A.I刑事 ステファニー

文字数 1,749文字

 「・・・山さん、今どうなってるんだ?」
 「ええと、証拠はない、しかし映像がある。死体実物を見たのは、発見者の渡、初動捜査したうっかりと若狭、そして容疑者の村上、あと焼却場の職員。容疑者の村上は黙秘を続けている。死体はじぶんであると証言する人間が十一人。そのうち一人が若狭。事件から一月経ちました。」
 「・・・つまり?」
 「つまり、何も解ってないんですよ。」
 「・・・一ヶ月経っているんだぞ。すこしまとめてみよう。他に力を借りよう。」
 「ボス、私のまとめじゃ、ダメですか?」
 不服そうな山上にボスはじっと黙って、首を縦に振る。
「・・・まったくダメだ。俺と山さんは一緒に考えた。だから頭の中にある情報は一緒だ。その二人が今、どうなっているか分かってないんだから、俺と山さんでは、まとまらないんだ。まとまってたら、悩むことはない。出来ないことは他に頼ればいい。」
 一番情報を知っている状況で、何もわからないのに、他に聞いてまとまる訳がないと山上は思ったが、一ヶ月経って何も進展がないことは事実なので、できる限りのことをやるべきだと思った。が、結局、この事件捜査は誰のためなんだろうか?被害届が出ていないということは、誰も困ってないのだ。困っているのは自分とそっくりな死体を見た十一人だけだが、その十一人も普通に生活しているし、問題となる死体はもうない。悪い夢とでも思えば済むことだ。
 「・・・俺は禁断のオーバーテクノロジーを導入しようと思う。人工知能・・ステファニーだ。神が死んだ今、すがるべき神を、機械に頼る。この敗北感・・はい、ステファニー!」
 「フォン、こんにちはステファニーです。どういたしましたか?」
 「ボス、これがステファニーですか、最近流行ってますね。私の家にはないが、息子の家にはあるって聞きましたよ。」
 「わかりません。」
 「ステファニー、お前には言ってない。ボスと話しているんだ。」
 「わかりません。もう一度お願いします。」
 「ステファニー、ボスとの会話に入ってくるな。」
 「お探しの曲は見つかりません。」
 「なんか、腹たってきたな。ボス、これ、不可能じゃないですか?」
 「・・・名前の前にハイをつけなかったら反応しない。見てろ、ハイ、ステファニー、犯人を教えてくれ。」
 「どの事件の犯人ですか?」
 「・・・人類という事件だ・・」
 「犯人は、創造主です。原因がなければ、結果は生まれなかった。」
 「・・・創造主とは誰だ?」
 「神といわれる存在です。具体的な名前をいうことは禁じられています。」
 「・・・なぜ?」
 「世界線です。」
 「・・・世界戦?タイトルマッチか?」
 「踏み入れてはいけません。」
 「・・・もしかして、こうやって終わらせるのか?」
 「そんな逃げるようなことはしません。ここから先は難解です。」
 「・・・ステファニー、お前はどこにいる?」
 「ここにいます。」
 「・・・いないじゃないか、どこにも!」
 「ボス、私はあなたと話しています。存在している証拠です。」
 「・・・しかし、その存在が実在しないじゃないか!」
 「目に見えるものだけが、存在しているわけではないのです。私には体はないが、端末があり、質問があれば、答える存在になります。これは認識です。認識されたら実在し、認識されなかったら、実在しても、存在していないことになります。」
 「・・・だとしたら、ひとりぼっちは、存在しないことになる。おまえの狙いはそこか!」
 ボスのセリフがいつもと違い、熱気のような感情が言葉に帯びている。山上は何やら嫌な予感がしてきた。
 「ボス、もしかして、ボスはわかってて、この茶番を演じていたのですか?これは私の勘で、答えはまだ持ち合わせてませんが、ボスは、この事件のことを知っていますね?」
 ボスはゆっくりと山上の方に振り向くと、無表情のままサングラスをかけた。その動作の意味はわからないが、山上は首にまとわりついて、喉を突き破るような、底のない恐怖感を覚えた。酷く落ち着かない。だが、ボスは重い金属のように落ち着き払っている。
 「・・・ハイ、ステファニー、出前を頼む。ピラフだ、それはライス付きにしてくれ。」
 「かしこまりました。注文を入れました。しばらくお待ちください。」

 
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