星神祭の夜 *6*

文字数 1,134文字

 シュンライは何年も使われることのなかった己の刀を鞘から抜き、自嘲気味(じちょうぎみ)に笑った。
「まさか……またコイツを(おが)む日が来るとはなぁ……」
 十年前――ユゥカラ村が滅んだ直後、シュンライたちセンリュ村のサムライたち数名は敵の情報を集めるために数か月に渡る旅に出ていた。その時、ある小さな村の近くでエランクルの兵と戦闘になったことがあった。が、初めて見る飛び道具に皆恐れをなし、すぐさま逃げ出した。
 四名中三名のサムライが(なまり)の弾を体に受け、逃走中に息絶えた。シュンライもまた左足を負傷していたが、運良く生き延び、村に戻ることができたのだ。が、左足は再び刀を握って闘うには役立たないものとなり、それからは鍛冶一筋で生きてきた。
 しかし、こういう状況となれば、一人でも多くの戦力が必要だ。例え早く走れなくとも、刀を握って立てるのなら、闘う側に加わるべきだ。
 刀で敵わない相手と知っていても、自分たちにはこれしかないのだから――。
 シュンライが様々な思いに渋い笑みを浮かべていると、そこへハヤブサが突風のごとく駆け込んできた。
「親父っ、アイツここに来てねぇか!?
「……なんだ、騒々(そうぞう)しい」
「いや、アイツとちょっと色々あって……最初は放っておこうと思ってたんだけど、全然戻ってこないし、様子が変だったから、フウリんとこに行ってないか聞きに行ったんだ。そしたら……」
 いつの間にか記憶を取り戻していたフウリが、カケルがいなくなったことに取り乱し、彼を探しに飛び出していってしまった。しかし、村中を巡っても彼の姿はなく、もしやと思って馬小屋を確認したら、ルランの馬、ユヅキがいなくなっているではないか。
 すぐに二人は愛馬に跨り、フウリは彼がいるかもしれないと踏んだシュマリ湖へ、ハヤブサは残る心当たりであるこの工房へ来たのだった。
「なるほど、こりゃあ本当に運命っちゅーやつかもしれんな……」
 二人同時に、記憶を取り戻しているとは――。
 シュンライが複雑な心境で笑みを浮かべたのに対し、ハヤブサは眉をひそめた。
「はぁっ? 親父、ふざけてる場合じゃないんだけど! ここに来てないならいいよ。別んとこ探しに行くから」
「バカ息子が。来てないとは言ってないだろうが」
 駆け出していこうとしていたハヤブサは、シュンライのその言葉に再び素っ頓狂(とんきょう)な声を上げて、振り返る。
「どういうことだよ!」
「ああ、とにかくエミナ殿や家長たちにも至急で相談したいことがあるからな、お前、先に村へ戻って召集をかけてこい」
 いつになく真剣な面持ちで腰を上げたシュンライの様子に、ハヤブサは気圧されながら、頷き従ったのだった――。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●フウリ(女 16歳)

風のように駆け抜けていく女サムライ。

10年前に故郷のユゥカラ村がエランクルに攻め込まれた際、村で唯一生き残った少女。

村の警備を任されており、男たちの間では、フウリに敵う者はいないと言われている。

男勝りで、縫い物や料理は苦手。

●カケル(男 年齢不明)

傷を負って倒れていたところをフウリに助けられ、センリュ村で過ごすことになった謎の青年。

●シャラ(女 16歳) 

心を癒す美声の神謡姫(しんようき)。

センリュ村の長である長老の孫娘。村一番の美声を持つ。その声は人の心のみならず、動物や自然にまで好影響を与える。

守獣として白狼のガセツを連れている。裁縫が得意。

●ハヤブサ(男 17歳)

弓使い。

フウリとシャラの幼馴染。幼い頃は弱虫のいじめられっ子で、いつもフウリに庇ってもらっていたが…。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み