第16話「"いい子"」
文字数 1,161文字
気が付くと僕は泣いていた。彼女は僕にハンカチを手渡して、「ごめんね」と言いながら僕の頭を撫でた。彼女の目からも涙がこぼれ落ちていた。
しばらくして僕は泣き止むと、ハンカチを彼女に返した。
彼女は化粧が崩れかけた顔でニヤリと笑いながら僕の頬を小突いた。
僕は一世一代の覚悟で彼女の頬を小突いてみると、彼女は少し驚いてからクスリと笑った。
彼女の柔らかい頬に触れた指の感触がいつまでも残っていた。
僕らは再び歩き始めると、大きな川にぶつかった。なんとなく左に曲がって川沿いを歩くことにした。ふと彼女の方を見てみると、儚げに微笑んでいた。
僕は思い切って彼女の手を握ってみた。彼女の手は思ったより小さく、柔らかかった。彼女は僕が手を握ったことを受け入れるように軽く力を込めて握り返した。彼女の顔は見れなかった。
そして彼女は前方を見ながら続きを話し始めた。
私の世界から色が消えたその日は、布団に潜っていつまでも一人で泣いた。両親には言えなかったわ。
夜中になっても眠れなかった私は犬達がいる部屋に行った。床に寝転んで彼らを眺めながらまた泣いた。そんな姿を見て何かを察したのか、彼らは私に寄り添ってくれた。私は彼らを撫でながら「ごめんね。」と何度も言って、いつまでも泣き続けた。
私は心を閉ざしたことを周りに悟られないよう、今まで以上に“いい子”であり続けたわ。いつも笑顔で誰に対しても平等に優しくポジティブで、"前まで好きだった"ディズニーランドのキャストさんをイメージして完全に振舞った。成績も良くて両親の手伝いも頑張るし、困っている人がいたら真っ先に助けに行ったわ。
“生きる意味なんて無い”と思いながらこんなことするのって変でしょう?
彼女は皮肉っぽく笑った。
彼女は安心したように優しく微笑みながら僕の目を見た。
彼女は再び前方に顔を向けてから続きを話した。
彼女は再び僕の目を真っ直ぐ見つめた。今度は僕も彼女と目を合わせることができた。僕らはしばらく黙って手を握りながら川沿いの道を歩き続けた。
彼女は斜め上の空を見ながら呟いた。