第10話「不気味な道」

文字数 631文字

 どの喫茶店に行くかは聞かされていなかったので、僕は彼女に付いて行った。彼女は僕の前を歩きながらこちらに振り向いたり、少し歩きを緩めて僕の横を歩いたりしながら目的地に向かった。しばらく並んで歩き、少し不気味な細路地に入ったところで僕は声をかけた。
活気のある駅前とは違って、ここは静かだね。
表と裏って感じがしない?
    やはり彼女はたまに意味深なことを言う。そのまま進んでいくとさらに不気味な道になり、辺りはごみが散乱し、壁はスプレーの落書きだらけだった。
こういう所を通るのは嫌じゃないの?
好きでもあるし嫌いでもあるわね。
どういうこと?
彼女は僕の目を見ながら答えた。
不潔だとか怖いのは嫌だけど、それがリアルだと感じられるから好きなの。こういうのって変かな?
いや、分かる気がするよ。この世界には綺麗なものや汚いもの、表と裏、善と悪など色んなものがある。でもそんな世界に意味なんてないんだ。
またそんなこと言って。私が泣いちゃうわよ。
    からかうように彼女は僕の頬を小突いた。また僕の鼓動は高鳴る。


    “私が泣いちゃうわよ”

    彼女はこういう個性的な話し方をする。

ごめん。また余計なことを言ってしまった。
でもね、私もそう思ってたの。
“どういうこと?”と聞きたかったが、どうせはぐらかされるだろうと思ったので止めにした。それから少し歩いたところで目的地に着いたらしく、彼女は立ち止まった。雰囲気のある老舗の喫茶店の方に彼女は体を向けた。
ここよ。入りましょう。
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登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

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