そこが、時魔導士と会うのに、指定された場所であった。
世界の歴史を一瞬で変えかねない能力を持つ時魔導士だけに、日本政府の取扱いも慎重で、ホテルには厳重な警備体制が敷かれている。
もし他国の手に渡りでもしたら、とんでもないことになりますからね
慎之介の話によれば、時魔導士本人は、500年前にこちらの世界に来たと言っているが、日本政府が、その存在を確認したのは、戦中のことだと言う。
それ以来、本人の自由な行動は認められているものの、監視対象として、24時間365日、常にSPが付き纏っているらしい。
あちらの世界の出身者に会うのも、500年ぶりだな……
なんで、500年も前から、この世界の日本に居るんだい?
ここはなあ、昔、あっちの世界にとっては、流刑地だったんだよ
つまり、俺は、500年前に、ここに島流しにされた罪人ってわけだ
じゃあ、あんた、あたしのことを恨んでるってことかい?
帝国はな、俺の時魔導の能力を使って、何度も歴史をやり直させていた
自分達に都合がいい結果に辿り着くまで、何度も何度もな
そして、当時の俺は、それが世の中のためになる、正しいことだと信じていた……
1割の富裕層と、9割の奴隷で成り立っている、クソみたいな世界だった
俺は、そのことに、多少なりとも、責任を感じていたんだ……
帝国は、今なお健在で、俺もこっちに島流しにされることはなかったかもしれねえな……
だけど、その代わりに、9割の国民は、地獄のような苦しみを味わされ続けることになる……
だが、そこで俺を庇ってくれたのが、大賢者の爺さんだったんだ
まぁ、時魔導士なんて稀少で、あの時も、俺以外には誰も居なかったしな
お陰で、俺は、死刑を免れて、流刑地であるこの世界に、島流しにされることになった
まぁ、こっちの世界も、悪くはなかったから、すぐに気に入っちまったけどな
まぁ、俺が来た頃は、こっちもまだ戦国時代だったから、酷い有様ではあったが
ここまで来たら、ついでだから、聞かせて欲しいんだけどね
500年前に、この世界に来たあんたが、正体を隠しながら、こっちで暮らしていた
そこが、どうにも、あたしには、よく分からないんだよ
お前らが知っている今は、過去改変が行われた後の世界だからな
帝国の件で、過去を改悪してしまった、過ちを犯してしまった俺は
もう二度と、施政者のために、時魔道を使うことは決してしないと、心に誓っていたんだ
だから、正体を隠し、こちらの人間であるかのように、市井に溶け込んで、普通に暮らしていた
その時は、もちろん、戦争なんぞに関与する気は微塵もなかった
何十万人もの命が、一瞬で消滅していく様を目の当たりにして
ついに、俺は、黙って見過ごすことが出来なくなった……
それで、俺のほうから、当時の日本政府に接触したんだ
あくまで、人道的見地のみでの利用という条件を付けて
まぁ、今はそれを、日本政府の施設で研究しているんだがね
だから、もしかしたら、本来進むべきだった筈の正史を、きちんと進行している平行世界があるのかもしれない
俺がやったことは、また改悪だったのか、改良だったのか、答え合わせをしてみたい気持ちもある
まぁ、この世界は、あたし達が居た世界とは比べるまでもなく、平穏な世界なのは間違いないよ
それだけでも、今回は、失敗してないんじゃあないかと、あたしは思うけどね
今にして思えば、あんたは、稀代のテロリストということになる訳だが
奴隷にされちまった、9割の者達の怒りが、あたしを突き動かしたんだよ……