第3話 蒼き稲妻 赤き猛火

文字数 2,431文字


 この惑星に新たに誕生した原始文明、カルーンの長、テュケは祭事の後、その名をニーヴァとし、
最強種族の王として、この世界に君臨した。

 ニーヴァは浮遊する大地(イレティエウ)のそばに新たな神殿、水の城(バビロン)を建築し、そこに数人の側近と共にその身を置き、多くの種族に関係する様々な祭事を執り行っていた。
 その祭事の中で最も重要なのが、浮遊する大地(イレティエウ)から放たれる光による、蒼き稲妻の祭事であった。

 その光景は、光りが空と大地を貫き、蒼白く光る稲妻が渦となり、浮遊する大地(イレティエウ)全体を覆う、普通の生物が出来得る業とは思えない祭事が執り行われ、それを可能にしていたのが、浮遊する大地(イレティエウ)の近くで採掘される、蒼色に輝く浮遊する小さな鉱石であった。
 その鉱石は、浮遊する大地(イレティエウ)に鉱石の欠片を近づけると激しく反応し、蒼白い稲妻を放つ性質があり、少量であれば、浮遊する大地(イレティエウ)と同様に浮く事もでき、大量に使用すれば岩も砕く破壊力を得る事ができた。
 ニーヴァはその蒼白い稲妻を様々な用途に使用したが、彼が最も求めた蒼き稲妻の祭事では、蒼白く光る稲妻を、空の更に上、彼らには認識できていない、宇宙空間へ放つ事を望んでおり、その為ニーヴァは大地に眠る浮遊鉱石を求め、多くの種族を集め統治し、その採掘に従事させていたのである。

 その浮遊鉱石が多く存在する場所とは、大地の奥深くにある岩盤とマントルが交じり合う、灼熱の奥底にそれは存在していた。
 しかしそこは、かつてこの世界の支配者であった種族、黒い鋼の外骨格を持つ種族(ハペプ)が眠る場所でもあった。
 その地中奥深くに眠る最強の種族は、火山性ガスをその身に取り込み、その身に近付く者があれば、体内から放たれるガスの燃焼を持って相手を焼き払い、その身を傷付けようとする者があれば、強固な外骨格で身を守り、鋭利に研ぎ澄まされた骨格の一部で相手を薙ぎ払う。数匹の討伐隊であれば、その腕の一振りで絶命させる事の出来る程の破壊力を持ち、地上の生物では到底太刀打ちできる生物では無かった。


 ニーヴァは、その最強の種族が眠る地中奥深くに多くの討伐隊を送り、その種族と鉱石を持ち帰る事を命じたが、そのほとんどは戻ってくる事はなかった。
 討伐隊を率いていたニーヴァの息子ムメンは、その黒い鋼の外骨格を持つ最強の種族(ハペプ)を排除する為に様々な対策を講じ、民衆を訓練し、道具を進化させ、武具を鍛え上げ、黒い鋼の外骨格を持つ種族(ハペプ)を排除する最強の戦闘集団を生み出した。

 彼らは、鉱物を溶かし融合させ、単純な鋳型から鋳造、鍛造と武具を鍛え上げ、それらに浮遊鉱石を組み合わせる事で、様々な装備を造り出し、盾と刀に浮遊鉱石を使い、闘いの際に二つを合わせると蒼き稲妻でその身を守る装備、雷神の盾(アイギス)を造りだした。
 そして、武具以外でも、中程度の浮遊鉱石を使い、闘いの際に重ね合わせる事で激しい(いかづち)を放つ武器、雷神の雷(トールハンマー)と呼ばれる中長距離砲も開発。それら訓練された戦闘集団と軍備を整え終えると、黒い鋼の外骨格を持つ種族(ハペプ)を排除する事に成功した。
 黒い鋼の外骨格を持つ種族(ハペプ)の周囲には、様々な鉱石が溢れ、プラチナやチタン、タングステンと共に、小さく僅かな浮遊鉱石が採掘され、ムメンはそれらをニーヴァへと献上した。

 こうして浮遊鉱石を手に入れ、その副産物である地上には無い強靭な物質と、最強の戦闘集団をも我が物としたニーヴァはその覇権を拡大し、最強の文明(カルーン)の王として君臨していたが、浮遊鉱石が存在する地域は限られ、採掘される量も少なく、ニーヴァが求める軍備と祭事に必要な量は、確保できていなかった 。

 ある時、ニーヴァの神殿に見知らぬ種族の民が兵に囲まれながら入ってきた時の事である。
 その民は東の辺境の地から来た旅人だと名乗り、未開の地を求め西にその歩みを進めていた途中でこの地に立ち寄ったらしく、その見かけない見姿の為に兵達が捕らえ、ニーヴァの下へ連れて来たのである。
 しかしニーヴァは、その旅人を見ると少し考え、その旅人が浮遊鉱石の手掛かりを知り得ているのではないかと、それを尋ねてみた。
 旅人は、少し戸惑いながらニーヴァの問いに応えると、蒼く輝く鉱石が、旅人の故郷から更に東にある海に囲まれた大陸にある事を伝え、その大陸は豊富な資源に恵まれ、気候は穏やかで空は常に青く開いている広大な大陸で、多くの種族が暮らす地である事を伝えた。
 ニーヴァはそれを聞くとムメンを呼び、ムメンがニーヴァの下へ現れその前で跪くと、旅人にもう一度、浮遊鉱石について問い、旅人はムメンにも東の大陸について話をした。
 ムメンはその話を聞き終えると頷き、ニーヴァに顔を向け、
それを見たニーヴァは何かを理解したかのように、ムメンにその大陸へ向け遠征隊として向かう事を命じた。

しかし、旅人がそれを聞くと、

「お止めになった方が良い、あの大陸は赤き猛火を操る屈強な種族がその地を治めており、その種族が放つ赤き猛火は、そこにある全てを焼き払う恐ろしい種族です」
「我々はあれを  ニンゲン  と言います」

 ニーヴァは、己のカルーン文明以外に強い戦闘能力を持つ種族がこの世界にいる事に驚き、更にその集団が青き稲妻、雷神の雷(トールハンマー)に匹敵するであろう武器を持ち合わせている事にも驚愕と共に、興味を引かれ、ニーヴァの傍で話を聞いていたムメンも、その最強の集団に興味を示し、千の先発隊を編成し、その大陸に向かう事をニーヴァに進言した。

 ニーヴァはそれを聞くと、神殿の簡素な椅子から立ち上がり、改めてムメンに命じた。

「東の大陸を制圧し、その蒼き鉱石と、赤き猛火を   我が下へ 」

 そして、その三日後、遠征の準備を終えたムメンは千の兵を率いて、浮遊鉱石とニンゲンを求めて東の大陸へと向かって行った。

 その後、ニーヴァから解放された旅人は、都の外れにある砂で出来た高台からムメンの進軍を見つめ、ムメンの軍隊が東に消えてゆくのを確認すると、
振り返り西に向け歩き出した。

「 クククク 」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ニーヴァ(テュケ)/ Neva-Ra

太陽神

原始文明、カルーン文明の王

カフラ / Kafra-Ra

純粋で心優しき性格で、カルーン族の次世代の王と期待されている重臣。

ゲブとヌトの長男

ムメン / Mumen-Ra

カルーン軍を治める将。先端が二股に分かれた|巨大な槍《ウアス》を持つ巨人で、他部族の心の内を読む、バイタル・トレーサー《生体追跡者》

ゲブとヌトの次男。

Montu(モントゥ)

太陽神ラァーの護衛。一時オシリスを守る旅の護衛として東南の大陸に旅に出る。

ホルフレー

モントゥが一番に信頼を置く、愛弟子(息子)。

オシリスの命によりクパ族の戦士と共に、セトとの連絡隊の任務に就き、

その途中で、翼竜に乗る種族と出会い、翼竜を操り根拠地フシに辿り着いた。

ネイト

武器を考案、製造する事を得意とする、知性の高いカルーン軍の重臣

ウプウアウト

セトの右腕、東南の大陸全土を周り偵察を行い、ホルフレーが乗る翼竜に乗り根拠地フシに戻って来た。

カブラル

ウプウアウトの側近。事前に黒い物体を偵察し、その情報をセトに伝える。

雷神の盾を持つ兵士《アイギス・メシェア》

セトの精鋭部隊に所属する兵士。蒼き稲妻を放つ|雷神の盾《アイギス》を装備する兵士。

黒い外骨格を持つ兵士

ハペプの子孫。

セトの精鋭部隊に所属し、黒々とした鎧とも違う何かを身に纏う異様な雰囲気を漂わせる兵士。

テム

ラァー(テュケ)の父にして、始まりの神。

旅の途中で、砲弾型の壺を拾う。

ネフティス

天真爛漫で美しい女性。ゲブとヌトの次女で、セトの妻。

アセト

農耕を司る美しい女性。ゲブとヌトの長女で、オシリスの妻。

ゲブとヌト

ホルスとテフヌトの兄弟。

ホルスのモースティア族進攻の際、まだ幼く、カルーンの都でホルスとテフヌトの帰りを待っていたが、その両親が亡くなると、親族であるテュケ(ラァー)が彼らを受け入れ、育ての親となった。

ホルスとテフヌト

モースティア族を統治し、モースティアの王となる。

カルーンへ凱旋の時に、カルーン軍と闘いになりホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまう。

セクメトの両親であり、ゲブとヌトの兄妹。

Chris Farrell(クリス・ファレル)

人類移住計画を担うUNIT-9のリーダー。

元軍人だが、心優しい側面もあり、それ故に人間らしい曖昧さをにじませながらUNIT-9を率いる。

TU (Terraforming of the Earth and Space union/地球圏再生計画組織)に所属。

Claudia Mitchell (クローディア・ミシェル)

生物学者で責任感の強い女性、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

凍結保存された卵子を、移住先のRoss 128b星へ運ぶ任務、”Oocyte cryopreservation”を密かに担う。。

カーター

パイロット兼、UNIT-9のサポートをするヒューマノイド。

”Adam and Eve Project”、クローニングされた男女の子供たちを、移住先のRoss 128b星へ連れてゆく任務を密かに担う。

オスカー

科学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

ハイブリッドタイプのヒューマノイドで、その身体には半永久機関のジェネレーターを備えており、最悪の場合、テラフォーミングを完遂させ、人として地球生命を再生するミッションを与えられている。

マクシミリアン・シュミット

宇宙物理学者の黒い肌をした大柄の男性。UNIT-9のサブリーダー。

マイヤー

生物学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

クローディアの義理の妹

Mobile Trooper/機動装甲 (鉛色の兵士)

UNIT-9に配備されている戦闘兵器

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体

Master Mētis(マスター・メーティス)

Ardyに転送された意識体。

ジェフリー博士専属のヒューマノイドで、その能力はヒューマノイドの最高位である、マスター・ゼウスを凌ぐ能力を持つと言われている。

セクメト

モースティア族の王 / ホルスとテフヌトの長女。
モースティア族を統治したホルスと共に、モースティアの地に移り住むが、程なくしてホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまい、幼くしてモースティア族を支配する王となる。

その両親を亡くした原因がテュケ(ラァー)にある事を知ると、テュケ(ラァー)を深く恨み、モースティア族を率いて、カルーンの都を襲う。

旅人 / 短剣を持つ術者 / ヌイ

モースティア族の血を継ぐ者。

美しい装飾が施され、精巧に造り上げられた白い鞘に収まった短剣を持つ、モースティア族の地を継ぐ神官。

幼き頃に、カルーン軍を率いて侵攻して来たホルスとの戦いに破れ、一族は後継の男児(ヌイ)を連れて、密かにモースティアを脱出し、再起を図る旅に出る。

その旅路で、男児(ヌイ)は成長し、立派な成人となると、自らの名前を大陸で伝えられている大地を意味する言葉、ヌイと名乗り、その腰にはマケの短剣を身に付け、モースティアの血を継ぐ神官へと成長してゆく。

成長したヌイは、ある時、求めていた知性を持つ種族、炎を操る者達に出会い、捕らえられてしまい、必死にそこから脱出したが、信頼を置いていた仲間達は亡くなり、孤独となるヌイ。

希望を失い、心神喪失のまま歩き出すと、砂漠の真ん中で助けられ目覚める。

そのヌイの目の前には、かつての敵、カルーンの都がそばにあった。

ヌーク

クパ族の長。

東南の大陸に近い対岸に暮らす、カルーン族に友好的な種族で、陸と海を生活の場とし農耕に長けている。

穏やかな雰囲気を感じさせ、顔は中心に折れ目があるひし形をし、まだら模様の皮膚をしている。

マトケリス

クパ族の重臣。

東南の大陸に詳しく、そこに住むラーム族と親交がある。

オシリスを”見えない何か”が住む地、ラムスに案内する。

スフィラ

クパ族の戦士。

ホルフレーと共にセトとの連絡隊の任務に就く。

ヤァー族 (アーダム / キ)

東の果てにある大陸で暮らす猿人類

ホバ族 (エレ / エバ / ミ)

北の大陸で暮らす、野生生物に近い猿人類。

砲弾型の壺を持ち、エレという謎の存在に助けられている。

アー族(長 アーマト)

東南の大陸、北東地域に暮らす猿人

ラーム族

東南の大陸に住む、ヤァー族より一回りも小さい、野生生物に近い種族。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み