大胆刑事 波乱

文字数 2,132文字

 「ボス、碇のおかげで容疑者を特定できました。容疑者の名前は「村上崇」年齢五十六才、無職。二年前まで缶詰などの輸入食品会社で経理をしていたようです。会社の金を使い込んで懲戒免職になり、日雇いの仕事をしつつ、借金取りから逃げ回っていたようです。ドローンを飛ばしてユーチューブに流して広告費を稼いでいます。」
 「・・・碇は必要だったのか?・・」
 「もちろんです。碇がコンピューターインターネットで割り出して、特定しました。彼女は優秀な電算捜査官です。」
 「・・・マイコンとは違うのか?壊さないと答えが出ないのか?」
 「さあ、わかりません。まあ、我々は勘ピューターですけどね。」
 「・・・それは新しいのか?俺はカンピューターなぞ持ってないぞ。」
 山上はボスとの会話が面倒になってきた。こんなに知識がないのに、バカなのに、なぜボスなんだろう?ただ、ボス以上のボスは現れない。これだけのボスの雰囲気を持った人は今の時代、いない。それだけは解る。 
 「容疑者の村上を今、探しております。宇梶、真田、波乱の三名が動いています。宇梶のやつ、汚名返上だと張り切っているんですが、どうも、不安で。」
 「・・・波乱万丈を捜査に出したのか?まさか一人じゃないだろうな?」
 「大丈夫です。熟練の時田をつけました。」
 「・・・そうか、万丈は大胆すぎるからな。ブレーキが必要だ。」

 「おのれ、村上め、大量殺人など断じて許さないぞ!」
 「万丈様、お気を確かに。まだ、犯人と決まったわけじゃございません。それにこんな住宅街で大声あげてそんなことを言うと人が集まります。お控えください。張り込みの意味がなくなります。」
 波乱万丈刑事と時田刑事の二人が電柱の陰に隠れて村上が住んでいるアパートの前で張り込んでいる。必須アイテムの牛乳ビンとあんぱんを持っていたが、波乱はあんぱんを興奮のあまり握りしめている。指の間からニョッキリあんこが漏れている。初老紳士の時田はそれが気になってしょうがない。ハンカチをそっと差し出したが、万丈は牛乳ビンとあんぱんで両手が塞がれている。時田はハンカチを引っ込めると、そっと手を出し牛乳ビンとあんぱんを受け取った。そうしないと万丈はビンとパンを投げつけるに決まっているから。
 「だがな、俺たちがこうして奴が出てくるのを待っている間に、沢山の罪のない人を殺した悪党の村上はのうのうと生きているんだ。俺は、俺の体は、俺の体は、許さないと言っている。カムヒア!俺の体!」
 万丈は決めた。電柱の陰から堂々と姿を現し、駆け足で村上の部屋のドア前に向かう。
 「開けろ!ダイターン解錠!」
 大声で言うとドアノブに手をかける。カギは閉まっていた。万丈は大胆にも拳銃を取り出しドアノブを打ち壊した。静かな住宅街に銃声が響くが、すぐに時田が懐から取り出した爆竹に火をつける。そのあとカバンに入れたドラを持ち出し、思い切り打ち鳴らす。これで中国のお祭りという偽装が完成する。時田は万丈の行動を予知し準備を怠らない。
 「おのれ、村上、許すものか!ダイターン突入!」
 万丈はドアを蹴破り、大胆にも土足で部屋に立ち入る。玄関開けたらいきなり畳の部屋のみのボロアパート。そこにゴミの間にシミのように敷かれた布団に包まる男が一人。村上だった。
 「おのれ、よくものうのうと寝やがって、日輪の名にかけて、お前を殺す。ダイターン射殺!」
 万丈は銃口を寝転ぶ村上に向けて躊躇なく引き金を引いたが、起きがけに危機を察知した村上は万丈の足を引っ張り、寸前で銃口を逸らすことに成功した。天井にパンと弾が当たるとゴミにまみれた部屋に埃がチラチラと降った。不意をつかれた万丈だが、足を振り切り、銃口で村上を追う。村上は振り切られた足の反力を利用して、出口方向に体を投げ打って、そのまま転がるように部屋から出て行く。
 「しまった!おのれ!村上め、俺がとどめを刺してやる!カムヒア!俺の体!」
 波乱万丈は強い精神力で生きている。その強靭な精神は肉体を凌駕するほどのもので、肉体はついていけないことがある。よって、意志が先立ち行動を決め、体がそれについて行く。精神と肉体は一体ではなく、別であり、意志が強いもの、もしくは肉体が強いものは、精神と肉体が同時に動かないことがある。だから万丈は自分の体を呼ぶのだ。波乱万丈は駆け出す、大きなジャンプをして時田が用意したバイクに飛び乗る。
 「おのれ、俺はお前を逃さない。ダイターン轢殺!」
 アクセルを絞り、バイクは前輪を上げ、暴れ馬のようにギャロップし、村上目掛けて突進する。爆音とともに前輪が持ち上がり、エンジンが塊となって村上に襲いかかる。荒れ狂う鉄の塊が、熱されたエキゾーストパイプが、容赦無く村上に噛みつくように襲いかかる。二百キロにもなる鉄の塊が時速八十キロでぶつかってきては、人は、野獣に食い散らかされたように、原型を止めることなく、肉体を破かれる。衝撃で肉は千切れ、骨は飛び出て、鮮血が撒き散らされる。バイクはひっくり返り、万丈も八十キロから0キロの制止による衝撃でバイクから弾き飛ばされ、宙に舞う。
 「僕は、嫌だ!」
 飛ばされる波乱万丈は振り絞るように声を上げて叫んだ。
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