運命の鋼鉄製ワイヤー

文字数 2,388文字

たっ、助けてぇっ!!
あの女、逃げようとしてるぞっ、ウケるぅっ
なんだよぉっ、そんなに俺達と、鬼ごっこがしたかったのかよぉ?
ほらほらっ、早く逃げないと、また捕まっちまうよぉっ?
突然、三人組の男に拉致されて、廃倉庫まで連れ去られた、まだ高校一年生の吉川美智子。
隙を見て、必死に逃げ出そうとしたが、男達はまるで、そんな彼女を弄ぶかのように、嘲笑いながら、追い掛ける。
助けてぇぇぇっ!!
無駄、無駄ぁっ
こんなとこ、人なんか通らないからぁっ
ちゃんと逃げないと、犯されちゃうよぉっ?
あっ!
足元がもつれ、転んで倒れる彼女に、男達はにじり寄る。
ひゃっはっはっはっ
あーあ、残念、転んじゃったねぇっ
なに? もう終わりなのぉっ?
いやぁっ!
来ないでぇっ! 来ないでぇっ!!

まぁ、そう言わずにさぁっ
仲良くしようぜ、俺達と
大丈夫、すぐに、気持ちよくなるからさぁっ
いやぁっ! やめてぇっ!!
転んだ吉川美智子に、男達が触れようとした瞬間。
グエッ!!
……
愛倫(アイリン)の回し蹴りが、どてっぱらに入り、男は転げ回りながら、後ろに吹っ飛んだ。
たっ、助けてぇっ
あぁ、もちろんさ
そのために、あたしはここに来たんだからね
すまなかったねえ
5年も、助けを待たせちまって
??
今の彼女には、その言葉の意味は分からない。
な、なんだてめえはっ!?
一体、どこから現れやがった?
あぁ、あたしかい
あたしは、ただの通りすがりのいい女だよ
クソッ、ふさけやがって
懐からナイフを取り出す男二人。
この女も、一緒にやっちまうぞっ!
だが、愛倫(アイリン)は、襲って来る隙すら与えず、回し蹴りで二人の男も吹っ飛ばした。
ウゥッ……
ハァッ、ハァッ……
グゥッ……
倒れたまま、立ち上がることすら出来ない男達。
もちろん、手加減はしたけどね
まぁ、あばらの2,3本は、折れてるんじゃあないかねぇ
でも、あんた達みたいなのは、本当に厄介なんだよ
なにせ、反省ってもんをしないからねぇ
きっと、また、同じことをやらかすだろうし
逆恨みでもして、また、この()が、襲われたりしてもなんだから
術をかけさせてもらうよ、あんた達には
ペルセウスの盾
これは、やろうとした悪事が、すべて自分に返って来るって術でね
まぁ、もちろん、幻覚なんだけどね
地面に倒れている男達三人は、悲鳴を上げ、飛び跳ねながら、転げ回る。
やっ、やめろっ、そんなデカいの挿入されたら、俺の体が裂けちまうっ
もうやめてくれぇっ! これ以上は、俺のケツ穴が壊れちまうっ!
もっ、もう許してくれぇっ、勘弁してくれぇっ! ケツから血が出て止まらねえっ!
まぁ、大方、ゴブリンの群れに、尻の穴を犯されている幻覚でも見てるんだろうよ
心の底から反省するまで、その幻覚に悩まされるといいよ
そうさね、まぁ、ざっと5年ぐらいは、地獄を見る必要があるんじゃあないかね
 
吉川美智子を、無事に家まで送り届けた愛倫(アイリン)
本当に、どうもありがとうございました
あぁ、そうだ……
今から5年後に、リリアンっていう名前の、ハロウィンのコスプレみたいな衣装を着た娘が訪ねて来るからね
その時は、仲良くしてあげておくれよ
あんたと友達になりたいんだよ、その()
??
吉川美智子と別れ、今度は自分が、元の時間に帰る番だったが。
しかし、時魔導士の術も……
時間は正確だったけど、場所が全然違ったじゃあないかい
ギリギリ間に合ったからいいけど
あやうく間に合わなくなるところだったよ
あいつ、もしかしたら、方向音痴なんじゃないかい?
帰ったら、文句を言ってやらないとねぇ
……はぁっ
珍しく、深いため息を吐く。
正直なところ……
今の状態だと、帰れる気が全くしないんだけどね
過去に来るだけでも、相当なエネルギーを消耗しちまったし、術も使っちまった
ガス欠ってやつだね、完全に
さすがに、あたしのエネルギーが切れたら、慎さんと繋がっている運命の赤い糸も切れちまうだろうし……
……
まぁ、1000年も生きているあたしからすれば
5年なんて、誤差みたいなもんだけどね……
ただ、5年前は、まだ移民がはじまっていないから
今のあたしは、密入国者ってことになっちまうのかねぇ……
……
慎さん、すまないねえ
すぐには、帰れそうにないかもしれないよ……
!?
愛倫(アイリン)がそう口にした途端、その体は、空高くへと引きずり上げられた。
正しくは、愛倫(アイリン)の気持ちにシンクロして、と言うべきか。
どういうことだいっ!?
……愛倫(アイリン)さん……
慎さん!? なのかい?
愛倫(アイリン)と慎之介、二人を繋ぐ魂の命綱。
愛倫(アイリン)の危機を察知した慎之介は、その命綱を引っ張り上げることにしたのだ。
それは、さすがに無理ってもんだよっ!?
そんな無理矢理引っ張り上げたら、繋がっている糸が切れちまうよっ!?
そう言って、二人を繋ぐ魂の糸を確認する愛倫(アイリン)
こっ、これは!?
しかし、それは、糸どころか、工事現場用の鋼鉄製ワイヤーのように太く硬く、変質している。
愛倫(アイリン)が言う、勇者や英雄のように強い慎之介の魂が、慎之介の強い意志、信念、思念によって、二人を繋ぐ魂の絆をより強固なものへと変えたのだった。
……愛倫(アイリン)さん……
慎さん……
慎之介の魂の力によって、愛倫(アイリン)は、どんどんと元の世界へと引き上げらて行く。
……これじゃあ、まるで……
力強くて逞しい、頼れる男に、ぐいぐいと引っ張って行ってもらう
まるであたしが、そんな女になったみたいだよ……
1000年以上生きて来たけど、こんなのは、初めての経験だよ
そもそも、あたしより強い男なんて、これまでいなかったしね
もちろん、その強さとは、肉体的な強さでも、戦闘能力のことでもない。
でも、随分と、心地いいもんなんだね……
誰かに安心して、身を委ねられるってことが
こんなにも、心地いいものだなんて、知らなかったよ
これまで1000年以上も生きて来たのにね……
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