彼女は望遠レンズが付いたカメラを持っていた

文字数 1,067文字

久しぶりの連休だった。

天気も良い。

趣味の写真を撮りに行こうとカメラを防湿庫から取り出した。

さて何を撮りに行こうか。

少し遠出をしよう。

空港に行き、飛行機を撮ることにした。

浜松町から東京モノレールに乗り、羽田空港を目指した。

次々と飛び立っていく飛行機が窓から見える。

国内線第一ターミナルの展望フロアに着くと、そのフロアにあるホールで、結婚式を挙げている夫婦がいた。

滑走路を見渡せる場所でなんともロマンチックではないか。

しかもそのまま新婚旅行にも行くことができるし、いつか私も…と刺激を受けた。

展望デッキに出ると、ジェットエンジンの唸りが聞こえた。

燃料である灯油の匂い。

飛行機に向かって手を振っている整備士の人々。

旅に出る気持ちの高揚感が甦った。

今現在の風向きは北風で、飛行機は東京湾の方向からA滑走路に次々と着陸してくる。

後輪が着地し、白煙が舞う。

逆噴射の音を轟かせながら、JALのボーイング767が通過していった。

程よく雲が出ていて絵になるいい空だ。

カメラバッグを開け、望遠レンズをニコンのFマウントに捻り込ませた。

展望デッキは風が冷たかったが、天気が良く気持ちが良かった。

午前中の撮影を終え、滑走路を見渡せるスターバックスでサンドウィッチを食べコーヒーを飲んだ。

午後は第二ターミナルに移動して、都心方面に向けて離陸する飛行機を追った。

ルフトハンザ航空のボーイング747(通称ジャンボジェット)がタキシングし、滑走路に入った。

大型のジャンボジェットは世界的にも退役が進み、羽田空港ではあまり見ることのできない機体となっていた。

管制塔から離陸許可が降り、ルフトハンザの747の4つのターボファンエンジンが唸りを上げた。

747は徐々に速度を上げ、空気を振動させる轟音とともに飛び立った。

カメラのファインダーの中で747とスカイツリーがちょうど合わさるその瞬間、私はシャッターを切った。

その時、左肩に何かがぶつかった。

撮影に夢中になっていて周りへの注意を怠っていた。

左を見ると、女性の肩に当たっていた。

「すみません。大丈夫ですか?


私は言った。

20代前半くらいの女性だった。

彼女は望遠レンズが付いたカメラを持っていた。

「つい夢中になってしまいました。」

私は言った。

「追っているものが同じだから仕方ないですよ。」

彼女はそう言うと、会釈をし、離れたところに停まっているボーイング787へ向かっていった。

「パパ、すごいカメラ!」

私の右横で小さな男の子が私のカメラを指差して言った。

私は男の子に笑いかけた。

空はいよいよ美しい夕暮れ時へと変化を遂げた。
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