博士刑事 数田

文字数 2,011文字

 「・・・死体の本体が生きている。いや、本体が死んで、マボロシが生きているのでは・・」
 「ボス、あまり難しく考えないほうがいいですよ。たまたま似た人間が九十七人の死体の中にいたと考えるほうが現実的です。」
 「・・・現実的である必要があるのか?・・」
 「起こった事件は、その時点で現実です。」
 「・・・話し合いでは事件は解決しない。国語じゃなくて、算数が必要だ。博士を呼べ。違った見方で考える必要がある。もう、時間がないんだ・・・」
 ボスの表情が険しい。山上は疑問が浮かんだが、ボスに問うことができなかった。時間がないとは一体どう言うことだろう?事件発生から二週間経ったが、何も進展がない。新たな証拠はないが、新たな証言が事件を混乱させていた。九十七の死体に似た人間は、今のところ十一人確認されている。その十一人に何ら繋がりがない。まだ、そっくりさん発見が増えてくることは大いに考えられる。山上も、この事件から離れたかった。出口がないのではなく、入り口にも入ってない迷路には、フワフワとした戸惑いしかないのだ。
 「ボスがそう言う頃だと思い、すでに来ています。」
 ロッカーの扉が開くと数田刑事が出てきた。白衣を着て、髪の毛ボサボサの、ステレオタイプの博士だ。
 「・・・そんなところに隠れていたのか、いつからだ?」
 「先週からです。早く呼んで欲しかった。」
 「数田、お前は暇なのか?」
 「いつでも仕事している様子ではなくても、私は月に一度、確実な結果を出している。山上さんとは違うんです。」
 「・・・手厳しいな。山さんにも、いいところはあるが、それは優しさだけだ。」
 「ボス、ひどいですね。それに、数田、俺は、俺のやり方で、俺の結果を出している。」
 数田は足取りをフラフラさせてロッカーから出てくる。途中、何度かロッカーからは出たりしたが、いつでも登場できるように、ずっと待っていた。それに、ボスと山上の会話を聞いていた。
 「山上さん、あなたは初めに気がつくべきところを間違えている。問題なのは死体ではなく、九十七という数字です。ここに着目しないと、いつまで経っても、入り口に入ることができない。たとえば、入場料一万円の遊園地なら、一万円払わないと、遊園地に入ることができないんです。欲しいものだってそうだ、百六十円のジュースを飲みたければ、百六十円払わないといけない。そうしないと泥棒になる。」
 「・・・確かにそうだ。・・・」
 「じゃあ、九十七人が入り口の数字なら、九十七人を犠牲にしろってことか?」
 「それはすでに犠牲になっている。そうじゃなくて、数字の意味を考える必要があるんです。遊園地の入園料一万円は、どういった価値があるか考えるでしょう?スプラシュマウンテンに2回乗る、それで三千円分の価値がある。つぎにパレードを見て、これは二千円の価値がある。お土産屋によると、気分が高揚するし、まあ、千円ぐらいの価値にはなる。そういった具合に考えるでしょ?ジュースだってそうだ。喉が渇いている、それを解決するのに百六十円が高いか安いか検討する。まず、冷えている水分という価値に六十円、味に七十円、残りの三十円にどういった価値が載せられるか考える。」
 「・・・百六十円という数字の根拠ってところか・・」
 「数字には意味があります。その数字を読み取る必要があり、そこに核があります。この事件は初めから割り切れない数字で始まっています。九十七というのは、素数です。一と九十七でしか、割ることができない、つまり割れない数字なのです。しかも三桁までで一番大きな素数だ。百が完全だとしたら、その完全に一番近い、しかし、一番相容れない存在の数字です。これは明らかな犯人からのメッセージでしょう。しかも九十七は八番目のエマープ(数素)でもある。数字を逆さにして七十九にしても素数なのです。」
 「・・・九十七か、しかし、素数って何だ?」
 「いま、説明があったように、割れない数です。ところで、次の素数は101になるのか?で、その次は103になる?なんだ、結構あるじゃないか。数田、それが解決の糸口になるもんかな?九十七とは偶然の数字じゃないのか?」
 「・・・偶然という言葉を使うより、必然で考えないと、何も解決しない。よし、俺は九九をあたる。山上は素数表を作れ。そして、数田、ご苦労だった。一週間ロッカーにいて、辛かっただろう。一週間休んでいいぞ」
 「ボス、マジですか!やったー、地方の風俗店めぐりができるぞ!わーい!69!」
 「おい、数田、値段のことで店の前で考え込むなよ。オプションなんて勢いでなんとかなるからな、それに刑事が職質とかされたらカッコ悪いからな。ねえ、ボス?」
 「・・にさんがはち、にしがひらけ、にごじょうど、にろくぼさつ、にはちそば・・・!そうだ!昼飯はソバにしよう、山さん、ざるそばのあったか版とメシの中盛りを頼んでくれ!」
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