変わったはずの世界
文字数 1,491文字

早速、変わった過去を確認しようと、まずは、いつもお見舞いに通っていた病院を訪れた。
そこには、彼女が入院していたという事実はなく、リリアンもひとまず胸を撫で下ろす。
だが、時魔導士が言っていた、時間の矯正力が働いていたとしたら、何かしら、別の問題が彼女に発生しているかもしれない。
そう思うと、居ても立っても居られない、早く彼女の現在の消息を知りたい、彼女が無事であって欲しい、そう祈るばかりだ。

吉川美智子が、中学生の時に住んでいた家の住所。
だが、やはり彼女の家は引越してしまっており、その住所には、もう住んでいなかった。
前の彼女は、性的暴行を受けた際の動画をネットに拡散され、それが原因で引越しを余儀なくされた。
過去が変わった筈なのに、家が引越ししてしまっているのは、どういうことなのか? 再びリリアンに不安がよぎる。
リリアンは、自分が知っている限りの、吉川美智子が住んでいた住所を探したが、そのどこにも彼女は居なかった。
他にも、以前の会話から、彼女が行きそうな場所を、思いつく限り探して回ったが、やはり彼女には会えない。
がっかりして、肩を落とすリリアンは、とりあえず自分の家へと帰る。

大好きなカレシとは、ラブラブのままのようではあったが、それでもリリアンは素直に喜べない。
これは別に、過去が変わった影響で忘れた訳ではなく、割とよくあるいつものことだ。
リリアンは、吉川美智子を全く知らないフリをして、カレシに聞いてみることにする。
いつになく真剣なリリアンの様子に、カレシも仕方なく応じる。
カレシの前では平静を装ったが、リリアンは、内心、飛び上がりたくなるほど嬉しかった。
彼女が無事であるならば、何も焦ることはない、ゆっくり探せばいい、そう思うリリアンだった。

もちろん、リリアンには、これまでのことを話す気など、微塵もなかった。
今の幸せな彼女に、そんな辛かった時の話を、聞かせる必要なんて全くない。
すべては、最初からやり直すだけだ。
だけど、それでいい。