第4話 それぞれの惑星へ

文字数 3,277文字


 人類の希望をつなげるために、それぞれの惑星へと分散する事を選んだクルー達。
 しかし、クリス達が向かう地球は、2,400年もの時間を失い、そこに生きる何かが存在するのかも分からない状況で、そんな地球に行く事を決めたクローディアに、クリスはその考えが何なのか確かめる為、クローディアを船内の奥に呼んだ。

「クローディア、ちょっといいか」
 クリスがクローディアに声を掛け、クローディアはそれを理解しているかのように無言でクリスの後についてゆき、二人は船内の奥にある小さなオペレーション・ルームに移動すると、暗がりでお互いの顔を見つめ、少し間多くと、クリスが話し始めた。

「クローディア」
「もし地球が死の星だったら どうする」
 クローディアはクリスをじっと見つめ、クリスの問いに答えた。
「その為に、クリスあなたがいるんでしょ」
 クリスは黙ってクローディアの目を見る。

「地下一万メートルにある、シェルター」
「方舟と言われる、あのシェルターが残っていれば、生き残れる可能性はあるわ」
「なんで知っている」
「…」
「ジェフリー博士が、可能性を一つに絞るとでも思って?」
「…」
「マクシミリアンが向かう、Ross 128b星は確実にテラフォーミングを進めている、生き残れる可能性が高い。しかし、地球はどうだ、2,400年もの時間が過ぎ、そのお前が言う方舟が存在しない可能性だってあるんだ」
 クリスがクローディアを見つめる。
「俺は、誰も失いたくはない」
「だが、誰かが選択をしなくてはいけない」
「しかし、地球を選択した者は…  」

「  死  」

「その可能性が含まれる」
「それでも、それを選択するお前の考えを聞きたい」

 クローディアはクリスの目を見る。
「…地球よ」
「方舟も、確率も、単なる事情よ。この選択しかない事は明白だわ」
 周囲の雑音が消えてゆく。

 クローディアの表情が変わり、目の奥に少し力が入ると、真摯な眼差しで更にクリスを見つめる。
「でもね、クリス、そんな事じゃないのよ、私が地球を選択したのは」
「私は今回のミッションに、私の全てを賭けている」
「私は地球に生きる、命たちを守りたいのよ」
「どんな状況であっても、彼らの命を救う事、繋げる事ができれば私が生きている意味があるのよ」

「それに、地球が死の星でも、私がそこに残れば…」

「クローディア!」
 クリスの目が強張り、クローディアの肩を掴む。
 
「クローディア、それ以上言うな、それ以上…」
「俺たちがそうなる前に、マクシミリアン達が迎えに来てくれるさ」
「それに、それを選択しない方法を考えよう」
 そしてクローディアの気持ちを受け止め、そっと抱き寄せると、地球行きを決心した。



「クローディア、地球で生還する確率を上げる」
「俺とオスカーで事前調査し、お前に渡す。そのデータから生物が生きていける環境に必要な情報を出してくれ」
「わかったわ、でもオスカーは今回の決定は納得しているの」
「オスカーとは事前に取り決めをしている、互いに協力する事を」
 クリスはそう言うと、オスカーを呼び、しばらくしてクリス達が居るオペレーション・ルームにオスカーが現れると、同じく意思を確認し、オスカーは軽くうなずく。
 クローディアは、そのオスカーの様子に少し違和感を感じていたが、
「オスカー、クローディア、オペレーションの検討を始めるぞ」
 クリスの言葉でかき消されてしまった。

 その頃、マクシミリアン達のRoss 128b星へ向かうチームでも準備が進められ、コールドスリープによるリスクを避ける為に、マクシミリアンとマイヤーが、眠る事なくそのまま船体のオペレーションを続け、年齢が高いアーネスト博士と、科学者のアートンがコールドスリープに入る事となった。

 その後、それぞれのチームは、互いに向かう惑星の状況調査を進めたが、双方の惑星から来るべき返信が無く、船内の空気が不安に包まれてゆく。
 クリスはマクシミリアンの状況を確認する為に、マクシミリアンが作業を進めるオペレーション・ルームに向かい、声を掛けた。
「マックス、その後、通信はどうだ」
「駄目だな、色々な手を尽くしたが、レスポンスが返ってくる気配がない」
「それとは別に観測は続けているが、地球と同じ環境が生成されている事はわかっているし、人工物らしき構造物が地表面にある事も確認しているが、それが何なのかはわからない」
「それでも返信は無しか」
 クリスが訝しげな表情で、目の前のモニターをみつめる。
「地球の方はどうだ」
「こっちも駄目だな、状況は同じだ。救いは環境が戻っている事くらいだな」
 マクシミリアンが地球の情報が表示されているパネルをクリスに渡す。
「2,400年で環境が改善されたのか…」
「わからんな、今は観測データのみの状況だからな、行ってみなければわからんさ」
「せめて、トランスファー(素粒子転送)ができればな…」
 マクシミリアンが少し諦め気味な表情を浮かべながら、小さく呟いた。
「そうか! カーターか」
 クリスがマクシミリアンの言葉を聞き、何かに気が付いたように声を上げた。

「マックス、カーターのデータが中継拠点に残っているんじゃないか」
「クリス、カーターのデータをどうするんだ」
「中継拠点からArdy(人型の分身体)トランスファー(素粒子転送)させ、現地調査をさせる事ができる」
「確かにな、でもデータはどのタイミングかわからないぞ、かなり古い可能性もある」
「まぁ、でもやってみる価値はあるか」
 そう言うとマクシミリアンは近隣の中継拠点を検索し始めた。

 しかし、

「… クリス駄目だな、中継拠点からの応答がない」
「機器の故障か」
「俺は専門家じゃないからな、詳しくはわからん」
(イェーガーかサンダースがいればな…)

「このブロックにデータは残っていないのか」
「主要なデータはメインブロックに乗せられていたからな… あるのはコントロール用のAIのみだ」

カタカタカタカタ…
 マクシミリアンはコアブロックのデータベースを探り始めた。
 しばらくの間、データベースを探ったがカーターのデータは無く、在ったのはこの船の主幹AIのみだった。
 しかし、マクシミリアンはそのデータベースの奥に厳重にロックされた、奇妙なブロックを発見し、
「こ、これは…」
「クリス、ちょっと来てくれ」
「どうしたマックス」
「お前、このデータは知ってるか」
 マクシミリアンは厳重にロックされたブロックを表示し、クリスに見せた。

【 Master Metis 】Strictly confidential AREA
「マスター・メーティス…」
「これは、ジェフリー博士専属のヒューマノイド」
「マスター・メーティスのデータか…」
 クリスは少し困惑した表情を浮かべ、
「なんでここに在るんだ」
「…わからん」
「少し探ってみる、時間をくれるか」
「あぁ、オペレーションの始動を遅らせない程度にしてくれよ」
 クリスがその場を離れると、マクシミリアンはデータの解析を始めた。
カタカタカタカタ…

数日が過ぎ

ゴォォォ…
「よし、これから分かれて、お互いのミッションを始める」
「それぞれ準備はいいか」
 クリス達の地球へ向かうチームと、マクシミリアン達のRoss 128b星へ向かうチームが、別々のミッションへ旅立つ時が来た。
 それぞれのチームのクルーは、自分が乗る船に乗船し、クリス達の地球へ向かうチームは、コアブロックに搭載されている小型探査機に搭乗し、マクシミリア達のチームはコアブロックに残り、クリス達の小型探査機を射出する準備に入っていた。
「射出シークエンスを確認、T-30からカーターのAIがオペレーションをおこなう」
「コアブロックのブースト調整は、マックス頼むぞ」

ゴォォォ…

『これよりカウントダウンを始めます』
『小型探査機、射出まで30 seconds』
「マクシミリアン!上手く押し出せよ!」



20sec



15sec



10sec
9
8
7
6
5




ZERO! Launch!!
―――ゴッ!! 



クリス達を乗せた小型探査機は、美しいプラズマの閃光と共に、マクシミリアンのコアブロックに射出され、

地球へ向かい、旅立っていった。
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登場人物紹介

ニーヴァ(テュケ)/ Neva-Ra

太陽神

原始文明、カルーン文明の王

カフラ / Kafra-Ra

純粋で心優しき性格で、カルーン族の次世代の王と期待されている重臣。

ゲブとヌトの長男

ムメン / Mumen-Ra

カルーン軍を治める将。先端が二股に分かれた|巨大な槍《ウアス》を持つ巨人で、他部族の心の内を読む、バイタル・トレーサー《生体追跡者》

ゲブとヌトの次男。

Montu(モントゥ)

太陽神ラァーの護衛。一時オシリスを守る旅の護衛として東南の大陸に旅に出る。

ホルフレー

モントゥが一番に信頼を置く、愛弟子(息子)。

オシリスの命によりクパ族の戦士と共に、セトとの連絡隊の任務に就き、

その途中で、翼竜に乗る種族と出会い、翼竜を操り根拠地フシに辿り着いた。

ネイト

武器を考案、製造する事を得意とする、知性の高いカルーン軍の重臣

ウプウアウト

セトの右腕、東南の大陸全土を周り偵察を行い、ホルフレーが乗る翼竜に乗り根拠地フシに戻って来た。

カブラル

ウプウアウトの側近。事前に黒い物体を偵察し、その情報をセトに伝える。

雷神の盾を持つ兵士《アイギス・メシェア》

セトの精鋭部隊に所属する兵士。蒼き稲妻を放つ|雷神の盾《アイギス》を装備する兵士。

黒い外骨格を持つ兵士

ハペプの子孫。

セトの精鋭部隊に所属し、黒々とした鎧とも違う何かを身に纏う異様な雰囲気を漂わせる兵士。

テム

ラァー(テュケ)の父にして、始まりの神。

旅の途中で、砲弾型の壺を拾う。

ネフティス

天真爛漫で美しい女性。ゲブとヌトの次女で、セトの妻。

アセト

農耕を司る美しい女性。ゲブとヌトの長女で、オシリスの妻。

ゲブとヌト

ホルスとテフヌトの兄弟。

ホルスのモースティア族進攻の際、まだ幼く、カルーンの都でホルスとテフヌトの帰りを待っていたが、その両親が亡くなると、親族であるテュケ(ラァー)が彼らを受け入れ、育ての親となった。

ホルスとテフヌト

モースティア族を統治し、モースティアの王となる。

カルーンへ凱旋の時に、カルーン軍と闘いになりホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまう。

セクメトの両親であり、ゲブとヌトの兄妹。

Chris Farrell(クリス・ファレル)

人類移住計画を担うUNIT-9のリーダー。

元軍人だが、心優しい側面もあり、それ故に人間らしい曖昧さをにじませながらUNIT-9を率いる。

TU (Terraforming of the Earth and Space union/地球圏再生計画組織)に所属。

Claudia Mitchell (クローディア・ミシェル)

生物学者で責任感の強い女性、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

凍結保存された卵子を、移住先のRoss 128b星へ運ぶ任務、”Oocyte cryopreservation”を密かに担う。。

カーター

パイロット兼、UNIT-9のサポートをするヒューマノイド。

”Adam and Eve Project”、クローニングされた男女の子供たちを、移住先のRoss 128b星へ連れてゆく任務を密かに担う。

オスカー

科学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

ハイブリッドタイプのヒューマノイドで、その身体には半永久機関のジェネレーターを備えており、最悪の場合、テラフォーミングを完遂させ、人として地球生命を再生するミッションを与えられている。

マクシミリアン・シュミット

宇宙物理学者の黒い肌をした大柄の男性。UNIT-9のサブリーダー。

マイヤー

生物学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

クローディアの義理の妹

Mobile Trooper/機動装甲 (鉛色の兵士)

UNIT-9に配備されている戦闘兵器

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体

Master Mētis(マスター・メーティス)

Ardyに転送された意識体。

ジェフリー博士専属のヒューマノイドで、その能力はヒューマノイドの最高位である、マスター・ゼウスを凌ぐ能力を持つと言われている。

セクメト

モースティア族の王 / ホルスとテフヌトの長女。
モースティア族を統治したホルスと共に、モースティアの地に移り住むが、程なくしてホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまい、幼くしてモースティア族を支配する王となる。

その両親を亡くした原因がテュケ(ラァー)にある事を知ると、テュケ(ラァー)を深く恨み、モースティア族を率いて、カルーンの都を襲う。

旅人 / 短剣を持つ術者 / ヌイ

モースティア族の血を継ぐ者。

美しい装飾が施され、精巧に造り上げられた白い鞘に収まった短剣を持つ、モースティア族の地を継ぐ神官。

幼き頃に、カルーン軍を率いて侵攻して来たホルスとの戦いに破れ、一族は後継の男児(ヌイ)を連れて、密かにモースティアを脱出し、再起を図る旅に出る。

その旅路で、男児(ヌイ)は成長し、立派な成人となると、自らの名前を大陸で伝えられている大地を意味する言葉、ヌイと名乗り、その腰にはマケの短剣を身に付け、モースティアの血を継ぐ神官へと成長してゆく。

成長したヌイは、ある時、求めていた知性を持つ種族、炎を操る者達に出会い、捕らえられてしまい、必死にそこから脱出したが、信頼を置いていた仲間達は亡くなり、孤独となるヌイ。

希望を失い、心神喪失のまま歩き出すと、砂漠の真ん中で助けられ目覚める。

そのヌイの目の前には、かつての敵、カルーンの都がそばにあった。

ヌーク

クパ族の長。

東南の大陸に近い対岸に暮らす、カルーン族に友好的な種族で、陸と海を生活の場とし農耕に長けている。

穏やかな雰囲気を感じさせ、顔は中心に折れ目があるひし形をし、まだら模様の皮膚をしている。

マトケリス

クパ族の重臣。

東南の大陸に詳しく、そこに住むラーム族と親交がある。

オシリスを”見えない何か”が住む地、ラムスに案内する。

スフィラ

クパ族の戦士。

ホルフレーと共にセトとの連絡隊の任務に就く。

ヤァー族 (アーダム / キ)

東の果てにある大陸で暮らす猿人類

ホバ族 (エレ / エバ / ミ)

北の大陸で暮らす、野生生物に近い猿人類。

砲弾型の壺を持ち、エレという謎の存在に助けられている。

アー族(長 アーマト)

東南の大陸、北東地域に暮らす猿人

ラーム族

東南の大陸に住む、ヤァー族より一回りも小さい、野生生物に近い種族。

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