第26話「バイト終わり、3件の着信。」

文字数 1,042文字

 同窓会から2週間後、日曜の21時。僕はアルバイトを終えて、更衣室で帰宅する準備をしていた。ふと携帯を見てみると、着信が3件入っていた。

 彼女からだった。

 僕はバイト先を後にして、彼女に折り返し電話をかけた。そういえば彼女と電話するのは初めてだ。それもこんな時間に3件。どういった要件だろうか。そんなことを考えていると彼女が電話に出た。

もしもし。
 かなり小さい声で聞き取りずらかったが、携帯の音量は最大だった。
バイト中で出れなかったんだ。


君が電話してくるなんて珍しいね。

うん。
 しばらく沈黙が続いたので、僕は電話が切れていないか携帯の画面を見て確認したが、電話は繋がっていた。
会いたい。
 まっすぐな声だった。僕の鼓動はとてつもなく速まる。
いいよ。いつにしようか。
今から会いたい。
 さらに鼓動が速まり、少し気分が悪くなった。
今からだと遅くなるけど大丈夫?
いいの。

あなたは大丈夫?

僕は構わないよ。

どこで会おうか?

私の家でもいい?
僕は構わないけど、君はいいの?
いいの。それじゃあ住所を送るね。


わがまま言ってごめんなさい。

   そうして電話を切ると、僕は駅の方に向かった。駅に着いて5分ほど待っていると鈍行の電車がやって来た。僕はそれに乗り、12個離れた彼女の最寄り駅に向かった。

 前に彼氏がいると言っていたが、僕が家に行っても良いのだろうか。まあ彼女が良いと言っているから良いのだろう。


"僕は彼女の家に行く"

 改めて意識すると、今までで一番鼓動が速くなった。女の子の家に行くのなんて初めてだし、ましてや彼女の家だ。今から行くと彼女の家に着くのは10時過ぎになる。帰るころには終電がなくなるかもしれない。もしそうなったら彼女の家に…いや僕は何を考えているんだ。近くには漫画喫茶やビジネスホテルがあるだろうし、泊まる場所なんてどうとでもなる。僕は首を振って外の景色を眺めることにした。


 僕は5個隣の駅まで行ったことはあったが、それから先は初めてだった。外の風景は次第に自然が多くなり、完全な田舎になった。

 僕は彼女から言われた駅で電車を降りると、地図アプリで家の住所を調べた。駅から歩いて5分といったところだった。携帯を見ながら歩いていると、いかにも学生向けといった綺麗なマンションに着いた。地図はこの建物を指していた。

 エントランスを抜けてエレベーターに乗ると、階を上がる毎に緊張が高まった。僕は言われた部屋の前に着くと、深呼吸してからチャイムを鳴らした。しばらくしてドアがゆっくりと開いた。

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登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

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