第25話「同窓会」

文字数 1,110文字

 当日、僕は同窓会が開かれる駅前の立派なホテルに向かった。そこの1階にある豪華なパーティー会場で同窓会が行われる。中に入ってみると、少し大人びた同級生がそれぞれ楽しげに話していた。あの頃と同じ世界の景色だ。

 人が多くぱっと見では彼女を見つけられなかった。と言うかほとんどの女の子は誰が誰だか分からなかった。化粧というのはすごいものだ。それに比べて男の見た目はそこまで変わっていなかった。


 同窓会の開始時間になると、学年主任だった中年の男教師がステージに上がった。社会人としての自覚がどうたらとか、ありきたりな話を皆は黙って聞いていた。


 学年主任がグラスを掲げながら、威勢よく「乾杯!」と言うと、先程までの騒がしさが戻った。僕もとりあえず周りの同級生とグラスを合わせたり、大学生活についての問いかけに対して適当に答えたりした。

 僕は人のいない隅の席に座って運ばれてきた上品な料理を食べたり、ビールを飲んだりしながら同窓会の景色をを眺めていた。

 僕はビールのおかわりを貰おうとカウンターに向かった。

久しぶり。

 声の方を振り向いてみると、彼女がいた。


 彼女はピンクのドレスに白のネックレス、黒のパンプスを履き、黒の小さなバッグを首から斜めに下げていた。

 彼女は僕の顔を覗き込み、小さく手を振りながらこちらにやって来た。急激に鼓動が速まる。

元気にしてた?
変わらずだよ。

君は?

私も、まあ、それなりかな。
 僕は彼女の美しさに見惚れて、頭から足の先までなめまわすように見てしまっていた。
そんなに見られたら恥ずかしいじゃない。
 久しぶりのやり取りに顔が熱くなった。彼女も顔を赤らめていたような気がする。
ごめん。
    僕は慌てて顔を背ける。そして彼女はからかうように僕の顔を覗き込んだ。
私、そんなに可愛くなってた?
えっと、うん。
ありがとう。
 お互いに黙って次の言葉を探していると、近くを通った同級生の女の子が彼女に声をかけて腕を絡めた。仲の良かった女の子達で写真を撮ろうといった誘いだった。
ごめん。また連絡するね。

 彼女は小さく手を振りながら立ち去った。彼女はやはりあの頃と同じように人気者で、あの頃のように笑顔で同級生と接していた。群衆の中に埋もれていく彼女を眺めてから僕は会場を後にした。


 家に帰ってベッドに横たわり、僕は同窓会で見た彼女の姿を思い浮かべようとした。上手く思い出せなかったが、彼女の下手な笑顔だけが頭に残っていた。


 彼女からの連絡は来ないような気がした。だがそれも仕方ないことだ。彼女はきっと彼氏とも上手くやっているだろうし、僕らはそれぞれの生活に戻る。時の流れとはそういうものだ。

 やはり彼女からの連絡は無かった。

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登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

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