重なる二人の姿勢

文字数 632文字

 ―三年生夏休み 受験まで六か月
@ ピアノの先生宅
「あら、そうなの。頑張ってね。」反応はそれだけだった。
 「国立音大を目指したい」階は夏休みに入って間もない日のレッスンでそう明かした。
 もともと多少は自分の技術に自信のあった階でも、それを打ち明けることはそれなりに覚悟のいる決断であった。

ー国立音楽大学ー
 大正時代創立のこの大学は、創立以来多くの卒業生を音楽界に送り出してきた。
 倍率は1倍を少し超える程で高くはないものの、幼いころからピアノを習っている人のみが受験するため、数字以上に難関となっている。

「はい...」先生のそっけない反応に少し拍子抜けしてしまったが、流石自身も音大出身なだけあると、階は感じた。
「試験じゃピアノ以外にも楽典とか、聴音とかもあるからしっかりその勉強もしとくのよ。」
「そのことなんですけど」
「何?」
「先生、レッスンを引き受けてくださいませんか?」
「うーん。ちょっと今年かなり生徒が増えちゃったから忙しいんだよね...
 あっ、そうだ。そう言えば最近日本に戻ってきた大学の後輩に連絡してみようかな。決まったら連絡するね。」
 やはりどこか他人事のよう、というか軽い感じのする返事には、一抹の不安を覚えざるを得ない。
「本当に大丈夫なんですよね。」
「ん〜、分からないわよ。だってあの娘だって講演に引っ張りだこだとか聞くしね。」
 講演....そんなに実力のある人が教えてくれたらな。なかば先生に不信感を覚えながらも、階はそれ以上は追及しなかった。
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