! ―バシュ!!

ガッツ!
「 ギャッツ!! 」

―ズダァァ! …  ザッ ザザザァァ…





「ギャァ!」「ギャア!」

 森を駆けていた体毛が薄い種族達の一匹が転がりながら草むらの中に倒れ、その身体には細長い棒の様な物が多数突き刺さり、その場から動けなくなっていた。
 その体毛の薄い種族は立ち上がろうと身体を動かし、必死に声を上げながら助けを呼び、それに気が付いた他の者達は倒れた仲間を気にしながら数度ふり返ったが、別の集団が多数で近付いて来るのを感じると、

孤立した仲間を置いて森の奥へと逃げて行った。

ザッ、ザッ、 ザッツ

 森を駆けて行った体毛の薄い種族達を追いかけ、手負いの生物が消えた場所に辿り着いた黒毛の種族達。
 彼らはその場に集まると、長細い木の枝のような棒を両の手で握り、周りを警戒しながらゆっくりと歩き始め、鼻と眉間をぴくぴくと動かしながら、倒れ動けなくなった体毛の薄い種族を探し始めた。

 身体から血を流し、草陰に身を横たえ、息苦しくその呼吸を抑える体毛の薄い生物。
 その周囲に仲間とは違う、別の種族の匂いと足音が近付いてくる。
 その足音は徐々に、倒れた体毛の薄い生物の周囲を取り囲むように集まり出し、囲まれた事を感じた体毛の薄い生物は、その黒毛の種族達を近付けまいと必至で声を荒らげ、周りを威嚇した。
  周囲を取り囲んでいた黒毛の種族、数匹がそれに気が付き、手負いの生物の方へ向かって行くと、必死に威嚇する生物を警戒しながら、徐々に距離を詰めてゆく。
 身動きが取れない体毛の薄い生物は、徐々に近付く臭いと気配を遠ざけようと、激しい形相で威嚇したが、彼の対応できる範囲を超えると、周囲を取り囲んでいた黒毛の種族の一匹が、その手に握りしめた棒のような物を振りかざし、

―ガッツ!

「ギャァ!」

ガッツ! ガッツ! ガッツ! …

その棒は倒れた生物の血で赤く染まっていった。


―排他的社会秩序
自らの集団を守るために他者を受け入れない

 見知らぬ何かを恐れ排除する事は、その集団を守る事であった。
 その為に、その集団に近寄る何かがあれば強烈に排除し、その行為は威嚇を含めて執拗に、残虐に行われ、そうしてその生物達の集団は自らのコロニーを守っていた。
 そうして、いつしかその集団の個体数が増えると、一部がその集団から別れ、また新しい別のコロニーを構築し、その拡大と分裂を繰り返しながら、その黒毛の種族達は

この惑星(ほし)に広がっていった。







 ある時、ある黒毛の種族達が平原で狩りをしている時の事であった。
 ゆっくりとそこに見知らぬ別の種族達が姿を現し、整然と並びながら狩りをしている黒毛の種族達に近付いてゆく。

 その何者かの侵入に気が付いた狩りをしている一部が、周囲に大きな声を上げ、威嚇をしながら、仲間を呼んだ。
 すぐさま狩りをしていた他の仲間達が声を上げた黒毛の生物の下に集まり、目の前に現れた別の種族を見つけると、排除しようと激しく声を荒らげ、威嚇し、物を投げ、彼らを追い立てた。
 しかし、目の前の種族達は、物静かにその様子を伺い、微動だにせず、その身には威嚇をしている黒毛の種族達が見た事も無い、先端が丸い洗練された棒(セケム)を持ち、厚みのある何か(プロテクティヴ・ローブ)、をその身に纏い、整然と並びながら、静かにその場に佇んでいた。

「 … 」

 しばらくすると、その何かを身に纏う不気味な種族の奥にいる、長であろう何かに座っている者が、鳴き声とも違う静かで緩やかな音をその口から発すると、

「ギャァァァ!」

威嚇をしていた黒毛の生物の体が突然焼けだした!

 それを見た威嚇をしていた仲間達の動きが止まり、一瞬怯んだが、すぐさま数匹がまた威嚇を始めると、 眩い閃光と共に、威嚇をしていた黒毛の種族の体が再び焼け、鼻を突く黒い煙が周囲に漂った。
 その異常な状況をその身で感じた、威嚇をしていた黒毛の種族達は竦み上がり、体を丸め、その場で動かなくなり、そして、その目は、

恐怖で覆い尽くされていた。

 黒毛の種族達を焼いた不気味な種族は、彼らに向けていた洗練された棒を自らの側に戻し、また整然と並び、再び黒毛の種族達の方を向きその様子を伺うと、
不気味な種族達の奥にいる長から、また静かで穏やかな音がきこえてきた。


「 … 我は 光を 操る者(サイマティクス・ディスカーナト) 」

「 我の (しもべ)となり 扉を開け… 」


言葉


それは  紛れもない

「 ことば 」  で あった


赤く煮え滾る惑星から数十億年
幾億もの 創造と破壊を繰り返し
この惑星にそれは

発生した

紛れもない、言葉を操る者達(ジェフティ)が そこに現れたのである


 竦み上がる黒毛の種族達は、お互い手で合図をし、武器を捨てその場に俯せになり、目の前に立つ、言葉を操る者達(ジェフティ)を見つめた。
 それは彼らにとって攻撃の意思が無い事を現す行動で、部族の中で上下を決める際に使われていた意思を伝える手段であり、俯せになった黒毛の種族達は、目の前の種族達に屈服した事をその身をもって伝えていたのである。
 そして身体を投げ出した黒毛の生物の一匹が、ゆっくりと顔を上げると、

「…」「… …」 「…」

 俯せになった黒毛の生物もまた、言葉を操る者達(ジェフティ)と同様に、その口から言葉らしきものを発した。
 しかしそれは言葉ではなく、意志を伝える声であり、彼らは単純な声で意思を伝え、身振りや簡単な絵でコミュニケーションを図る、原始言語(インセプション)を使う物達であった。
 しかし、その彼らの前には、それを遥かに凌駕する者達が顕現し、言葉を操る者達(ジェフティ)が放つ圧倒的な力を感じ取ると、彼らは抵抗を諦め、言葉を操る者達(ジェフティ)の僕となり、後に彼らの部族はその集団に支配され、そうして、言葉を操る者達(ジェフティ)は同じように多くの部族をその配下に治めてゆく事となった。



時が流れ



…ゴゴゴゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴ

カーン! カーン!

バシュ! バシュ! バシュ!

 惑星の命が噴出した大地に、この惑星には無かった騒々しい音が鳴り響き、外見や体格が異なる様々な種族が集まり何かの作業を行い、そこには自然の物ではない、明らかに何者かの手で造りだされた構造物が数多く存在し、先端が丸い洗練された棒(セケム)を持つ種族が、その作業をしている種族の周囲を取り囲み、作業の指示をしていた。

ズッ…  ズッ…

「 … あぁぁ… 」

 石のような大きな何かを引いていた作業者が、その荷を引く縄を置き、腰を屈め一休みをした。

「ハァ、ハァ」

 彼は、息が整う少しの間、身を伏せて体を休め、再びその荷を引こうと顔を上げた時、その先にある物に目を向けると、
その作業者の目線の先には、眩い光を放つ巨大な何かが存在し、
それは、洗練された棒(セケム)をもつ種族に囲まれ、


空中に


浮いていた
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登場人物紹介

ニーヴァ(テュケ)/ Neva-Ra

太陽神

原始文明、カルーン文明の王

カフラ / Kafra-Ra

純粋で心優しき性格で、カルーン族の次世代の王と期待されている重臣。

ゲブとヌトの長男

ムメン / Mumen-Ra

カルーン軍を治める将。先端が二股に分かれた|巨大な槍《ウアス》を持つ巨人で、他部族の心の内を読む、バイタル・トレーサー《生体追跡者》

ゲブとヌトの次男。

Montu(モントゥ)

太陽神ラァーの護衛。一時オシリスを守る旅の護衛として東南の大陸に旅に出る。

ホルフレー

モントゥが一番に信頼を置く、愛弟子(息子)。

オシリスの命によりクパ族の戦士と共に、セトとの連絡隊の任務に就き、

その途中で、翼竜に乗る種族と出会い、翼竜を操り根拠地フシに辿り着いた。

ネイト

武器を考案、製造する事を得意とする、知性の高いカルーン軍の重臣

ウプウアウト

セトの右腕、東南の大陸全土を周り偵察を行い、ホルフレーが乗る翼竜に乗り根拠地フシに戻って来た。

カブラル

ウプウアウトの側近。事前に黒い物体を偵察し、その情報をセトに伝える。

雷神の盾を持つ兵士《アイギス・メシェア》

セトの精鋭部隊に所属する兵士。蒼き稲妻を放つ|雷神の盾《アイギス》を装備する兵士。

黒い外骨格を持つ兵士

ハペプの子孫。

セトの精鋭部隊に所属し、黒々とした鎧とも違う何かを身に纏う異様な雰囲気を漂わせる兵士。

テム

ラァー(テュケ)の父にして、始まりの神。

旅の途中で、砲弾型の壺を拾う。

ネフティス

天真爛漫で美しい女性。ゲブとヌトの次女で、セトの妻。

アセト

農耕を司る美しい女性。ゲブとヌトの長女で、オシリスの妻。

ゲブとヌト

ホルスとテフヌトの兄弟。

ホルスのモースティア族進攻の際、まだ幼く、カルーンの都でホルスとテフヌトの帰りを待っていたが、その両親が亡くなると、親族であるテュケ(ラァー)が彼らを受け入れ、育ての親となった。

ホルスとテフヌト

モースティア族を統治し、モースティアの王となる。

カルーンへ凱旋の時に、カルーン軍と闘いになりホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまう。

セクメトの両親であり、ゲブとヌトの兄妹。

Chris Farrell(クリス・ファレル)

人類移住計画を担うUNIT-9のリーダー。

元軍人だが、心優しい側面もあり、それ故に人間らしい曖昧さをにじませながらUNIT-9を率いる。

TU (Terraforming of the Earth and Space union/地球圏再生計画組織)に所属。

Claudia Mitchell (クローディア・ミシェル)

生物学者で責任感の強い女性、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

凍結保存された卵子を、移住先のRoss 128b星へ運ぶ任務、”Oocyte cryopreservation”を密かに担う。。

カーター

パイロット兼、UNIT-9のサポートをするヒューマノイド。

”Adam and Eve Project”、クローニングされた男女の子供たちを、移住先のRoss 128b星へ連れてゆく任務を密かに担う。

オスカー

科学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

ハイブリッドタイプのヒューマノイドで、その身体には半永久機関のジェネレーターを備えており、最悪の場合、テラフォーミングを完遂させ、人として地球生命を再生するミッションを与えられている。

マクシミリアン・シュミット

宇宙物理学者の黒い肌をした大柄の男性。UNIT-9のサブリーダー。

マイヤー

生物学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

クローディアの義理の妹

Mobile Trooper/機動装甲 (鉛色の兵士)

UNIT-9に配備されている戦闘兵器

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体

Master Mētis(マスター・メーティス)

Ardyに転送された意識体。

ジェフリー博士専属のヒューマノイドで、その能力はヒューマノイドの最高位である、マスター・ゼウスを凌ぐ能力を持つと言われている。

セクメト

モースティア族の王 / ホルスとテフヌトの長女。
モースティア族を統治したホルスと共に、モースティアの地に移り住むが、程なくしてホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまい、幼くしてモースティア族を支配する王となる。

その両親を亡くした原因がテュケ(ラァー)にある事を知ると、テュケ(ラァー)を深く恨み、モースティア族を率いて、カルーンの都を襲う。

旅人 / 短剣を持つ術者 / ヌイ

モースティア族の血を継ぐ者。

美しい装飾が施され、精巧に造り上げられた白い鞘に収まった短剣を持つ、モースティア族の地を継ぐ神官。

幼き頃に、カルーン軍を率いて侵攻して来たホルスとの戦いに破れ、一族は後継の男児(ヌイ)を連れて、密かにモースティアを脱出し、再起を図る旅に出る。

その旅路で、男児(ヌイ)は成長し、立派な成人となると、自らの名前を大陸で伝えられている大地を意味する言葉、ヌイと名乗り、その腰にはマケの短剣を身に付け、モースティアの血を継ぐ神官へと成長してゆく。

成長したヌイは、ある時、求めていた知性を持つ種族、炎を操る者達に出会い、捕らえられてしまい、必死にそこから脱出したが、信頼を置いていた仲間達は亡くなり、孤独となるヌイ。

希望を失い、心神喪失のまま歩き出すと、砂漠の真ん中で助けられ目覚める。

そのヌイの目の前には、かつての敵、カルーンの都がそばにあった。

ヌーク

クパ族の長。

東南の大陸に近い対岸に暮らす、カルーン族に友好的な種族で、陸と海を生活の場とし農耕に長けている。

穏やかな雰囲気を感じさせ、顔は中心に折れ目があるひし形をし、まだら模様の皮膚をしている。

マトケリス

クパ族の重臣。

東南の大陸に詳しく、そこに住むラーム族と親交がある。

オシリスを”見えない何か”が住む地、ラムスに案内する。

スフィラ

クパ族の戦士。

ホルフレーと共にセトとの連絡隊の任務に就く。

ヤァー族 (アーダム / キ)

東の果てにある大陸で暮らす猿人類

ホバ族 (エレ / エバ / ミ)

北の大陸で暮らす、野生生物に近い猿人類。

砲弾型の壺を持ち、エレという謎の存在に助けられている。

アー族(長 アーマト)

東南の大陸、北東地域に暮らす猿人

ラーム族

東南の大陸に住む、ヤァー族より一回りも小さい、野生生物に近い種族。

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