第１６話『教会の廃墟とアン・コンピューター』

教会の廃墟

「　ごほ、ごほ　」と言いながら徐子はさらに。

「　お父さま、大丈夫かしら？　」

むっくりとその2mもある黒マント姿の巨体を薄汚れた木調の椅子に寝っ転がり。

ながら「　ああ、徐子。放射能の解毒剤は飲んでおいた方がいいよ　」

「　まさか、高純度放射能線空中バースト（高純度放射能だけを撒く弾頭）を打ってくるとは思わなかったわ　」

そして徐子が「　うぇっ！　」と口の中から胃液を嘔吐した。

けだるそうに狐が腰に巻かれたベルトから白いプラスチックケースを開け。

長い腕を伸ばし黄色いカプセル錠剤を渡そうとするが。

それも気が付かないようにもんどりうって苦しむ。

徐子は小さな頭を上に向け白目を剥いて口から泡を吹き明らかにチアノーゼ以上の症状を出していた。

「　仕方ないね、徐子。痛いのかい？　」

と言いながら。

でかい上体を起こし我が娘である徐子に介抱するように近づいた。

狐は自分の口の中にカプセル錠剤を「　ぽいっ　」と入れて。

そして、苦しむ徐子の唇にキスをする。

カプセル錠剤を強引に口移しで唇の中に入れ飲み込ませる。

「　ごくん、、、、、、　」と狐が自分の唾液を一緒に飲み込ませる。

「　、、、、、、　」

白目を剥いていた徐子は急激に正気を取り戻したかのように黒目に戻しゆっくりとその華奢な目の縁を真っ黒にした瞼を閉じた。

「　徐子、少しだけお休み。これからの戦いは長いのだから　」

と言い、また別の黒のプラスチックケースからピンク色のカプセル錠剤を取り出しその2mある狐が覆いかぶさり、やはり自分の口の中にぽいっと入れ徐子へ再び口づけをする。

そして、徐子はぐっすりと眠り込む。

狐が飲ませたのは放射能除去解毒薬にそして睡眠薬だった。

教会の外は湖があり周囲は密林とはいかなくてもそれなりに隠れ蓑になる程度には林に囲まれている。



「　ケタケタケタ　」と笑う女性がいた。

その女性はアン・ハイエムだった。

弛緩剤を打たれた上で血は既に吹き出し切りその上すでに両乳房が無い。

肋骨の骨がうっすらとその血の中に見えている。

その上でデジタルパターン迷彩服は断片しかなく。

そして裸になっている股間は血まみれだ。

そして、強烈に首を両指で締められる。

それでも、アン・コンピューターのカメラは生きていてじっと観察しており。

アン・コンピューターはその時、人工計算機という概念を超えた。

―　、、、死ぬ、、、、、、　―

アンは「　殺される、、、　」とつぶやく。

それはアン・コンピューター内で共振を起こす言葉だった。

「　？　」ウイリアム大尉が何かに気づく。

アンの周囲がガタガタと揺れ次の瞬間。

地面の軸がずれる程の地震が起きた、それはアン・コンピューターの下した地下の爆破だ。

ウイリアム大尉は思わずその地震に気を取られる。

―　アン・コンピューター　―の中『　緊急、行動。アン・ハイエムの救助　』とアンのかた腕は判断した。

それは極めて人間に近いコンピュータープログラム上での判断

ある意味でコンピューターは甦った。

感情に近いといえるかも知れない。それが沈黙を続けたウイルスプログラムを入れ込まれた上でアン・コンピューターは判断を下した。

アンのみが耐性を持った劇薬の噴霧を、

それは最後の手段でもある。

アン自身も、生き残る可能性はフィフティフィフティだったし、それはアン・コンピューターも極めて気力に近い人間に近い感情で賭けに出た。

「　何？！　」

ウイリアム大尉はその周囲の全てがオートメーション化された高さ50mの室内に立ち込める劇毒の噴霧に早急に「　全員、ガスマスクを付けろ　」と言ったがその劇薬は皮膚浸透型のものだ。