第2話 原始文明の王

文字数 3,469文字


目が霞む程の眩い光を放つそれは、多種多様な生物達の目前に存在し、体をそる程の上空に浮遊していた。

それは青い色の光に包まれ、黄金色の光(サイマティクス)を放ちながら空に漂い、
この世の光景とは思えない、神々しい存在感を生物達に与え、
生物達はただそれを見つめ、それが当たり前かの様に受け入れ、

なぜそれがそこに在るのか
なぜそれは浮いているのか
なぜそれは光り輝くのか

など疑問を持つ事はなく、
それは受け入れるべき必然であり、
自分達を支配する存在であるとその生物達は、本能的に感じていたのである。

 その浮遊する大地の周囲には先端が丸い洗練された棒( セケム)を持つ種族が取り囲み、その種族は時折その浮遊する大地の前で祭事を行い、それを崇める多くの種族達を支配し、その地を統治しながら彼らに様々な作業に従事させていた。

ある部族は農業に従事し、穀物を栽培し
ある部族は道具を造り、必要な部族に与え
ある部族は体を使い、その土地の構造物を構築していた

 洗練された種族は、その地で多くの種族を統治しながら文明的な社会を構築し、彼らが作業に従事できるよう生活を安定させ、争いごとや物資不足など問題が起きないよう管理、教育をしていた。
 彼らは学問を発達させ、数学による統計を発明し、天文学を用いて年間の気候を予測することで、農業を発展させ、材料を研究し新たな道具を造り出していた。
 そうしてその種族は発展させた学問を活かしながら勢力を拡大し、神々しい光を放つ浮遊する大地を中心に、社会を構築していたのである。

 しかし、なぜその洗練された種族がそこまでの知性を得る事ができたのかは謎であり、
唯一の手掛かりは、光を放つ浮遊する大地と、洗練された種族を治める長と、その長が持つ祭壇の壺であった。
 その長は初老であったが、長髭を生やし、身なりを整え、長らしい風格を持ち得ており、
常に堅牢に建てられた建物の中で簡素な椅子に座り、石板に向かい何かの作業をしていた。

 ある時、大地を照らしていた陽が陰り、空が赤色に染められた頃、その建屋の中に洗練された棒(セケム)を持つ者が中に入り、建屋の奥に座る長の方へ歩いてゆく。
 その洗練された棒(セケム)を持つ者が、長が座る椅子の前に辿り着くと跪き、頭を下げ長に話し掛けた。

「テュケ様、神殿への塔が完成致しました、明日にでも上陸できます」

「わかった」
「例の物は出来ておるか」

「はい、多くの時間と犠牲を費やしましたが、準備は出来ております」

「そうか、それでは陽が二度昇った時の早朝に、儀式を執り行う」
「祭事の準備をせよ」

 長に話しかけた者は、無言でうなずくと静かに立ち上がり、そしてその建屋を出て行った。

「…ようやく、その扉に手を掛けられるか…」
イレティエウ(浮遊する大地)に降り立つ塔と、我が身を守るネスウト(武具と武器)、それを持ってしてあの大地を手に入れる事が出来る」

 長はゆっくり立ち上がり、背後にある祭壇の様な棚にその身を向けると、しばらくそれを見つめ、また作業に戻っていった。

 その祭壇の様な棚には、砲弾型の壺らしき物が幾つも立てられていた。







 早朝の肌寒い空気に包まれる砂漠の大地に、陽が昇り始める。
 差し込む陽射しが砂の上の構造物を照らし、濃い影が砂漠の造形を美しく浮かび上がらせると、この地で暮らす種族、全ての民が、浮遊する大地の前に集まってきた。

 神々しく光り輝く浮遊する大地の下には、小高く盛り上げられた祭壇のような土の台が造り上げられ、それらを囲むように、浮遊する大地にもとどく程の高さのある、鋭利にとがった三本の塔が聳え立ち、その周囲に集まった民衆は否が応でもその浮遊する大地の存在感に圧倒され、敬わざる得ない雰囲気を漂わせていた。

 しばらくするとそこへ、洗練された種族と共に、黒い武具と武器(ネスウト)を身に纏う長が、何体かの先端が丸い洗練された棒( セケム)を持つ種族を従えながら祭壇の前に現れた。
 長達は民の目の前にある祭壇の方へ歩いてゆき、その前に造られた緩やかな坂を上り、祭壇の上に到達すると、黒い武具と武器(ネスウト)を身に纏う長は、厳威を漂わせながら、祭壇の中心へと歩みを進め、
その後に続いていた、先端が丸い洗練された棒( セケム)を持つ種族達は、長の後ろへと向かい、祭壇の後端へと並び始める。
 彼らが祭壇の中心で隊列を整え終えると、ゆっくりとその身を民衆の方に向け、祭壇の上からその場に集まった民を、その眼下に収めた。
 その祭壇の下には、何やら異様な雰囲気を漂わせる生物らしき物体が横たわり、その体は激しく焼け爛れ、動く事は無く、既に絶命している様であった。

 太陽が徐々に昇ってゆく。

 浮遊する大地(イレティエウ)の背後に、昇り始めた太陽が隠れだし、祭壇の前はその陰で覆い尽くされてゆくと、浮遊する大地(イレティエウ)の放つ黄金の輝きが、祭壇の上に立つ長のみを照らし出し、長の身体の周囲は、眩いばかりにその全身が黄金色に輝いていた。
 祭壇の前に集まっている種族達はその、この世の物とは思えぬ光景に目を奪われ、じっと黄金色に輝く長を見つめ続けている。
 周囲は静寂に包まれ、冷気が緊張感と、微細な振動(サイマティクス)を伝えていた。
 しばらくすると、浮遊する大地(イレティエウ)の上に、隠れていた太陽が再び姿を現し始め、祭壇にその激しく強烈な陽の光が差し込みだすと、その陽射(ひざ)しに照らされた長は、その身に収めた黒い武器(ネスウト)を鞘から抜き出し、

―ガッツ!
自らの前に突き立てた。

「 民よ! 」

「この、ネスウト(武具と武器)は、かつてこの世界を治めた王族の子孫から造り出した
最強の装備である」

―ザッツ
長は、黒い武器(ネスウト)で横たわる生物を差し、

「我々は、この王族の子孫を倒し、それが守りし鉱物をも手に入れた」

民衆の視線が長に集まる。


「 刮目せよ! 」


「この最強の王族を排除した我々は、この時より」


「この地を治める、最強の種族となる!」


―ガッツ!
黒い武器(ネスウト)を祭壇に突き立てる

長が、後ろを振り向き、浮遊する大地を見つめると、
再び、民衆にその眼光を向けた。


「 そして、 このイレティエウ(浮遊する大地)を  我が足元に治め 」

「 我々は  この世界の  新たな 」



「 支配者となる! 」



この世界を支配する原始文明(カルーン)(Qarunian)の誕生である。



 黒い武具(ネスウト)を身に纏い、長髭を生やした洗練された種族の長は、神々しく輝く浮遊する大地(イレティエウ)を背に、かつてこの世界を支配した種族をその足元に治め、民をその眼下に見下ろし、
この世界を支配する最強の種族である事を宣言した。

 その光景を目の当たりにしたその場にいる民衆は、そのこの世の物とは思えない凄烈(せいれつ)なる圧倒的な光景に、民の心は支配されてゆく。

 黒い武具(ネスウト)を身に纏う支配者は祭壇から民達を一時、静かに見つめると、その身をひるがえし、背後にある中心の塔へと歩き出す。
 そして、塔の袂へ辿り着くと、再び民の方へ振り返った。

その時、

パァァァァァァ…
 突然、支配者の足元が光り出し、眩い光を放ち始めた。

 その光は徐々に蒼白い色で輝き出すと渦となり、その蒼き渦は黒い武具(ネスウト)を纏う支配者を包みこんでゆき、蒼白く輝く光に包まれた支配者は蒼く輝きながら、ゆっくりと上昇を始めた。

「 おぉぉぉぉ … 」
 その場に集まった民衆から声が溢れ、あまりにも現実離れをしたその光景に、その場に集まった生物達の身体から自然と力が抜けてゆき、次々とその身を落とし、ひざまずいてゆく。
 黒い武具(ネスウト)を身に纏う支配者は更に上昇を続け、塔の先端、浮遊する大地(イレティエウ)の上部に到達するとその上昇が止まり、

―ガチャ
ゆっくりとその歩を浮遊する大地(イレティエウ)に向けると、
黒い武具(ネスウト)を身に纏う支配者は、浮遊する大地(イレティエウ)に、降り立った。

「 おぉぉぉぉ!! 」
 民衆は思わず声を上げ、その光景に引き付けられてゆく。

 黒い武具(ネスウト)を身に纏う支配者は、その大地の中心へと向かってゆき、高台に上がると、
民衆に向けその身を振り返り、


―ガッツ!
黒い武器(ネスウト)をその大地に突き立て


その武器を天に向け振上げた


「 民よ! 」


「 我こそ 神であり 全てを導く者である! 」


「 我の(しもべ)となり 」


「 永遠の都(カルーン)を築き、 その扉を 」



「 開け! 」



その神と名乗る支配者の後ろには、太陽が燦然と輝き、
民衆はその凄烈(せいれつ)なる圧倒的な存在感に心奪われ、
自然とある言葉がこぼれ落ちていった。


「 … ニー ヴァ… 」


その小さな声は徐々に広がり、集合し、大きくなり、

「 ニー… 」「 ヴァ… 」「 ニー… 」「 ヴァ… 」


そして、その言葉を強く発するようになった。


「 ニー ヴァ! 」


「ニー ヴァァ ァァァァァァァァァ!!!!!」



それ以降、黒い武具(ネスウト)を身に纏う支配者は、


『 ニー ヴァ 』


と呼ばれるようになり、


この世界に新たに誕生した最強種族の王として君臨した。
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登場人物紹介

ニーヴァ(テュケ)/ Neva-Ra

太陽神

原始文明、カルーン文明の王

カフラ / Kafra-Ra

純粋で心優しき性格で、カルーン族の次世代の王と期待されている重臣。

ゲブとヌトの長男

ムメン / Mumen-Ra

カルーン軍を治める将。先端が二股に分かれた|巨大な槍《ウアス》を持つ巨人で、他部族の心の内を読む、バイタル・トレーサー《生体追跡者》

ゲブとヌトの次男。

Montu(モントゥ)

太陽神ラァーの護衛。一時オシリスを守る旅の護衛として東南の大陸に旅に出る。

ホルフレー

モントゥが一番に信頼を置く、愛弟子(息子)。

オシリスの命によりクパ族の戦士と共に、セトとの連絡隊の任務に就き、

その途中で、翼竜に乗る種族と出会い、翼竜を操り根拠地フシに辿り着いた。

ネイト

武器を考案、製造する事を得意とする、知性の高いカルーン軍の重臣

ウプウアウト

セトの右腕、東南の大陸全土を周り偵察を行い、ホルフレーが乗る翼竜に乗り根拠地フシに戻って来た。

カブラル

ウプウアウトの側近。事前に黒い物体を偵察し、その情報をセトに伝える。

雷神の盾を持つ兵士《アイギス・メシェア》

セトの精鋭部隊に所属する兵士。蒼き稲妻を放つ|雷神の盾《アイギス》を装備する兵士。

黒い外骨格を持つ兵士

ハペプの子孫。

セトの精鋭部隊に所属し、黒々とした鎧とも違う何かを身に纏う異様な雰囲気を漂わせる兵士。

テム

ラァー(テュケ)の父にして、始まりの神。

旅の途中で、砲弾型の壺を拾う。

ネフティス

天真爛漫で美しい女性。ゲブとヌトの次女で、セトの妻。

アセト

農耕を司る美しい女性。ゲブとヌトの長女で、オシリスの妻。

ゲブとヌト

ホルスとテフヌトの兄弟。

ホルスのモースティア族進攻の際、まだ幼く、カルーンの都でホルスとテフヌトの帰りを待っていたが、その両親が亡くなると、親族であるテュケ(ラァー)が彼らを受け入れ、育ての親となった。

ホルスとテフヌト

モースティア族を統治し、モースティアの王となる。

カルーンへ凱旋の時に、カルーン軍と闘いになりホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまう。

セクメトの両親であり、ゲブとヌトの兄妹。

Chris Farrell(クリス・ファレル)

人類移住計画を担うUNIT-9のリーダー。

元軍人だが、心優しい側面もあり、それ故に人間らしい曖昧さをにじませながらUNIT-9を率いる。

TU (Terraforming of the Earth and Space union/地球圏再生計画組織)に所属。

Claudia Mitchell (クローディア・ミシェル)

生物学者で責任感の強い女性、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

凍結保存された卵子を、移住先のRoss 128b星へ運ぶ任務、”Oocyte cryopreservation”を密かに担う。。

カーター

パイロット兼、UNIT-9のサポートをするヒューマノイド。

”Adam and Eve Project”、クローニングされた男女の子供たちを、移住先のRoss 128b星へ連れてゆく任務を密かに担う。

オスカー

科学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

ハイブリッドタイプのヒューマノイドで、その身体には半永久機関のジェネレーターを備えており、最悪の場合、テラフォーミングを完遂させ、人として地球生命を再生するミッションを与えられている。

マクシミリアン・シュミット

宇宙物理学者の黒い肌をした大柄の男性。UNIT-9のサブリーダー。

マイヤー

生物学者、TU に所属するUNIT-9のメンバー。

クローディアの義理の妹

Mobile Trooper/機動装甲 (鉛色の兵士)

UNIT-9に配備されている戦闘兵器

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体

Master Mētis(マスター・メーティス)

Ardyに転送された意識体。

ジェフリー博士専属のヒューマノイドで、その能力はヒューマノイドの最高位である、マスター・ゼウスを凌ぐ能力を持つと言われている。

セクメト

モースティア族の王 / ホルスとテフヌトの長女。
モースティア族を統治したホルスと共に、モースティアの地に移り住むが、程なくしてホルスは戦の傷で亡くなり、その心労でテフヌトも亡くなってしまい、幼くしてモースティア族を支配する王となる。

その両親を亡くした原因がテュケ(ラァー)にある事を知ると、テュケ(ラァー)を深く恨み、モースティア族を率いて、カルーンの都を襲う。

旅人 / 短剣を持つ術者 / ヌイ

モースティア族の血を継ぐ者。

美しい装飾が施され、精巧に造り上げられた白い鞘に収まった短剣を持つ、モースティア族の地を継ぐ神官。

幼き頃に、カルーン軍を率いて侵攻して来たホルスとの戦いに破れ、一族は後継の男児(ヌイ)を連れて、密かにモースティアを脱出し、再起を図る旅に出る。

その旅路で、男児(ヌイ)は成長し、立派な成人となると、自らの名前を大陸で伝えられている大地を意味する言葉、ヌイと名乗り、その腰にはマケの短剣を身に付け、モースティアの血を継ぐ神官へと成長してゆく。

成長したヌイは、ある時、求めていた知性を持つ種族、炎を操る者達に出会い、捕らえられてしまい、必死にそこから脱出したが、信頼を置いていた仲間達は亡くなり、孤独となるヌイ。

希望を失い、心神喪失のまま歩き出すと、砂漠の真ん中で助けられ目覚める。

そのヌイの目の前には、かつての敵、カルーンの都がそばにあった。

ヌーク

クパ族の長。

東南の大陸に近い対岸に暮らす、カルーン族に友好的な種族で、陸と海を生活の場とし農耕に長けている。

穏やかな雰囲気を感じさせ、顔は中心に折れ目があるひし形をし、まだら模様の皮膚をしている。

マトケリス

クパ族の重臣。

東南の大陸に詳しく、そこに住むラーム族と親交がある。

オシリスを”見えない何か”が住む地、ラムスに案内する。

スフィラ

クパ族の戦士。

ホルフレーと共にセトとの連絡隊の任務に就く。

ヤァー族 (アーダム / キ)

東の果てにある大陸で暮らす猿人類

ホバ族 (エレ / エバ / ミ)

北の大陸で暮らす、野生生物に近い猿人類。

砲弾型の壺を持ち、エレという謎の存在に助けられている。

アー族(長 アーマト)

東南の大陸、北東地域に暮らす猿人

ラーム族

東南の大陸に住む、ヤァー族より一回りも小さい、野生生物に近い種族。

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