第4話 炎を操る者達
文字数 3,940文字
ムメンは千の兵を率いて、東の辺境にあるとされる海に囲まれた大陸を目指した。
行軍の途中、ムメンはニーヴァが支配する種族の地を訪れ、その地で兵の休息とニーヴァへの忠誠を確認し、その種族の協力を得て更にその近隣の種族も平定しながら、その歩みを進めて行った。
しかし、未開の地に足を踏み入れるその行軍は困難を極め、訪れる地域特有の自然環境が彼らの行先を阻み、灼熱の砂が広がる大地を抜けると、荒廃した岩塊が広がる丘陵を登り、身が凍る程の寒さをしのぎながら幾つもの山々を越え、峡谷に進路を阻まれ、大河を迂回し、時として幾度かの見知らぬ種族からの襲撃を受けながらも行軍を続け、いつしか月が三度ほど満ちた頃になると、兵の数は三分の一が消え去っていた。
ムメンは、運河沿いの森にたどり着くと、疲弊した兵達をその地に残し、目の前の鬱蒼とした森へと分け入って行く。森の中は薄暗く、見知らぬ植物に行く手を阻まれながら行軍を進め、幾度かの陽の昇り陰りを繰り返した頃、薄っすらと目の前に明るい陽射しが見え始めてきた。
そして鬱蒼とした森が、青く開けた空と白い砂に変化すると、
―――!
ようやく海に囲まれた大陸の対岸に辿り着くことができた。
ムメンは、残った側近の精鋭十数名と共にさらに北へと歩みを進め、岸辺沿いを探索しながら、そこで暮らす種族を探し、四度目の月が満ちた時だった、ようやく水辺に暮らす種族を発見する事ができた。
その種族の体格は小さく細身で、全身が黒毛の体毛に覆われ、この地で原始的な生活をしているようだった。
ムメン達が彼らに近付くと、それに気が付いた数匹が激しい形相で威嚇をしながらムメン達の前に集まり出し、甲高い鳴き声で仲間を呼んだ。
しかし、しばらくの間、威嚇をしていた黒毛の生物達は、ムメンの大きさと、カルーン兵の屈強な姿に圧倒されると、徐々に威嚇をやめ、その場にいた多くは森の暗がりへと消えていった。
ムメン達は、動揺する事なく静かにその様子を伺っていたが、しばらくすると、黒毛の生物の数匹がムメンの方に近付いてきた。 彼らはムメンの前に来ると、ムメンの顔をじっと見つめ、何かに納得したのか、ぽつぽつと声を発し始めた。
しかし、それは言葉ではなく単純な
周囲が落ち着くと、ムメンはゆっくりと跪き、黒毛の種族達を静かに視界に収める。そして少しの間を置くと、前腕を上げ横にし、彼らに見せ攻撃の意思は無い事を伝えた。
黒毛の種族達はしばらくの間じっとそれを見つめ、ムメンの前にいる体格の良い生物が小さく数回うなずきながら、周囲に低い鳴き声で何かを伝えると、彼らはムメンの意志を理解したようで、周囲に集まった仲間達も座り始める。そして後ろにいた数匹が森の方へと顔を向け何かの合図をした。
すると森に隠れていた数匹が、両腕の中に果実らしき何かを抱えながら現れ、ムメンの方へと歩いてゆく。そしてムメンの前で立ち止まり、ムメンの顔を見ると、腕に抱えた物を差し出した。
ムメンは無表情ではあったが、彼らの顔を見つめながら、優しくその果実を手に取り、小さくうなずくと、その種族は後ろの兵達にも果実を運んで行った。
そうして海岸線に暮らす種族に受け入れられたムメンは、彼らから目的の大陸について情報を得る為に、その地に根拠地を設けセテトと名付け、彼らと共に生活をし始めた。ムメンは時間を掛け彼らの声を理解し、ある程度対話ができるまでになったある日、全身が体毛に覆われた細身の族長に、目的の大陸と、浮遊鉱石と、ニンゲンについて訊ねてみた。
彼らは、自らの集団をヤァーと呼び、元々あの大陸で暮らす種族で、外から来る者は殆どいなく、その地で静かに暮らしていた。
… ゴォォォォォ…
ある時、突然、激しい轟音と共に大地が大きく揺れ、炎と黒い煙が、ヤァー族達が暮らすその一帯を覆った。ヤァー族達はそれに驚き、一斉にその地から離れ、森の奥へと逃れその身を守った。
突然の出来事から陽が陰り、再び昇り始める頃になると、周囲の炎が弱まり、もうもうと立ち込めていた煙も徐々に薄くなってゆき、ある程度、視界が確保できるようになると、薄煙の中を元々暮らしていた場所へと戻っていった。
しかし、かつて暮らした森の光景はその姿を大きく変え、周囲は焼け爛れ、木々は何かになぎ倒されたかのように森は破壊され、黒い炭と灰色の煙に覆い尽くされていた。
ヤァー族達は周囲を警戒しながら、左右になぎ倒された木々に導かれるように、大地に刻まれた一筋の道を頼りに、煙の奥へと進んでゆくと、目の前に薄っすらと崖のような影が見え始めてきた。
かつてこの地に巨大な崖があったのかと、じっとそれを見つめるヤァー族達。
すると、崖の周囲でもうもうと立ち込める煙の奥から、黒い何かが見えてきた。
…
黒い何かはその影の色を濃くしながら、徐々に彼らに近付き、増えてゆく。
ヤァー族達の呼吸は荒くなり、その不気味な影を見つめ続け、仲間の数匹が後退りをすると、激しく声を荒らげ始めた。
「ギャア!」「ギャア!」
ヤァー族達は恐怖から、それぞれが声を出し、物を投げ、威嚇をし、警戒しながら体格の良い数匹の周囲に集まり始め、体格の良い数匹のヤァー族は互いに顔を見合うと、一匹のヤァー族が煙の奥にいる何かに近付いてゆく。
すると、
―ゴォォォ!!
突然、巨大な炎が煙の奥から吹き出てきた。
「ギャア!」「ギャア!」「ギャア!」
彼らは驚き一斉に周囲へと飛散すると、倒木の影に身を潜め様子を伺い、更に激しく声をあ荒げ、物を投げた。
煙の奥に潜む不気味な黒い影は、ヤァー族からの威嚇に動じることなく、彼らの方へ近付いてくる。
フッ! フッ!
怯えるヤァー族達。一匹の体格の良いヤァー族が大きな岩を持つと、不気味な黒い影に投げつけた。
―!
鈍い音が煙の奥から聞こえ、それを皮切りに周囲のヤァー族達も岩を投げ始めた。
黒い影達は、その動きを止め、煙の奥で揺らいでいる。
―Pi!
一瞬の間を置き突然、聞いた事も無い音が森に響き渡る。
―ゴォォォ!!
そして再び、炎が周囲に放たれた。
黒い影から放たれる炎は勢いを増し、彼らを追い立て、その炎から逃げ遅れた数匹が焼かれるとその場にうずくまり、それを助けようと数匹が焼かれた仲間に近付くが、炎に阻まれ近づけない。
ヤァー族の数匹が、炎の先にいる仲間を見つめながら、必死に近付こうとした時、彼らはその炎の先に、黒い影の姿を見た。
それは彼らが知り得ない見知らぬ種族で、見た事もない見姿をし、鈍い光を放ちながら、
ブゥゥゥゥ…ン
鋭く光る目で、彼らを睨みつけていた。
それら炎を操る者達から放たれる炎は勢いを増し、彼らは追い立てられ、ヤァー族達はその地から離れていった。
そして彼らは元々暮らしていたその地を諦め、近くで暮らす海辺の種族と合流し、彼らと共にその大陸から逃れて、この地に来たのである。
その後、彼らは対岸のこの地で暮らす事となり、かつて暮らした地と動かなくなった仲間を想い新しい暮らしを始め、しばらくしてからの事である。
ある時、突然、彼らの前に炎に焼かれた仲間の一匹が、瀕死になりながら帰ってきた。
彼は、炎を操る者達に捕まり、暗く狭い場所で寝起きをしていたらしく、時々物凄く明るい場所に連れられ、身体を縛られ痛い思いをし、彼らが放つ声も聴いていた。
炎を操る者達は、明るい場所ではその姿を変え、ヤァー族に近い姿をし、そして何度も
『 ニンゲン 』
と言う声を、捕らえられた仲間の顔を見ながら話していた。
彼は、身体が動くようになると、すきを見てその場から逃げ出し、薄暗く冷たい洞窟を駆けて行ったが、すぐに彼を捕らえようと、多くの炎を操る者達が集まり、追いかけてきた。
炎を操る者達は、追い掛けながら、激しい音と共に身体を斬り、何かが刺さる矢のような物を放ち、彼は意識が朦朧としながらも必死に逃げ、海を渡り、ようやく仲間の下へ帰る事が出来た。
しかし、彼はその傷からか、次の日の朝を迎えた頃には動かなくなっていた。
ムメンは、彼らの話している内容が、にわかに信じられなかったが、ヤァー族の性格を考えると偽りではなく本当の事なのであろうと納得し、それを信じる事とすると、動かなくなったヤァー族の仲間を弔う言葉を彼らに掛けた。
その弔いの後、ムメンは改めて彼らに浮遊鉱石を見せ、もう一度、浮遊鉱石について訊ねてみた。
「 これは あそこに あるか 」
彼らは、これと同じか判らないが、似たような物があの大陸にはあると答え、ただそれがあるのはアー族が暮らす大陸にある山々の麓の奥地、地中の奥深くで見た事があるらしく、そこはとても暑く、赤く煮え滾る川が流れ、時折、唐突に仲間が倒れ動かなくなる、
とても恐ろしい場所である事を伝えた。
ムメンはその話を聞き確信をした
「
ムメンはヤァー族にある事を条件に、浮遊鉱石の採掘に協力する事を求め、ヤァー族はそれを受け入れると、あの大陸を取り戻す事を約束する。
この世界に君臨する最強の種族として、
炎を操る者達、ニンゲン を排除する事を条件に
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遥かなる星々の物語
第二章 「邂逅の惑星~30億年の出会い」 第一部 「 君臨する者 」 END