タイムダイバー

文字数 2,043文字

一人の人間を助けるために、この世界の時間を巻き戻すというのは、さすがにリスクが大き過ぎるが……
だが、過去に誰かを送って、その女を助けるという方法なら、比較的リスクは低い
時魔導士は、昔の話を終え、いよいよ本題へと入る。
そこのお嬢ちゃんが言うように
(あたしのことよね?)
死んだ人間を助けるのではなく、まだ生きている人間の過去を変えるだけというなら、尚更な
じゃあ、みっちゃんを助けられるんですねっ!?
いや、話は最後までよく聞いてくれよ、お嬢ちゃん
確かに、過去に誰かを送ることは出来るが
だたし、この方法だと、俺が保証出来るのは、行きの片道切符だけだ
以前、過去に送った奴で、元の時間軸に戻って来られた奴は、今のところ一人もいねえっ
えぇっ……
もちろん、普通の人間には無理だし
人間じゃあねえ、他の種族でも、まぁ無理だろう
そんなぁ……
理論的には、出来ねえってことはねえんだ
今現在に強い思念を残しておいて、過去に行き、帰りは残して来た思念を目標にして戻って来る
……
それだけなんだがな
分かったような、分からないような……
まぁ、そうだな
分かりやすく例えるなら
命綱をつけて、海中深くダイビングするようなもんだな
どんなに海中の深いところで流されて、位置が分からなくなったとしても
命綱がある限りは、それを辿れば、元居た場所に戻って来られる
なるほどぉ
問題なのは、どうやって、その強い思念を現在に残すかってことだ
……
……あたし、やります
友達のみっちゃんを、助けてあげたいから
あたし、やってみます
やめときな
あんたじゃ、まず、戻って来られないよ
で、でもぉ……
まぁ、しょうがないね
可愛い妹分のためだ、あたしが一肌脱ごうじゃないか
姐さんっ!

まぁ確かに、戻って来られる可能性が一番高いのは、あんただろうな
サキュバス・アイリン
あぁ、今の例えで、ちょっとしたアイデアを思いついたんだよ
それには、慎さんの協力が必要だけどね
もちろん、協力は惜しみません
なんでもしますよ
それと、もう一つ……
事前に言っておかなくちゃならないことがある
まだあるんですかぁ?
過去を変えたとしても、大なり小なり、時間の矯正力が働く場合がある……
もしその女を過去で助けて、病死を免れたとしても
ある日突然、その女が、交通事故で死んじまう可能性だってある
そうなれば、あんたらがやったことは無駄になっちまう
それでもやるのかい?
あんた、何言ってるんだい?
あたしは、あんたのことを、ちょっと褒め過ぎたのかもしれないねぇ
あんただって、500年前、奴隷生活を余儀なくされていた人間達を見て来たんだろ?
何年にも渡って、地獄のような苦しみを味合わされてから死ぬぐらいなら
交通事故で、一瞬の内に死んじまったほうが、よっぽどマシってもんさね
人間としての尊厳は、踏み躙られちゃあならないんだよ
なるほどな
そのために、今回もまた、危険を冒すのか、サキュバス・アイリン
あの時のように……
 
もう準備はいいのか?
時の扉が開くぞっ
過去の性犯罪を未然に防ぐため、時の流れの中を、ダイブすることになった愛倫(アイリン)
時間座標は、吉川美智子が暴漢達に襲われた、5年前の4月23日、場所は日本の東京。
あぁ、ちょっと待っておくれよ
CHU❤️
おもむろに、慎之介の唇にキスをする愛倫(アイリン)
さらに、それだけにとどまらず、自らの舌を、慎之介の舌に絡め、粘膜接触を果たした。
きゃぁっ❤️ モーレツ
ちょっ
なっ、なにをするんです? 急に
お別れのキスとか、そういうことですか?
いや、これはマーキングだよ
コネクトと言ったほうがいいかね、魂の
魂のコネクト……
これで、今、慎さんの魂と、あたしの魂は、細い糸のような生体エネルギーでつながったから
時魔導士が言っていた、命綱ってやつさ
まぁ、もっとロマンチックに例えるなら
こっちで言う、運命の赤い糸ってやつかね?
あれをイメージしてもらえば、分かりやすいかもしれないね
なるほど
いやん、なんか素敵っ❤️

それは、確かに、悪くないアイデアだがな……

その兄さんにも、相当な負担がかかるぞ?

こっちの世界の、普通の人間だしな

いや
あんたには見えないだろうけどね
慎さんは、まるで勇者や英雄みたいな、強い魂の持ち主なんだ

なにせ、あたしが、一目惚れしちまうぐらいだからね

それに、これまでずっと

慎さんは、あたしのバディとして、いつも一緒に戦って来てくれたんから

あたしは、慎さんを信じるよ

分かりました

自分も頑張りますし

自分も、愛倫(アイリン)さんを信じます

必ず、この時間軸に、必ず戻って来てくれると

あぁ、約束するよ、慎さん

必ず戻って来るから
姐さん、みっちゃんのこと、お願いします
あぁ、任せておきな
でも、あんた
現在が変わっっちまって、カレシと別れてたりしてても
あたしのことを恨むんじゃあないよ?
絶対、大丈夫ですからっ!
……うーん、多分
あたしも、ヨシくんとの、運命の赤い糸、信じてますからっ
じゃあ、ちょっくら、行ってくるよ、5年前に
愛倫(アイリン)はそう言うと、時の扉をくぐり、時の流れの中にダイブした。
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