時魔導士の行方

文字数 2,559文字

いつも、来てくれて、ありがとうね
……うん、ついでだから
今まで、お見舞いに来てくれた人とかいなかったから、ホント、嬉しい……
そうなんだ
彼女に一体何があったのか?
それが気になって仕方がないリリアンは、何度も病院に通い、彼女に会っていた。
 
それで、何か分かったのかい?
あたしが聞いた範囲では……
拙者が調べたところによると……
リリアンが彼女から直接聞いた話と、ニンジャマスターが調べた情報を合わせると、彼女の身に過去に起こった出来事、そのおおよそは判明した。
彼女が、ヨシタカと同じ中学を卒業し、高校に入学した直後、夜道を歩いていたところを、見ず知らずの男達に拉致され、極度の性的暴行を受ける。
男達は、その際に撮影した動画や写真を、ネットに拡散されたくなければ、自分達の言いなりになれと、彼女を脅迫。
その後、しばらくの間、彼女は、男達から性欲処理係のような扱いをうけた。
ここで、彼女は、一度目の自殺をはかる。
一命を取り留めた彼女、今度は、男達からの要求を拒否したが、男達は、彼女がレイプされた時の動画や写真を、本当に、ネットに拡散してしまった。
そのネット動画は、瞬く間に、彼女の生活圏の人々にも知れ渡り、友達は彼女から離れて行き、近所の人達からは後ろ指を刺され、一家は引越しすることを余儀なくされた。
ここで再び、彼女は、自殺をはかる。
その後も、ネット動画のことが近所にバレる度に、何度も引越しを繰り返し、母親はノイローゼとなって、現在、精神病院に入院中。
そして、彼女自身もまた、男達から感染した病気により、入退院を繰り返し、今は末期の状態にまで来ている。
このままでは、一年以内には、病気で死んでしまうだろうと、彼女本人の口から、リリアンは聞いていた。
まぁ、なんとも、胸糞が悪い話だねえ
許せない
あたし達が居た世界では、こういう不幸な女は、五万と居たけど
ただ、こっちの平穏な生活の中だと
彼女の悲惨さが、際立っちまうね
なんとかしてあげられないんですかっ?
なんとかしてあげたいのは、やまやまなんだけどね
あたし達は、医者でも、ヒーラーでもないんだ……
もっと、あたし達が早く移民して来ていたら
彼女を助けてあげることが出来たのに……
いや、その考え方はよくないね
あたし達は、万能な神でも、なんでもないんだよ
今でも、助けてあげられない人達は、この世界に大勢いる
そのことは、肝に銘じておかないといけないよ
確かに、そうですけど……
例えば、過去に起こったことを、なかったことにするとか、出来ないんですかね?
そんな術が使えるのは……
まぁ、時魔導士ぐらいのもんさね
時魔導士?
その人は、こっちの世界に移民して来ていないんですか?
いや、リリアン殿……
時魔導士というのは、向こうの世界でも、500年以上も消息不明な
もはや、伝説上の架空の存在みたいなものでござるよ
今もまだ生きているのか、生きていたとしても、名前すら分からない、そんな存在でござるよ
でも、伝説上の架空の存在だと思われているサキュバスが、今、あたしの目の前に居るじゃあないですか
だったら、その時魔導士が、どこかで生きていても、おかしくないじゃないですか
いや、まぁ、そうなんだけどね
もし仮に、時魔導士が居たとして
過去を変えるってことは、現在が変わっちまうってことだろ?
現在がどんな風に変わるのか分からないのに、おいそれと、気やすく過去を変えるなんて出来やしないよ
確かに、そうですけど……
でも、死んだはずの人を、過去に行って助けて、生きていることにしたら
そりゃ、大きく現在が変わるとは思いますけど
でも、彼女は、今もまだ生きてるんですよ?
そこまで大きく、歴史が変わるとは思えませんけど
じゃあ、もし彼女が、性的暴行の被害に遭わなかったら
もしかしたら、今あんたとラブラブなカレシは、あんたじゃなくて、その彼女と付き合っているかもしれないんだよ?
それは嫌ですっ! 絶対!
そんな風にね、どこでどう、現在に影響が出るか、分からないってことさね
でも……
でも、彼女を助けたいんですっ!!
やれやれ……
困った子だねぇ、まったく
 
愛倫(アイリン)が止めるのも聞かず、リリアンは必死になって、時魔導士のことを調べ、行方を探ろうとする。
あぁ、どこに居るんだろう、時魔導士って……
……
時折、喫茶『カミスギ』に立ち寄る、移民局の慎之介は、そんなリリアンの姿を見掛けていた。
 
だが、異世界で500年も消息不明だった時魔導士を、そう簡単に探せる筈もなく。
吉川美智子の命、そのタイムリミットは、刻一刻と迫って来ていた。
あぁ、こうしている間にも、みっちゃんの余命がぁ……
……
すでに、お互いを『みっちゃん』『りりちゃん』と呼び合う程に、仲が進展している二人。
せっかく、こっちの世界ではじめて出来た、人間の女の子の友達なのにぃ……
あんた、やっぱり、分かってないようだけどね
彼女の過去を変えたら、あんたと出会ったこの世界線も、記憶も、おそらく消えちまうんだよ?
あんたは覚えていたとしても、おそらく向こうは、あんたのことを覚えてないだろう
それでもいいのかい?
うーっ
それでも、いいんです
そしたら、また会いに行って、友達になりますから
やれやれ……
頑固な子だねぇ、まったく
あーあ……
ねぇ、慎之介ぇ、移民局に、なんか情報ないのぉ?
……
まぁ、慎之介が、異世界に居る時魔導士の居場所なんて、知ってる訳ないかぁ………
…………
知ってますよ……
えっ!?
えっ!?
えっ!?
いつものように、喫茶『カミスギ』の天井に隠れていたニンジャマスターですら、思わず声を上げてしまうぐらい、その場の一同は驚いた。
そして、慎之介が、こういう時に、嘘や冗談を言うような男ではないことを、みな知っている。
今まで黙っていて、すいません
ただ、これは、国のトップシークレット中のトップシークレットなので
これまで、数々の難事件を解決し
何度も、悪魔の侵攻を阻止してくださったみなさんには
お伝えしてもいいと、先程、許可が降りまして
それに、どうやら、時魔導士のほうも、みなさんにお会いしたがっているようでして
で、どこに居るのよぉっ? 慎之介ぇっ

ということは、日本に居るのかい? 時魔導士は
そうなんです
時魔導士は、日本に居ます
しかも、500年も前から……
そりゃ、どうりで、500年も行方不明だった訳だよ……
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