第37話「吹っ切れて日常」

文字数 467文字

この道を歩いていると、昔を思い出すわね。
そうだね。
高校を卒業してから2年しか経っていないのに、20年くらい経ったような気がするわ。
20年後には40歳か。
そんなこと言わないでよ。
 僕の頬を小突く。
私ってあの頃から変わったと思う?
そうだね。

結構変わった気がする。

そっか。
でも変わらず君は素敵だよ。
ありがとう。あなたもよ。
 僕らは歩くのを止め、その場で優しく口づけした。再び手を握りながら並んで歩いていると、あの頃のバス停に着いた。
今から実家に帰ってね、両親にこれまでのことを全て話すわ。
うん。

きっとご両親も分かってくれるよ。

 彼女はバスに近づいた。
今日はありがとう。また連絡するわ。
またね。

帰り道に気を付けて。

 高校生の時は、バスに乗る彼女に何かを言いたいのに言葉が出ず苦しんでいたが、今は言い残すことはなくスッキリしていた。不安も無かった。彼女は昔のように1番後ろの席に座り、小さく手を振っていた。今までで一番魅力的な笑顔だった。


“人は不完全だからこそ美しい”

 僕は久しぶりにその言葉を思い出した。そうして僕らは大学生活に戻っていった。

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登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

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