2つの”祭”を通じた先に

文字数 1,052文字

@ 国立音大 芸術祭
 階が目指す音大、国立音楽大学。通称国音と略されて呼ばれるこの大学に於けるいわゆる文化祭は芸術祭と呼ばれ、三日間の日程の中で様々な楽器の演奏を聞くことが出来るのが特徴である。
 例えば合唱やオルガン、トランペット、リート、雅楽など多種多様な音楽を楽しむことが出来る。勿論ピアノ演奏もだ。
 
 当日、西武拝島線を利用し玉川上水駅を降りて西に延びる道を数分間まっすぐ歩いていると、白い大学施設が見えてきた。
 構内に入ると、まるでスペイン階段のような印象深いつくりの新1号館が目を引く。この場所では芸術祭に於ける演奏会の多くが行われている。
 実際に構内を歩き回って様々な楽器の演奏を聴いていく中で、階は国音の音楽を演奏する環境のレベルに関して良い印象を受けた。
 やっぱり音大は規模も質も違うな。そう強く感じることが出来た1日であった。
 実際に芸術祭でピアノの演奏を聴いていても、ピアノのみでも洗練された音でありながら他の楽器と合わさったときには決して強すぎる主張をすることもない、非常に周りと共にバランスの取れた印象を受けることが多かった。
 階にとってそれは、ただひたすらにピアノ単体での上手さを強調するだけでは危ういのかもしれないな、と実感できた瞬間でもあった。

@ 文化祭準備
 融の薦めで実際に階が国音の芸術祭を訪れた数日後、もう一つの文化祭、「青林学院文化祭」の準備がいよいよスタートした。
 事前のアンケートで喫茶班に立候補していた階は、同じく喫茶班に入った融からある提案をされた。
「なあ、階って多分青林学院でも指折りのピアニストじゃん。だからさ、喫茶班のBGMを当日弾くのとかってどうかな?」
「あっ、確かにそれいいね。」
 青林学院の文化祭と言えば、その完成度の高さから毎年多くの人が訪れる。だからこそ、ここでBGMを弾くことは将来的に藤村さんのようなピアニストを目指すうえでアドバンテージにできるかもしれないな。
 そうして少しの下心と、期待感を持ちつつ、階はBGM担当になった。


 一方、ここで視点を颯に戻してみると、颯はステージ班の中でも、特に垂れ幕制作に立候補していた。
 垂れ幕、実際に見てみると分かるが、大きく、美しいデザイン性あふれる宣伝を入れこんだ
この大きな布はかなり目を引く。
 絵を多くの人に見てもらう機会だ、と颯は考えたのだ。

 こうして、階と颯の二人はそれぞれ全く別の立場にいながらにして、奇遇なことに文化祭を自身の芸術をアピールできる絶好の機会だととらえて臨むことになった。
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