夫婦喧嘩は、サキュバスでも食えない
文字数 2,241文字
数百人以上のサキュバス移民者達は、日本全国に散っており、人間達に迷惑を掛けないように、各々が生活しているのだが。
その晩ミルリンは溢れる正義感(実はお腹が空いていただけ)で、性犯罪をやらかしそうな男がいないか、蝙蝠の姿で夜空を飛び回っていた。
ミルリンは、こっそりベランダに忍び込んで、カーテンの隙間から部屋の中を覗き込む。
旦那だと思われる男が、大声で怒鳴りながら、妻だと思われる女を殴っている。
それを見て、思わず声を上げてしまったミルリンだったが、部屋の中の人間達は、修羅場で、それに気づくどころではなかったようだ。
女は泣きながら何かを訴えるが、男はますます逆上し、エスカレートして、女に殴る蹴るの暴行を加える。
窓のドアに手をやると、偶然にも鍵は掛かっていない。
どうしようかと迷っていると、室内の男が興奮し過ぎたのか、今まで殴っていた女に、性的暴行まで加えようとしはじめる。
その状況で真剣にそう思ったミルリンは、それだけで相当残念な子であるのだが、さらにDV男を止めるべく、ベランダの窓を開け、部屋の中へと入って行く。
女に向けられた性欲を自分に向けさせ、その隙に女に逃げてもらおうと思ったミルリン。
サキュバスの魅了、誘惑を最大限に活かし、DV男をあっという間にメロメロにさせる。
その間に逃げてもらおうと思っていたはずなのだが、予想外なことに、ミルリンは女から罵声を浴びた。
まるでクイズでも出すかの口調で尋ねる慎之介に、耳を塞いで聴こえないフリをしている
とりあえず、今回は、警察で事情聴取を受け、移民局の慎之介が身元引受人となり、その足でこの店に来たということだった。
端からどんな風に思われようとも、当人同士にしかわからないということはよくある。
そしてこのミルリンの事件、あっという間に他のサキュバス達にも広まり
みんな面白がって、まるで笑い話や小話のように伝承するので、移民サキュバスの間では、後世まで語り継がれていくことになる。