第11話「喫茶店で注文する。」

文字数 751文字

 彼女が先にドアを開けて、雰囲気のある喫茶店に入った。店内はカウンターにイスが5つ並び、4人掛けのテーブル席が3つあった。少し狭くて庶民的な店だ。先客としては、カウンターの席で新聞を睨んでいる60歳ほどの男性が1人、それから1番奥のテーブル席で黙々とパソコン作業をしている40代ほどの男性。その2人だった。カウンターにいた60歳くらいの女性店員が、ドアに付いた鈴の音で我々の入店に気づいた。
いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。
    おばあさん店員は優しく微笑みながら言った。なんとなくだが、その笑顔は彼女に似ているような気がした。彼女は店内を見回した後で僕の方に顔を向けた。
どの席に座ろうかしら?
君に任せるよ。
 彼女は再び店内に顔を向けて、手前の角にあるテーブル席を選んだ。窓から外の様子がよく見える場所だ。席に座ってから少しの間、2人は黙って店内を見回した。ひと通り眺め終えたところで彼女が話し始めた。
雰囲気の良いお店ね。
そうだね。落ち着く空間だ。
表でも裏でもないって感じがするわね。
 また意味深な発言だが、僕は何となく言葉の意味が分かる気がした。僕らが外の景色を見ているうちに例のおばあさん店員が2人分の水と1枚のメニュー表を持ってきた。
頼みましょう?
    彼女は僕にも見えるようにメニュー表をテーブルに広げた。
君は何を食べるの?
実は悩んでるのよ。
何と何で?
オムライスか、シーフードパスタか。
どっちも頼んだら?
そんなに食べれないわよ。それに太っちゃうじゃない。
 彼女はクスリと笑った。可愛い。彼女は少しの間メニュー表を睨みながら考えた後、僕に提案した。
両方とも頼んで2人で分けるのはどう?
構わないよ。

 僕らに呼ばれたおばあさん店員がこちらにやってきて、注文を聞くと回れ右をして厨房に向かった。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色