寂しそうな顔をして去っていく彼女を見送った

文字数 1,056文字

雨はとても激しく、地面は川のようになっていた。

台風が近づいているらしく、風も出てきていた。

とても地上を歩くことができる状況ではなかったので、私達は地下街に降りて散策することにした。

お洒落な雰囲気のブランドショップが並んでいた。

私達はウィンドウショッピングをするしかなかったが、それをネタに話すことはできた。

しばらくすると二人とも小腹がすき、香港名物のフレンチトーストを食べにいくことにした。

私が泊まっているホテルの、北に向かった一つ先、モンコックの裏道にあるようだ。

そこはいわゆる私がイメージしていた香港であった。

漢字が羅列してある錆びついた看板が空を塞ぎ、灰色のコンクリートの建物に室外機がむき出しベランダ。
舗装はしてあるがガタガタの道。

その光景に私はしびれた。
最高だ。

しかし雨はまだ降り続いていた。
辺りは薄暗くなってきていて、なかなか目当ての店に辿り着くことができなかった。

薄暗い裏道にポツンと灯が見えた。
精肉店のようだった。

グレーのTシャツを着た若い男が肉を切っていた。

私はフレンチトーストの有名な店は近くにないかと、ガイドブックを見せて尋ねた。

その男は一見ぶっきらぼうな感じに見えたが、私の後ろにいた彼女を見ると、「OK」と言い、その店まで歩いて案内してくれた。

店を探すことができない頼りない男を助けようとしてくれたのかもしれない。
もしくは彼女が可愛かったからか?
しかし、その店は閉まっていて、営業していなかった。

私達はその男にお礼を言い、他の店を探すことにした。

駅の近くに戻ってきた私達は再びマンゴーが載ったパンケーキなんぞを食べた。

マンゴーと生クリームのコラボレーションは最高に美味い。
そこにアイスクリームが乗ったら完璧だ。

彼女は福岡で事務をされている方だった。

年に数回、一人で旅行をしているようだった。

明日はチムサァチョイの高級ホテル、ペニンシュラのティーラウンジで、アフタヌーンティーを飲んだ後、日本に帰国するとのことだった。

私達はパンケーキを食べ終え、モンコック駅まで戻ってきた。

彼女は二駅北に向かった先の、シャムスイポーに宿をとっていた。

私は南に一駅のヤオマティだ。

地下鉄に乗る為に、私達は階段を降りた。

途中、濡れたところがあり、彼女は足を滑らせてよろけ、私の腕にしがみついた。

私達は顔を、目を見合わせた。

一瞬時が止まったように感じた。

私は、「大丈夫ですか?」

と彼女を抱き起した。

そして

「お元気で。またいつかどこかで。」

と言い、改札まで彼女を送り、寂しそうな顔をして去っていく彼女を見送った。
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