現代日本にやって来た、サキュバス達(1)

文字数 2,552文字

あぁ〜もう
すっかり、帰りが遅くなっちゃったなぁ

人気(ひとけ)のない夜道を、一人で歩いている女子高生。

キイィィィィィッ!
!?
ガラッ!

その側に、箱型バンが急ブレーキで止まり、スライドドアが開いたかと思うと、中から男二人が飛び降りて来る。

(急げっ!
(あぁっ
キャッ!!

二人の男達は、女子高生に襲い掛かる。

男の一人が、少女を後ろから羽交い絞めにすると、もう一人の男は、手に持つ粘着テープで、素早く、少女の口を塞いだ。
ウゥッ! ウゥッ!

何が起こったのかもわからず、男を振りほどこうとする少女だったが、男二人による力の前には抵抗 (むな)しく、そのまま車内へと引きずり込まれる。

ドンッ!
よしっ、車を出せっ
はい
ンンッ、ンンッ

全身をバタバタさせ、車内で必死にもがく女子高生。

暴れないように、手足も、粘着テープで縛っておけ
おうっ
大人しくしろっ!

ンンッ、ンンッ

男達に力づくで抑え込まれ、少女の瞳は恐怖に怯えている。

誰にも見られなかっただろうな?
あぁ、大丈夫だ
人っ子一人、いなかったから、なあ?
おうっ

車内の男は、総勢四人。

運転手が一人に、少女を拉致した二人。

そして助手席で待機していたリーダー格の男。

可愛いJKを拉致って、変態の旦那のとこに連れて行くだけで、大金が貰えるんだから、楽なもんよな

その前に、俺達で楽しませてもらうんだけどなっ、へへへ
ちゃんと、動画も撮っておけよ

AV会社に投稿したら、そっちからも金が貰えるからな

あぁ、ちゃんと、カメラは持って来てるぜ

そう言われ、男の一人がカメラを取り出した。

ンンッ、ンンッ

少女の瞳は絶望に満ち、その目には涙が溢れる。

獣のような男たちが、少女の制服に手を掛けた瞬間。

車のヘッドライトの中に浮かび上がる、女のシルエット。

チッ!!
キイィィィィィッ!

運転手が慌てて急ブレーキを掛けたため、車内は大きく揺れ、男達はバランスを崩した。

おいっ!

バッキャロー!!

危ねえじゃねか!!

てめえ、死にてえのかっ!!
はんっ

運転手の大声での恫喝にも動じることなく、車の前から動こうとしない、黒いライダースーツ姿の女。

いいから、轢いちまえっ!
よしっ!
仲間の声に、運転手はアクセルを踏み込む。
はんっ
それと同時に、女は片手を前に出す。
キュルルル、キュルルル
タイヤが地面と擦れる、激しい回転音はするが、車は一向に、前に進もうとはしない。
なにやってんだっ!
このままじゃ、あやしまれちまうぞっ!

ンンッ、ンンッ

ええいっ、こうなりゃ、あの女も、一緒にさらっちまえっ!

ガラッ!

車のスライドドアを開け、勢いよく、外へ飛び出した男三人だったが……。

うふふ……
うふふ……
うふふ……
うふふ……

男達の前に居たのは、大勢のサキュバスの女達。

なっ、なんだ、こいつらっ!?
一体、どっから、湧いて来やがった!?
そこをどきやがれっ!
痛い目にあいてえのかっ!オラァ
やだあ〜
コワイ〜
そんなことより
いいこと、しましょ

男三人が大声で恫喝したのも束の間。

サキュバスの女達、その魅了・誘惑の術の前に、即座に陥落、あっという間に骨抜きにされてしまう。

いやぁ、いいねえ〜
やっぱ、いいことでしょっ、いいこと
よーし、おじさん、張り切っちゃうぞぉっ

その隙に、サキュバスのロリッ娘・リリアンが、車内の女子高生を助け出す。

助けに来たよぉっ
大丈夫かな?
ンンッ、ンンッ
 
さて

このライダースーツの女、その名をアイリン。

異世界から、この現代日本に移民して来たサキュバスの一人であり、サキュバス移民団のリーダー。

異世界で、千年以上を生き続けて来た、伝説級のサキュバスでもある。


アイリンが車を止め、他のサキュバス達が男共を魅了し、リリアンが女子高生を助け出す。

彼女達の作戦が、見事に成功したと思われた、その時。
クソッ!
キャッ!
運転手の男が、リリアンに殴り掛かった。
おっと

その拳が、リリアンに接触する寸前、アイリンは片手でこれを受け止める。

そ、そんな……
人間の男に、あたし達サキュバスの魅了が、効かないだなんて……
ふんっ
リリアン、あんた、こっちの世界に来てから

嗅覚がおかしくなっちまったんじゃないかい?

えっ!?
こんな獣臭い、人間の男なんて、居るもんかい

アイリンはそう言うと、運転手の拳を強く掴んで、握り潰そうとする。

クッ!
運転手の男は、その手を振り払った。

まさかなぁ、こんなところで、サキュバスなんぞに、邪魔されるとはなあっ

グヌヌヌヌヌッ

運転手の体が見る見る膨れ上がり、上半身の衣服が、裂けて千切れる。

リリアン、そのを連れて逃げな!

はいっ!

リリアンは背中から蝙蝠の羽根を出し、女子高生を抱えて、空へと逃げる。

グヌヌヌヌヌッ

運転手の体は、筋骨隆々の肉体へと変身を遂げ、全身を体毛が覆い尽くす。

アオォォォォォンッ!
人狼かい……
まぁ、獣の臭いからして、そんなことだろうと、思ってはいたよ
お前らサキュバスは、いいよなあ?
人狼となった男は、長い舌舐めずりをしてみせた。
タダで、やらせてやるって言って、男から精気吸い取ってりゃ
それ程、食費も生活費もかからないだろうからなあ?

こっちはなあ、そういう訳にはいかねぇんだよ

この体を維持しようと思うとな
物凄い食費がかかるんだよ
大量に食わなくちゃならないからな
だから、こちとら、いっつも飢えてんだよっ
それで、金が必要だったって訳かい?
そうよ、食費を稼ぐ為に、あいつ等
この世界の裏家業の連中に、金で雇われてたって訳さ
用心棒としてなあ

人狼は、その安全性から、まだ移民者として認められてはいない筈……

となれば……
あんた、密航者かいっ!?
ああ、そうよぉ
……
あんた、まさか
人間は喰ってないだろうねっ!?
さぁ、どうだろうな?

この世界で、異世界からの移民者が、人間を喰らうのは、御法度中の御法度

それこそ、即、移民が中止となり、全員が強制送還という事態になりかねない……

そうでなくても、移民者に対する差別や偏見が、まだ根強いって言うのに……
まぁ、密航者の俺には、関係ねえ話だがなあ
……

あたしだってね、同郷の仲間を売るような真似はしたくないんだけどね

こっちの世界で、罪を犯してるってんなら、話は別さ

しかも、今回のは、ちょっと、看過出来るようなもんじゃあないしね

じゃあ、どうするって言うんだよおっ!?

その言葉と共に、人狼の拳がアイリンに襲い掛かる。

やるしか、なさそうだね
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