2024/4/4 瘋癲老人日記

文字数 966文字

薬師寺の如来の足の石よりも君が召したまふ沓の下こそ
(『谷崎潤一郎=渡辺千萬子往復書簡』)


私の姉は谷崎潤一郎の研究をしていた。
姉の友達は森茉莉の研究をしていた。

若き私は歳の離れた姉、その友達の書いた論文にどきどきしていた。
こんな濃密な文学の世界があるのね。
覗いていいのかしらね。

学生の頃、谷崎のレポートを書いた。
それは『富美子の足』について。
くらくらした。

後年になり、私は足を偏愛する変態に出会った。
しかし、谷崎潤一郎で履修済みだったから驚かなかった。
『刺青』も『痴人の愛』も『瘋癲老人日記』も。
みんな踏んでいた。

「君ノ足ノ裏ヲ叩カセテ貰ウ。サウシテコノ白唐紙ノ色紙ノ上ニ朱デ足ノ裏ノ拓本ヲ作ル」
「ソンナモノガ何ニナルノ」
「ソノ拓本ニモトヅイテ、颯チャンノ足ノ佛足石ヲ作ル。僕ガ死ンダラ骨ヲソノ石ノ下ニ埋メテ貰フ。コレガホントノ大往生ダ」
(『瘋癲老人日記』)


言葉で人を愛して踏み躙りたい。

そんな気持ちで書いた詩がもうすぐ売り出される予定。
買わなくてもいいの。
読みたかったら、いつか送るね。

私は愛されている。
さまざまなひとに助けられて生きてる。
私は励まされてる。
さまざまなひとに励まされてる。

私は憎まれてる。
私は嫌われてる。
私は現実に生きたくない。

でもそれを凌駕する感覚に出会ったからいいんだよねえ。


ドウセ予ハ、神仏ヲ信ジナイ、宗旨ナドハ何デモイヽ、予ニ神様カ仏様ガアルトスレバ颯子ヲ措イテ他ニハナイ。颯子ノ立像ノ下ニ埋メラレヽバ予ハ本望ダ


彼女ガ石ヲ蹈ミ着ケテ、「 アタシハ今アノ老耄レ爺ノ骨ヲコノ地面ノ下デ蹈ンデヰル」ト感ジル時、予ノ魂モ何処カシラニ生キテヰテ、彼女ノ全身ノ重ミヲ感ジ、痛サヲ感ジ、足ノ裏ノ肌理ノツルツルシタ滑ラカサヲ感ジル。死ンデモ予ハ感ジテ見セル。
(『瘋癲老人日記)』)

骨になっても踏まれたい。
永遠に踏まれ続けたい。
狂ってるね。

骨になっても踏んであげる。
永遠に踏んであげる。
狂ってるね。

興奮シテハナラナイト自分デ自分ニ云ヒ聞カセタガ、ヲカシナコトニ、サウ思ヒナガラ、彼女ノ足ヲシヤブルコトハ一向ニ止メナカツタ。イヤ、止メヨウト思ヘバ思フホド、マスマス氣狂ヒノヤウニナツテシヤブツタ。死ヌ、死ヌ、ト思ヒナガラシヤブツタ。恐怖ト、興奮ト、快感トガ、代ル代ル胸ニ突キ上ゲタ。狭心症ノ發作ニ似タ痛ミガ激シク胸ヲ窄メツケタ
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