第6話「休憩中の本音」
文字数 943文字
彼女は真剣な顔で僕の目をまっすぐ見つめながら言った。彼女の話がいきなり質問から始まったので僕は少し戸惑った。それも“世界”なんて漠然としたテーマだ。僕は彼女の言葉の真意がよくわからず、思ったことをそのまま答えた。
気がつくと僕は本音を話してしまっていた。そんなことを人に話したのは初めてだった。とんでもない事を言ってしまったと思い、僕は慌てて弁解しようとした。隣を向くと、彼女は両手で顔を抑えて震えながら静かに泣いていた。
重い沈黙に僕は押しつぶされそうになった。僕は“女の子を泣かせてしまった”。それは何よりも重い罪のように感じられた。こんな時、どうすればいいのだろうか。ハンカチを手渡す?背中や頭を撫でる?いや、僕がそれをすることは絶対に間違っている。僕は“何もしない”ことを選択した。と言うより、ただ何もできないまま時間が過ぎていった。
僕は彼女の泣き顔を見て“可愛い”と思ってしまった。泣かせておいてそんなことを考えるなんて最低だ。
彼女は少し落ち着いた様子で、ハンカチで涙を拭ってから続けた。
その意味は分からなかったが、今は聞くべきでないと思ったので僕は言葉を飲み込んだ。少しの間お互いに黙った後、彼女は吹っ切れたように明るい声で言った。
涙は止まっており笑顔に戻っていたが、目は赤く腫れたままだった。その顔も可愛いと僕は思ってしまった。申し訳ない。
また彼女は僕の頬を小突いた。そうして僕らは学校を出ると、昨日と同じように彼女のバス停に向かって並んで歩いた。何となく泣いてからの彼女は別人になっているような気がした。不思議と以前よりも魅力的に思えた。
"人は不完全だからこそ美しい"
またそんな言葉を思い出した。