第12話「幸せそうにご飯を食べる。」
文字数 1,151文字
おそらくこの店は夫婦で経営しているのだろう。同じく60歳ほどの男性が厨房で料理を作り始めた。その様子を眺めながら、彼女が雑談を始めた。
一旦、会話が途切れる。
彼女はニヤリと笑いながら僕の真似をした。我々は目を合わせて笑い合った。
僕がよく笑う?
10歳で世界に絶望してから、僕は笑った記憶なんてなかった。だが確かに今は自然と笑っていた、心から。自分のことは自分で見れないから、もしかしたら僕は普段から彼女の前で笑っていたのだろうか。
ぼんやりと自分のことを振り返っているうちに料理が届いた。一旦は僕の方にオムライス、彼女の方にシーフードパスタが置かれた。そして僕は取り皿を1つ頼んだ。彼女は料理と僕の顔を順番に見た。
彼女はクスリと笑った。
そうして僕らは2つの料理を平等に分け合い、食べ始めた。
彼女はとても美味しそうに、そして幸せそうにご飯を食べる。僕は気が付けば自分が食べるのを忘れて彼女を眺めていた。
まただ。僕は慌てて顔を横にそらした。仮に僕が車を運転している時に歩いている彼女を見かけたら、確実に脇見運転で事故を起こす自信がある。それくらい僕は無意識に彼女を見てしまっている。
彼女はからかうように僕の目を覗き込む。
僕は彼女の目を見れずに、顔を熱くしながら小さく頷いた。
そう言って僕の頬を小突く。
僕は先にオムライスを何口か食べ、それからシーフードパスタを食べてみた。どちらもすごく美味かった。オムライスは主張がなく庶民的で優しい味だった。シーフードパスタの方は上品さもありつつ、やはり庶民的で美味かった。
ほぼ同時に僕らは食べ終わると、彼女は再びメニュー表を広げて言った。
彼女が2人分の飲み物を注文すると、およそ5分後に飲み物が運ばれてきた。しばらく黙って飲んでいると、彼女はストローから口を離して言った。
彼女はカフェオレをもう一口飲んでから言った。