星神祭の夜 *5*
文字数 4,848文字
フウリが記憶封じの呪 を解いてもらっていたその頃――。
馬を勝手に拝借 して村を飛び出したカケルは、山道で偶然、シュンライと出くわしていた。
「おい、お前さん……こんな夜更けにどこへ行くつもりだ?」
問いかけを無視して振り切ろうとしたカケルはしかし、シュンライの口笛によって馬の足を止められてしまった。
カケルが乗ってきたのは、以前ニタイ村へ行った際にルランに借りた栗毛馬 のユヅキだったが、幸か不幸かシュンライも何度か乗ったことがあったため、言うことをよく聞いたのだ。
足を止められてもなお、馬から下りようとしないのをシュンライは訝 り、今度はユヅキに膝 を折らせて無理やりカケルを引きずり下ろす。
携帯用の蛍石の灯 りを近づけ、その左頬が赤くなっていることに気がついたシュンライは、ハッと息を呑んだ。
「おまっ……その頬はどうした? 誰かに殴られたのか?」
「シュンライ殿、邪魔しないでくれ。俺は……早く行かないといけないんだ!」
その手に強く握り締められている手巾と、いつになく青ざめた様子のカケルに、ただ事ではないと悟ったシュンライは、嫌がるのを無理やり引っ張って、工房に連れていった。
黙りこんでしまったカケルを椅子に座らせると、シュンライは落ち着いた様子で話し始める。その表情が、心配よりも好奇 に溢 れているのが彼らしい。
「……で、その頬はどうした? ハヤブサとケンカでもしたか? いやしかし、それくらいで村を飛び出そうなんて考えるほど、お前さんは単純でもないだろう。さては、フウリちゃんが絡んどるな?」
フウリの名に、カケルの肩がわずかに震えたのを、シュンライは見逃さなかった。
「ほほぅ、やっぱりフウリちゃんのことかい。なんだ、ウチのバカ倅 とフウリちゃんを取り合いにでもなったか? いや待てよ、フウリちゃんがお前に告白したのを知ったアイツが、勝手にキレて殴りかかったか?」
話せば話すほど真実に近づいていく不思議を感じつつ、カケルはとうとう観念した。
「……思い出したんです」
「へぇ、そりゃあ良かったじゃねぇか! で、どんなことをだ?」
「彼女はカケル の、いや、俺の、とも言うのかな……従妹 だったことを」
「……はぁっ!?」
シュンライは一瞬、その意味を掴 みあぐねてポカンと口を開いた。しかし、カケルは構わず続ける。
「ユゥカラ村が滅んだあの日……」
カケルは一緒にいた幼いフウリを庫 に隠して、襲ってきたエランクルに対抗しようと刀を持って向かっていった。
しかし、見たことのない武器の圧倒的な威力を前に、村のサムライたちは次々に命を散らしていく。村長 であり、カケルの伯父でもあったカショウもまた、カケルの目の前で、エランクルの大男によってその胸を貫かれてしまった。
村長という偉大なるイコロを失い、またそれを守護していた神獣 をも失った村人から、とうに戦意は失せていた。残ったわずかのサムライたちは、皆、家族の命だけは助けてくれ、欲しい物はなんでも差し出すからと懇願し、全面降伏の意を示した。
けれども、エランクルを指揮していた黒い外套 の青年は、その訴えを一蹴 したのだ。
不気味な笑みを口元に浮かべ、まるで虫を殺して遊んでいるかのように、村人たちを銃で脅し、副将に命令しては次々に殺していった。女たちは、黒髪の雑兵 たちによって好き放題に嬲 られ、悲鳴を上げながら死んでいく……そこには地獄のような世界が広がっていた。
そんな中、たった一人の少年だけは刀を手放さなかった。
村の誰よりも、この世の誰よりも大切な少女と交わした約束を守るため、恐ろしい闇のような青年に果敢 にも斬りかかっていった。
しかし、村長でも敵 わなかった強者 に、少年ごときが敵うはずもなかった。
カケルは副将の男の大剣をその身に受け、あっけなく地に転がった。が、肩から流れ出る血をもろともせず、少年は刀を支えに立ち上がると、再び男に向かっていく。
その時、奇跡的に少年の一撃が副将の頬を掠 り、それが総大将 の目に止まった。
再び振り下ろされようとしていた副将の大剣を、総大将はわずか一言で留めさせると、今にも死にそうな少年の前に立ち、嘲笑 を浮かべた。
――お前だけ瞳が黒いな。その反抗的な目つき、反吐 が出るほど嫌いだ……が、面白い。
青年がそう言うや、視線で何かを察した副将の男に、カケルは軽々と担 ぎ上げられた。
グルリと回転した視界の端で、ケガをして動けなくなっていた白く小さな獣が心配そうに自分のことを見上げている姿を捉えたのを最後に、カケルは意識を失った。
そして次に目を覚ました時には、エランクルたちの拠点となっている海辺の建物で、手足に枷 を嵌 められ、牢 のような所に転がされていた。
運ばれてからさほど時が経っているわけではなさそうなのに、深く負っていたはずの傷は、不思議と痛々しい痕 だけを残してすべて塞 がっていた。
と、カケルが語る過去の話に黙って耳を傾けていたシュンライが、ふと口を挟んだ。
「ところでさっきから聞いてて不思議に思ったんだが、なんでお前さんは自分のことなのにまるで他人事 のように話してんだ?」
「それは……俺の魂の半分は、カケルではなく『リッカ』という守獣だから……」
「守獣、だと!?」
驚きの声を上げたシュンライにカケルは頷き、そして続けた。。
傷が塞がっていたのは、まさにその『リッカ』が関係していた。
フウリと共に森で拾った白いオコジョのリッカは本来、イコロの素質 を持っていたカケルの守獣となるべく神から遣 わされた存在だった。しかし、イコロを探している途中で死にかけ、それを助けてくれたフウリとカケルに感謝して、二人 の守獣となったという。
リッカはエランクルに連れ去られていくカケルを懸命に追いかけ、密かにその懐に紛れ込むことに成功した。それだけでなく、失血死しかけていたカケルを助けるために、小さな奇跡を起こした。
消えかけていたカケルの命を繋ぎ止めたのは、死の間際にその身体に乗り移った、リッカの魂だったのだ。
その影響で、カケルは異様に高い自己治癒能力を手に入れた。が、一方で代償として、カケルの身体の中で二つの魂が混ざり合ったことにより、記憶の混乱と欠落をもたらした。
それでも初めはかろうじて、故郷の村に残してきた愛しい従妹 のことを覚えていた。
カケルを気に入ったというエランクルの大将に無理やり服従を誓わされ、ノチウの村々の侵略に密偵として手を貸すようになってからも、隙を見てはフウリを探していた。
しかし、一年、二年、五年……と年を経るごとに、記憶の混乱は深まり、いつしか己が何者であるのか分からなくなっていった。
それはエランクルにとっては好都合だったのだろう。以前よりも一層多くの任務――次に攻めるノチウの村に記憶喪失を装って潜り込み、内情や有益な情報を集めて回り、最後には同胞たちを裏切って逃げるということを繰り返すはめになった。
そんな中、カケルは誰から貰ったのかすら忘れてしまったけれど、見れば温かい気持ちになれる六花文様の手巾だけをささやかな癒しにしていた。
が、いつしかそれにも耐えられなくなり、ニタイ村への潜入任務中に隙をつき、カケルは逃走した。
エランクルも馬鹿ではない。密偵の裏切りを防ぐために監視していたエランクル兵が、すぐにそれを察知して追いかけ、カケルは銃によって処分された――はずだった。
その時再び、リッカの魂のおかげで手に入れていた自己治癒能力が発揮され、カケルは命を取り留めた。しかしそれ以来、リッカの魂は力尽きてしまったかのようだった。
「……で、それをフウリちゃんたちが見つけて、ユィノちゃんが助けたってことか。まるで、星神謡にでも出てきそうな話だなぁ、おい。しかしまぁ、大体の事情は飲み込めた。そんで、ようやく本題に入れるわけなんだが……お前さんまさか、エランクルたちんトコに乗り込もうってのか?」
カケルは静かに頷き、決意したまなざしをシュンライに向けた。
「ヤツを殺さなければ、フウリと……この村が危険なんだ」
「危険って……まさか、もうヤツらにこの村は目をつけられてんのか?」
「ええ。ニタイ村の次の任務先として、この村の名前を聞いた覚えがあります」
これには、さすがのシュンライも笑えなかった。頬を引きつらせ、彼には珍しくため息を漏らした。
「……そうか、とうとうこの村にもヤツらが来るのか。いやしかし、フウリちゃんのことはなぜ限定されている? 一体どこで彼女の情報を……」
と言いかけたシュンライの脳裏に、ニタイ村から帰還した時に村会議で聞いたフウリからの報告内容が過 ぎった。
「まさか……」
「ご推察の通り、彼女はニタイ村で、副将フォルデに目を付けられています。そして俺がまだ生きていることも、あの時バレてしまった……」
ニタイ村でカケルがその副将に出くわした時、「なぜ、まだ生きている」と問われた。
その時は意味がわからず、答えられなかった。けれど、体に植えつけられていた副将への圧倒的な恐怖を前に絶望し、カケルはすべてを投げ出した。そしてそれを助けたフウリは、交わした会話から興味をもたれ、危うく副将に連れ去られるところだったのだ。
「くそっ、なんてこった! どうすりゃいいんだ?」
「ですから、俺がアイツらの拠点に戻って時間を稼いでいる間に、センリュ村の人たちは別の場所へ、できるだけ北へ逃げてください。フウリと共に……」
「だけど、お前さん一人が行ってどうにかなるもんなのか? そのフォルデとかって奴はフウリちゃんの報告だと、少しは話ができそうとか言ってたが、そいつは副将なんだろう? 大将の方を陥 とせる見込みはあんのか?」
「……自信はない。が、なんとしてでも……せめてフウリやこの村の皆が遠くへ逃げるための時間だけでも稼いでみせるさ」
だから、とにかく急いでいたのだ。
こうして今説明している間にも、敵の魔の手は近づいてきているかもしれない。
カケルはこの村の誰よりも近くでエランクルの残虐さを見て知っているからこそ、焦らずにはいられなかった。
「村の皆への報告はシュンライ殿に頼んでもいいだろうか?」
「そらぁモチロン構わねぇけどよ……フウリちゃんには会って話していかなくていいのか? 万が一、お前さんやこの村に何かあった時、後悔するぜ。ずっと彼女のことを探していたんだろ?」
シュンライの提案に、カケルはほんの一瞬、心を揺らした。
何よりも誰よりも愛しい彼女に、もう二度と会えないかもしれない――それでも。
「俺は、彼女を守ることができればそれでいい。それに、彼女に話したら、絶対に自分も行くと言い出すだろう。だから、俺一人で行く」
「……その調子じゃ、ウチの倅 を連れてけって言っても、断られるんだろうな」
「ああ、ハヤブサ殿もレオク殿も、村の人たちを守るほうに回って欲しい」
「チッ、わかったよ。んじゃ、おじさんも久々に自分の刀でも磨いておくかな……」
「頼みます、シュンライ殿」
頭を下げるカケルに、シュンライはパキパキと肩を鳴らしながら、頼もしい笑みを浮かべ返した。
そうして、夜が明けぬうちにと、カケルは馬に乗って遠くエランクルの拠点があるという南の地へ駆けていったのだった――。
馬を勝手に
「おい、お前さん……こんな夜更けにどこへ行くつもりだ?」
問いかけを無視して振り切ろうとしたカケルはしかし、シュンライの口笛によって馬の足を止められてしまった。
カケルが乗ってきたのは、以前ニタイ村へ行った際にルランに借りた
足を止められてもなお、馬から下りようとしないのをシュンライは
携帯用の蛍石の
「おまっ……その頬はどうした? 誰かに殴られたのか?」
「シュンライ殿、邪魔しないでくれ。俺は……早く行かないといけないんだ!」
その手に強く握り締められている手巾と、いつになく青ざめた様子のカケルに、ただ事ではないと悟ったシュンライは、嫌がるのを無理やり引っ張って、工房に連れていった。
黙りこんでしまったカケルを椅子に座らせると、シュンライは落ち着いた様子で話し始める。その表情が、心配よりも
「……で、その頬はどうした? ハヤブサとケンカでもしたか? いやしかし、それくらいで村を飛び出そうなんて考えるほど、お前さんは単純でもないだろう。さては、フウリちゃんが絡んどるな?」
フウリの名に、カケルの肩がわずかに震えたのを、シュンライは見逃さなかった。
「ほほぅ、やっぱりフウリちゃんのことかい。なんだ、ウチのバカ
話せば話すほど真実に近づいていく不思議を感じつつ、カケルはとうとう観念した。
「……思い出したんです」
「へぇ、そりゃあ良かったじゃねぇか! で、どんなことをだ?」
「彼女は
「……はぁっ!?」
シュンライは一瞬、その意味を
「ユゥカラ村が滅んだあの日……」
カケルは一緒にいた幼いフウリを
しかし、見たことのない武器の圧倒的な威力を前に、村のサムライたちは次々に命を散らしていく。
村長という偉大なるイコロを失い、またそれを守護していた
けれども、エランクルを指揮していた黒い
不気味な笑みを口元に浮かべ、まるで虫を殺して遊んでいるかのように、村人たちを銃で脅し、副将に命令しては次々に殺していった。女たちは、黒髪の
そんな中、たった一人の少年だけは刀を手放さなかった。
村の誰よりも、この世の誰よりも大切な少女と交わした約束を守るため、恐ろしい闇のような青年に
しかし、村長でも
カケルは副将の男の大剣をその身に受け、あっけなく地に転がった。が、肩から流れ出る血をもろともせず、少年は刀を支えに立ち上がると、再び男に向かっていく。
その時、奇跡的に少年の一撃が副将の頬を
再び振り下ろされようとしていた副将の大剣を、総大将はわずか一言で留めさせると、今にも死にそうな少年の前に立ち、
――お前だけ瞳が黒いな。その反抗的な目つき、
青年がそう言うや、視線で何かを察した副将の男に、カケルは軽々と
グルリと回転した視界の端で、ケガをして動けなくなっていた白く小さな獣が心配そうに自分のことを見上げている姿を捉えたのを最後に、カケルは意識を失った。
そして次に目を覚ました時には、エランクルたちの拠点となっている海辺の建物で、手足に
運ばれてからさほど時が経っているわけではなさそうなのに、深く負っていたはずの傷は、不思議と痛々しい
と、カケルが語る過去の話に黙って耳を傾けていたシュンライが、ふと口を挟んだ。
「ところでさっきから聞いてて不思議に思ったんだが、なんでお前さんは自分のことなのにまるで
「それは……俺の魂の半分は、カケルではなく『リッカ』という守獣だから……」
「守獣、だと!?」
驚きの声を上げたシュンライにカケルは頷き、そして続けた。。
傷が塞がっていたのは、まさにその『リッカ』が関係していた。
フウリと共に森で拾った白いオコジョのリッカは本来、イコロの
リッカはエランクルに連れ去られていくカケルを懸命に追いかけ、密かにその懐に紛れ込むことに成功した。それだけでなく、失血死しかけていたカケルを助けるために、小さな奇跡を起こした。
消えかけていたカケルの命を繋ぎ止めたのは、死の間際にその身体に乗り移った、リッカの魂だったのだ。
その影響で、カケルは異様に高い自己治癒能力を手に入れた。が、一方で代償として、カケルの身体の中で二つの魂が混ざり合ったことにより、記憶の混乱と欠落をもたらした。
それでも初めはかろうじて、故郷の村に残してきた愛しい
カケルを気に入ったというエランクルの大将に無理やり服従を誓わされ、ノチウの村々の侵略に密偵として手を貸すようになってからも、隙を見てはフウリを探していた。
しかし、一年、二年、五年……と年を経るごとに、記憶の混乱は深まり、いつしか己が何者であるのか分からなくなっていった。
それはエランクルにとっては好都合だったのだろう。以前よりも一層多くの任務――次に攻めるノチウの村に記憶喪失を装って潜り込み、内情や有益な情報を集めて回り、最後には同胞たちを裏切って逃げるということを繰り返すはめになった。
そんな中、カケルは誰から貰ったのかすら忘れてしまったけれど、見れば温かい気持ちになれる六花文様の手巾だけをささやかな癒しにしていた。
が、いつしかそれにも耐えられなくなり、ニタイ村への潜入任務中に隙をつき、カケルは逃走した。
エランクルも馬鹿ではない。密偵の裏切りを防ぐために監視していたエランクル兵が、すぐにそれを察知して追いかけ、カケルは銃によって処分された――はずだった。
その時再び、リッカの魂のおかげで手に入れていた自己治癒能力が発揮され、カケルは命を取り留めた。しかしそれ以来、リッカの魂は力尽きてしまったかのようだった。
「……で、それをフウリちゃんたちが見つけて、ユィノちゃんが助けたってことか。まるで、星神謡にでも出てきそうな話だなぁ、おい。しかしまぁ、大体の事情は飲み込めた。そんで、ようやく本題に入れるわけなんだが……お前さんまさか、エランクルたちんトコに乗り込もうってのか?」
カケルは静かに頷き、決意したまなざしをシュンライに向けた。
「ヤツを殺さなければ、フウリと……この村が危険なんだ」
「危険って……まさか、もうヤツらにこの村は目をつけられてんのか?」
「ええ。ニタイ村の次の任務先として、この村の名前を聞いた覚えがあります」
これには、さすがのシュンライも笑えなかった。頬を引きつらせ、彼には珍しくため息を漏らした。
「……そうか、とうとうこの村にもヤツらが来るのか。いやしかし、フウリちゃんのことはなぜ限定されている? 一体どこで彼女の情報を……」
と言いかけたシュンライの脳裏に、ニタイ村から帰還した時に村会議で聞いたフウリからの報告内容が
「まさか……」
「ご推察の通り、彼女はニタイ村で、副将フォルデに目を付けられています。そして俺がまだ生きていることも、あの時バレてしまった……」
ニタイ村でカケルがその副将に出くわした時、「なぜ、まだ生きている」と問われた。
その時は意味がわからず、答えられなかった。けれど、体に植えつけられていた副将への圧倒的な恐怖を前に絶望し、カケルはすべてを投げ出した。そしてそれを助けたフウリは、交わした会話から興味をもたれ、危うく副将に連れ去られるところだったのだ。
「くそっ、なんてこった! どうすりゃいいんだ?」
「ですから、俺がアイツらの拠点に戻って時間を稼いでいる間に、センリュ村の人たちは別の場所へ、できるだけ北へ逃げてください。フウリと共に……」
「だけど、お前さん一人が行ってどうにかなるもんなのか? そのフォルデとかって奴はフウリちゃんの報告だと、少しは話ができそうとか言ってたが、そいつは副将なんだろう? 大将の方を
「……自信はない。が、なんとしてでも……せめてフウリやこの村の皆が遠くへ逃げるための時間だけでも稼いでみせるさ」
だから、とにかく急いでいたのだ。
こうして今説明している間にも、敵の魔の手は近づいてきているかもしれない。
カケルはこの村の誰よりも近くでエランクルの残虐さを見て知っているからこそ、焦らずにはいられなかった。
「村の皆への報告はシュンライ殿に頼んでもいいだろうか?」
「そらぁモチロン構わねぇけどよ……フウリちゃんには会って話していかなくていいのか? 万が一、お前さんやこの村に何かあった時、後悔するぜ。ずっと彼女のことを探していたんだろ?」
シュンライの提案に、カケルはほんの一瞬、心を揺らした。
何よりも誰よりも愛しい彼女に、もう二度と会えないかもしれない――それでも。
「俺は、彼女を守ることができればそれでいい。それに、彼女に話したら、絶対に自分も行くと言い出すだろう。だから、俺一人で行く」
「……その調子じゃ、ウチの
「ああ、ハヤブサ殿もレオク殿も、村の人たちを守るほうに回って欲しい」
「チッ、わかったよ。んじゃ、おじさんも久々に自分の刀でも磨いておくかな……」
「頼みます、シュンライ殿」
頭を下げるカケルに、シュンライはパキパキと肩を鳴らしながら、頼もしい笑みを浮かべ返した。
そうして、夜が明けぬうちにと、カケルは馬に乗って遠くエランクルの拠点があるという南の地へ駆けていったのだった――。