その女性は化粧品売り場の人だった

文字数 1,199文字

ほたるの光が流れ、私の働く百貨店は閉店の時間になった。

今日は遅番だったので、一人レジのお金を数え、クレジットカードの控えを整理していると、

「あのー、すみません、ちょっとご相談がありまして…。」

とどこかで見たことのある制服を着た女性が私の靴売り場にやってきた。

新しく靴を購入したが、サイズが合わないらしい。

緩くてかかとのところが浮いてしまうとのことであった。

販売する靴の中敷きの下に、クッションを入れ、サイズを調整することもあるので、いくつかの厚みのある中から合いそうなものを試してもらった。

「このクッションが一番合いそうです。」

彼女は言った。

私は中敷きをはがし、クッションを下に入れ、また中敷きをもとに戻した。

彼女は喜んで帰って行った。

どこかで見たことある制服だと思ったのは、近くのテナントの化粧品売り場の女性だったからだ。

明日は休みだ。

その日は家に帰る前にラーメン屋により、とんこつ醤油ラーメンと餃子を食べた。

たいして飲めないが、ビールも飲んだ。


数日後、レジを締めていると、この間の化粧品売り場の女性がまたやってきた。

「実は他にもサイズが合わない靴があって…」

とこの間持ってきた靴とは別のものを持ってきた。

同じようにクッションを試してもらい、サイズがあったものを入れて差し上げた。

「ありがとうございます!」

彼女は言った。

私は何かあればまたご相談くださいと伝えた。

その数日後、また閉店後に彼女が来た。

内容は同じサイズの調整であった。

最近はインターネットで買う人も多いので、試着せずに購入する人が多い。

彼女もきっとそのうちの一人だろう。

しかし今回の靴の調整はなかなか難航し、気がつくと30分くらいかかってしまった。

腹が減ってしまった。

私は何を思ったのか、深くは考えずに

「この後、飲みにでも行きませんか?」

と彼女を誘った。

「いいですよ。これから着替えるので、従業員出口のところで待ち合わせましょうか。」

とあっさりOKをもらった。

入金や両替を終え、従業員出口に来ると、彼女はすでにそこで待っていた。

私服に着替えるとまた印象が少し違って見えた。

サービス業から解放された後の、ホッとした表情だ。

私もその気持ちはよくわかった。

店選びをする時間もなかったので、チェーン店の居酒屋に入った。

彼女もお腹が空いていたのか、二人で結構な品数を注文した。

彼女は26歳で、契約社員として入社し、3年目の方だった。

目はパッチリと大きく、色白で細身の、いわゆる美人だ。

この状況でデートに誘わないのは絶対にダメだ。(と、思い込む)

私は次回どこかに出かけたいとデートに誘い、彼女はOKした。


自分にしては少し飲み過ぎた。

帰りの電車ではあろうことか座れてしまい、目が覚めた時には終点であり、終電であった。

私はビジネスホテルに入り、シャワーを浴びた。

無駄な出費をして失態したが、心は日本晴れであった。

ベットに潜り込み、すぐに眠りに落ちた。
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