第8話 冥界の王に仕える眷族

文字数 2,484文字


五度目の祈りの夜に ”それ” は鈍い光を放ちながら、私の目の前に現れた

ネフティスが再びこの世に戻る事を祈り、冥界の王との謁見を終え、目覚めた私の心は、静寂と共に、奥底に滾る渇望に支配され
その祈りが現実となったかのような闇から降臨した
”それ” は

私の前に立ち

静かに心の中に入り込むと

やさしく

そして その願いに触れた


「 冥界の王 」


自然とその名を言葉にした私は
鉛色の光を放ち、黄金色の神をなびかせる、冥界の王の前で跪き

その溢れ出る願いを

止める事が出来なく

その願いと共に


私の全てを捧げた


―――


冥界の王は、その願いを聞き終えると、ゆっくりネフティスのそばに歩み寄り、静かに両の手を広げ
その両の手から放たれる淡い光が広がると、その光と共にネフティスの身体が浮き上がり


『 陽が十度、陰るのを待て 』


そう心の中にささやきかけ

世界が闇に覆われると

私は 再び意識を失った



 それから陽が数度登り陰りを繰り返し、イアフが丸く満たされ、ソプデトがその輝きを強めながら漆黒の夜空へと昇っていった時であった。

 ネフティスが、やさしい柔らかな表情を浮かべながら、私の目の前に現れた。
 そして、ゆっくり後ろに振り返ると、森の奥へと歩いてゆく。

『 ネフティス! まて、どこに行くんだ! 』

 咄嗟に目を覚まし、体を一気に起こすと、ネフティスが歩いて行ったであろう、森の奥を見つめ、そのまま立ち上がり走り出した。
――――――――――――!
 そして黒い影が消えた岩の間を通り抜け、森の中を走り、巨樹のたもとに辿り着いた時、
カフラの目の前に、大きな半円形の白い空間が現れた。

「 ネフティス! 」
 白い空間に置かれた、大きく、きれいに切り出された岩の上に、ネフティスはその美しい表情を浮かべながら横になり、目を閉じていた。

「ネフティス…」
 透き通るような美しさを湛えたその姿は、薄く赤みを帯び、まるで別人かのような感覚さえ感じたが、しかし、そこに眠るのは確かに、妹のネフティスであった。



「か…

カフラ さ ま…」

「ネフティス!」

「こ…

 その言葉を待たず、目を薄っすらと開けこちらに顔を向けたネフティスの手を握り、強く抱き寄せ、私の心の中はネフティスへの想いで満たされていった。

「…オ、 カフラさま…」

「許してくれ…」

「…い いいえ… 」
「 … 」
「 いくつもの… 」
「 いくつもの… 霧たちが見えたの… 」
 
「 エーレ… ン 」



「 霧たちが そう話すと 」
「 白い部屋に 鉛色に光る 何かが 私にふれて… 」

「 周りが明るく光り出すと… 」

 ネフティスが私の顔に手を添え、

「カフラ様が祈るのが見えたの」
「ありがとう…」

 そっとカフラにその身をゆだねた。





どの位の時が過ぎたのだろう
ネフティスをやさしくその腕の中に抱き
一時の穏やかで優しい時を過ごした二人は

また、夢の中で楽しかった幼き頃の兄弟たちと遊ぶ

夢を見た


 気が付くと、周囲は明るくなり、
その光に促される様に、カフラは目を覚まし、
ふと横を見ると、ネフティスが子供のような表情を浮かべながら静かに眠り、
そして、それを優しく見つめた。



≪ 陽が十度、陰るのを待て ≫

―!
 カフラはふと何かに気付き、ゆっくり立ち上がりながら、
森の奥にある暗がりを見つめる。


「 冥界の王 」

「私はあなたに全てを捧げた眷族」

「これは    運 命    なのですね」

 カフラは、その胸に掛けられている浮遊鉱石を握りながら、しばらくの間、その暗がりを見つめ、何かに語り掛けていた。

 すると森の入り口から、モントゥが走りながらカフラの下へ駆け寄ってきた。

「カフラ様!」
「み、都が!」

「モントゥ! どうした」

カルーンの都(バビロン)、都に蛮族が攻めて来ております!」

「なに!」

ハァ、ハァ…
「今、都より連絡隊が到着しました」
 モントゥは息を切らしながら、それでも急ぎ連絡隊から伝えられた事態をカフラに伝えた。

「西から、モースティア族が大群を成して攻め入り、都を目指しているそうです!」

 モースティア族、それは西の果てにある大陸に住む、強靭な肉体を持つ野生に近い蛮族で、カルーン辺境領域の種族を襲いながら、その生息地を東方に広げていた、カルーンと敵対する種族であった。

カルーンの都(バビロン)は現在、ソプデト様の恵みに守られ、水で覆われておりますが、それも一時の事」
「今すぐ、今すぐ戻らねば都が危機に晒されます」
 カルーン軍は、その半分を東の辺境へと送り出し、指揮官であったムメンと、ニーヴァの護衛を任されていたモントゥが不在の都は、屈強なモースティア族の襲撃から都を守るには、あまりにも脆弱すぎた。

 カフラはモントゥの話を聞き終えると、ネフティスとその奥にある暗がりをしばらくのあいだ見つめ、その胸に掛けられている浮遊鉱石を外し、右の手に握りしめると、
暗がりの方へ掲げた。

「我は冥界の王に仕える眷族」
「いつしか、この身を王に捧げん」

すると、
その手に掲げた浮遊鉱石が薄く光り始め、
カフラが身に付けていた浮遊鉱石が入った袋が輝き出すと、

…p p p

森の奥から、鳥の鳴き声のような奇妙な音がし始めた。
カフラは耳を欹て、その方向を見つめるが、
浮遊鉱石は徐々にその輝きを失い、
鳴き声も聞こえなくなってゆき、

ふたたび周囲が静寂に包まれると、
カフラは何かを悟ったかの様に小さく頷いた。

「モントゥ、帰ろう カルーンの都へ」
カフラは、眠りから覚めたネフティスの手を握り、
見えざる何かが住む地 エーレを後にした。





その後ろの暗がりに存在する、鉛色に光る黒い影を気にしながら


… メジェド(冥界の王)





Pi 

… Restart the Guardian. Auto defense Level-3
  and launch the Ardy,
------------------------------------------------------------------------------------------------
遥かなる星々の物語
第二章 「邂逅の惑星~30億年の出会い」  第三部 「 運命を歩む者 」 END
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登場人物紹介

ニーヴァ(テュケ)/ Neva-Ra

太陽神

原始文明、カルーン文明の王

カフラ / Kafra-Ra

純粋で心優しき性格で、カルーン族の次世代の王と期待されている重臣。

ゲブとヌトの長男

ムメン / Mumen-Ra

カルーン軍を治める将。先端が二股に分かれた|巨大な槍《ウアス》を持つ巨人で、他部族の心の内を読む、バイタル・トレーサー《生体追跡者》

ゲブとヌトの次男。

Montu(モントゥ)

太陽神ラァーの護衛。一時オシリスを守る旅の護衛として東南の大陸に旅に出る。

ホルフレー

モントゥが一番に信頼を置く、愛弟子(息子)。

オシリスの命によりクパ族の戦士と共に、セトとの連絡隊の任務に就き、

その途中で、翼竜に乗る種族と出会い、翼竜を操り根拠地フシに辿り着いた。

ネイト

武器を考案、製造する事を得意とする、知性の高いカルーン軍の重臣

ウプウアウト

セトの右腕、東南の大陸全土を周り偵察を行い、ホルフレーが乗る翼竜に乗り根拠地フシに戻って来た。

カブラル

ウプウアウトの側近。事前に黒い物体を偵察し、その情報をセトに伝える。

雷神の盾を持つ兵士《アイギス・メシェア》

セトの精鋭部隊に所属する兵士。蒼き稲妻を放つ|雷神の盾《アイギス》を装備する兵士。

黒い外骨格を持つ兵士

ハペプの子孫。

セトの精鋭部隊に所属し、黒々とした鎧とも違う何かを身に纏う異様な雰囲気を漂わせる兵士。

テム

ラァー(テュケ)の父にして、始まりの神。

旅の途中で、砲弾型の壺を拾う。

ネフティス

天真爛漫で美しい女性。ゲブとヌトの次女で、セトの妻。

アセト

農耕を司る美しい女性。ゲブとヌトの長女で、オシリスの妻。

ゲブとヌト

ホルスとテフヌトの兄弟。

ホルスのモースティア族進攻の際、まだ幼く、カルーンの都でホルスとテフヌトの帰りを待っていたが、その両親が亡くなると、親族であるテュケ(ラァー)が彼らを受け入れ、育ての親となった。

ホルスとテフヌト

モースティア族を統治し、モースティアの王となる。

カルーンへ凱旋の時に、カルーン軍と闘いになりホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまう。

セクメトの両親であり、ゲブとヌトの兄妹。

Chris Farrell(クリス・ファレル)

人類移住計画を担うUNIT-9のリーダー。

元軍人だが、心優しい側面もあり、それ故に人間らしい曖昧さをにじませながらUNIT-9を率いる。

TU (Terraforming of the Earth and Space union/地球圏再生計画組織)に所属。

Claudia Mitchell (クローディア・ミシェル)

生物学者で責任感の強い女性、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

凍結保存された卵子を、移住先のRoss 128b星へ運ぶ任務、”Oocyte cryopreservation”を密かに担う。。

カーター

パイロット兼、UNIT-9のサポートをするヒューマノイド。

”Adam and Eve Project”、クローニングされた男女の子供たちを、移住先のRoss 128b星へ連れてゆく任務を密かに担う。

オスカー

科学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

ハイブリッドタイプのヒューマノイドで、その身体には半永久機関のジェネレーターを備えており、最悪の場合、テラフォーミングを完遂させ、人として地球生命を再生するミッションを与えられている。

マクシミリアン・シュミット

宇宙物理学者の黒い肌をした大柄の男性。UNIT-9のサブリーダー。

マイヤー

生物学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

クローディアの義理の妹

Mobile Trooper/機動装甲 (鉛色の兵士)

UNIT-9に配備されている戦闘兵器

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体

Master Mētis(マスター・メーティス)

Ardyに転送された意識体。

ジェフリー博士専属のヒューマノイドで、その能力はヒューマノイドの最高位である、マスター・ゼウスを凌ぐ能力を持つと言われている。

セクメト

モースティア族の王 / ホルスとテフヌトの長女。
モースティア族を統治したホルスと共に、モースティアの地に移り住むが、程なくしてホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまい、幼くしてモースティア族を支配する王となる。

その両親を亡くした原因がテュケ(ラァー)にある事を知ると、テュケ(ラァー)を深く恨み、モースティア族を率いて、カルーンの都を襲う。

旅人 / 短剣を持つ術者 / ヌイ

モースティア族の血を継ぐ者。

美しい装飾が施され、精巧に造り上げられた白い鞘に収まった短剣を持つ、モースティア族の地を継ぐ神官。

幼き頃に、カルーン軍を率いて侵攻して来たホルスとの戦いに破れ、一族は後継の男児(ヌイ)を連れて、密かにモースティアを脱出し、再起を図る旅に出る。

その旅路で、男児(ヌイ)は成長し、立派な成人となると、自らの名前を大陸で伝えられている大地を意味する言葉、ヌイと名乗り、その腰にはマケの短剣を身に付け、モースティアの血を継ぐ神官へと成長してゆく。

成長したヌイは、ある時、求めていた知性を持つ種族、炎を操る者達に出会い、捕らえられてしまい、必死にそこから脱出したが、信頼を置いていた仲間達は亡くなり、孤独となるヌイ。

希望を失い、心神喪失のまま歩き出すと、砂漠の真ん中で助けられ目覚める。

そのヌイの目の前には、かつての敵、カルーンの都がそばにあった。

ヌーク

クパ族の長。

東南の大陸に近い対岸に暮らす、カルーン族に友好的な種族で、陸と海を生活の場とし農耕に長けている。

穏やかな雰囲気を感じさせ、顔は中心に折れ目があるひし形をし、まだら模様の皮膚をしている。

マトケリス

クパ族の重臣。

東南の大陸に詳しく、そこに住むラーム族と親交がある。

オシリスを”見えない何か”が住む地、ラムスに案内する。

スフィラ

クパ族の戦士。

ホルフレーと共にセトとの連絡隊の任務に就く。

ヤァー族 (アーダム / キ)

東の果てにある大陸で暮らす猿人類

ホバ族 (エレ / エバ / ミ)

北の大陸で暮らす、野生生物に近い猿人類。

砲弾型の壺を持ち、エレという謎の存在に助けられている。

アー族(長 アーマト)

東南の大陸、北東地域に暮らす猿人

ラーム族

東南の大陸に住む、ヤァー族より一回りも小さい、野生生物に近い種族。

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