現代日本にやって来た、サキュバス達(2)

文字数 2,029文字

オラァッ!
おっと
オラァッ! オラァッ!

人狼は次から次へと拳を繰り出し、止とどまることを知らない、連打。


人狼の猛攻を、かわし続けるアイリン。
チッ……

だが、次第に動きが鈍りはじめ、ガードで防戦する一方に。

(エネルギー切れかい……)
オラァッ!
クッ

人狼の渾身の一撃を、ガードの上からくらい、体ごと吹き飛ばされる。

おいおい、どうしたよお?
イキがってみても、所詮はサキュバス
戦闘は、こんなもんなのかあ?
少々、物足りなないと言う様子の人狼。
フンッ
あれえ?
もしかして、お前、エネルギー切れかあ?
チッ
そうかあ、それで、この車を襲って来たって訳かあっ
人間のクズの、性根の腐った精気なんざあ
お前達、サキュバスの大好物だろうしなあ
エネルギー補給前で残念だったなあ、おいっ
フンッ

こちらの世界に移民して来て以来、人間男性から精気を奪うことを止めるという制約を自らに課し、食物を口径摂取するのみで、エネルギー補給をし続けて来たアイリン。

戦闘で、本来の力を出すには、明らかにエネルギーが足りていない。

オラァッ、オラァッ
……
弱ったサキュバスを、まるでいたぶるかのように、拳を振り回し続ける人狼。

アイリンは、これを、人狼の腕を掴み、流れに逆らわず後ろに飛ぶことで、衝撃を和らげ、受け流す。

派手に飛ぶので、人狼は面白がって、さらに猛追して、拳を振り回す。

……
フハハハハハッ

フハハハハハッ

何度も片膝をついて立ち上がるアイリンの姿を目にし、勝利を確信する人狼。

……

だが、アイリンの目は諦めておらず、むしろ眼光の鋭さは増して行く。

アイリンが、人狼の攻撃を受けつつ、後ろに飛んで乗り切る、それが何度も繰り返された後。
飽きて来た人狼は、アイリンにトドメを刺さんとばかりに、大きなモーションで振りかぶる。
そろそろ、お遊びも、お終いだあ
これでトドメだあっ!!
そう言って、拳を振り下ろそうとした瞬間。
ウッ……
崩れ落ちて、片膝を着いたのは、今度は、人狼のほうだった。
やっとかい……

あんた、あたしがエネルギー切れのサキュバスだと思って、油断したろ?

あたしぐらいのレベルになるとね

男と性交するだけが、精気を得る方法じゃあないんだよ

立ち上がろうとする人狼、だがその足元はフラフラだ。

エナジードレイン……

ドレインタッチか……

そうだよ

何のために、あたしが、殴られる度に、あんたの獣臭い、拳やら腕を掴んでたと思ってるんだい?

まぁ、エネルギー摂取の効率が悪いんで、普段はあまり使わないんだけどね

調子に乗った狼に、気づかれないように、精気を吸い取るぐらいは、わけ無いことさ

フラフラになりながらも、向かって来る人狼。

アイリンは、その土手っ腹に、綺麗な弧を描いた回し蹴りを決めた。

グェッ!!
人狼は腹を押さえて、その場に崩れ落ちる。
まぁ、悪い狼には、お仕置きが必要ってもんさね
アイリンは深呼吸をして発する
――淫夢(いんむ)(せめ)

物質至上主義文明の、ここの人間には、見えないし聞こえない

まぁ、効かないんだけどね

精神至上主義文明の、同郷から来たあんたには、よく効くことだろうよ

!?

いつの間にか、弱った人狼の体には、拘束具、口には猿轡が。

これは、あんたの心の奥底にある欲望を
具現化して、攻撃手段にする術だからね
ある意味、あたしは、あんたの欲望を、叶えてあげてるみたいなもんさ
そう言う、アイリンの手には、巨大な、極太のむちが握られていた。

どうして、あんたみたいな脳筋マッチョには、ドMが多いんだろうね……

やんなっちまうよ、まったく
『鞭打ち千回の刑』

アイリンは、その太く長い、巨大な鞭を高速で振り回し、拘束され、身動きが取れない人狼の背中を、何度も打ちつける。

ほらっ
ビシッ!!

ヴゥッ!

空を切り裂き、ビュンビュンとうなる鞭。

そらっ
ビシッ!!

ヴゥッ!

猿轡で声を出すことも出来ず、呻き声のみを上げる人狼。

もう一丁
ビシッ!!
ヴゥッ!

背中の毛は抜け落ち、皮膚には大きなミミズ腫れが、無数に浮かぶ。

まぁ、千回には全然足らないけど

これ以上やったら、死んじまうからね
失神して、体をピクピク痙攣させる人狼。
キャン……キャン……
 
被害者は無事保護
犯人の男三人は、骨抜きにされて逃亡不可能
人狼も、拘束して身柄を確保
今回もこれで、一件落着ですかね

女子高生を家まで送り届けたリリアンは、状況を確認するように言った。

今回の件は、密航者が絡んでるからね
警察も、移民局も、出て来るだろうよ

さすがに、これで一件落着と言う訳には、いかないだろうね

いろいろ、面倒臭いですからね、こちらの世界も
でもね
あたしは、こっちの世界が、かなり気に入ってるんだよ
まぁ、今回みたいに、やらかす連中は、一定数いるみたいだけどね
それでも、あたし達が居た世界とは、比べるのも失礼なぐらい、平和ですからねぇ
ああ……
だから、あたしはね
この世界の人間と、あたし達、移民者の
平穏な暮らしが、壊れないように、大切にしてあげたいんだよ……
……なるほど
…………
でも、月だけは
故郷のほうが、綺麗に見えたかね
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色