百年後、日本にて(終)
文字数 3,159文字
ここに、魂が存在していないことは分かっていたが、それでも骨はここにあり、人間の故人を偲ぶ習慣も理解していたため、こうして定期的に、愛倫 は慎之介の墓参りに訪れていた。
慎之介と暮らしていた50年の間に、愛倫 の生活様式は、普通の人間とほとんど変わらなくなっていた。
無闇に空を飛ばなくなったし、移動には公共交通機関を使う、愛倫 もそれを当たり前のこととして受け入れている。
それは、さらに50年経った今でも変わらない。
そして、買い物に立ち寄ったショッピングモールで愛倫 は、驚くものを目にする。
遠目に、チラッと愛倫 の前を横切った、それ。
それは、慎之介の魂によく似ていた。
死んでしまった筈の慎之介が生きている訳はない、それはもちろん分かってはいたが、それでも、追いかけずにはいられなかった。
そして、ようやく追い付いた愛倫 が見たのものは。
おそらく、5〜6歳ぐらいではないかと思われる、小さな男児。
しかし、魂は、慎之介と全く同じに見える。
字こそ違えど、偶然にも同じ名前。
CHU❤️
その男児は、顔を向かい合わせていた愛倫 の唇に、突然、キスをした。
その子は、サキュバスの特性を直感的に見抜いていた。
そして、それはかって、窮地に陥った愛倫 に、エネルギーを与えて救うために、何度も慎之介と交わされた行為でもある。
唇を重ね合わせた時に、その子の魂に触れた愛倫 は、それが慎之介と同じ魂であることを確信した。
輪廻転生
宗教の違いにより、愛倫 達の世界では、その存在が希薄だった『輪廻転生』の概念。
その子は、時々、まるで前世での記憶があるかのような発言をする。
ガッシャァ―――――ン
ちょうど、その時、ショッピングモールの天井、そのガラスが割れて、空から誰かが降って来る。
ガッシャァ―――――ン
抱きしめた子供の魂は、やはり慎之介のもので間違いない。
空から降って来た男、その背中には白い羽根と、頭には輪っかがついている。
その後を続くように、背中に白い羽根を持つ二人の男が降りて来る。
そう言いながら、子供は三人の男達を指さした。
それは、愛倫 もよく知る、異世界の天使達。
その瞳には、疑うこと知らない、純粋な信頼が宿っている。
サキュバスでありながら、生まれて来てから、千年もの間、戦い続けて来たサキュバス・アイリン。
彼女にとって、この世界での百年は、泡沫の、束の間の安息だったのかもしれない。
そして彼女は、再び戦いはじめる。
愛する者を、愛する二つの世界を守るために……。
(終)
※今後、途中のエピソードを追加していく予定のため、まだ完結にはしていません。
(終わり方自体は、これで決まっており、変更はありません)