52 彼女の行方

文字数 1,608文字

「いいですこと? わたくしたちはあなた方の味方。それは未来永劫変わりませんわ」
 怒られるのだと思っていた奏斗は愛花の言葉に驚く。
「遠慮なく頼っていただきたいの。ですわよね? 圭一」
「ああ」
 返事をする圭一。慈愛の眼差しをこちらに向ける愛花。
 奏斗はゆっくりと二人を交互に見やる。
 彼らは世間ではライバルとされている会社を担っていくもの同士。幼馴染みとはいえ、噂とは違い行動を共にすることが多かった。
 彼らの絆は『単なる幼馴染み』ではないのではないか。奏斗はそんな風に想い始めていた。

「二人って、仲良いよね。ほら、世間ではライバル会社と言われているところの子息子女なのに」
 それは親がその関係を許しているという意味でもあるはずだ。
「あら、圭一。白石くんには話しておりませんの?」
 愛花の言い方では、古川(こがわ)には話してあると受け取れた。
「わたくしの母が圭一の叔母と幼馴染みで親友ですのよ。そして叔母様は母の兄、つまり伯父と結婚したことがありますの」
 ”結婚したことがある”と過去形で話すということは、現在は離婚しているということなのだろう。
「離縁してしまいましたが、三人の関係は変わりませんの。そしてわたしたちも親戚の時となんら変わりませんわ」
 にっこりと微笑む彼女。
「ですわよね、ミノリ」
 いつの間にか入り口付近に彼女の妹のミノリと古川が立っていた。

 そこで古川が静かだった理由を唐突に理解する。古川はここに集まることを予め知っていた。その集まる順番も。
「ええ。世間で言われているのとは違い、大里グループと大崎グループは助け合う仲でしてよ」
 ミノリがモデルのように美しい歩き姿で近づいてくる。
「お座りなさい。ミノリ、古川」
 ミノリと古川は一礼すると奏斗たちが座っている左手の二人掛けのソファーに腰かけた。二人が着席するのを確認し、愛花が奏斗の正面に腰かける。

「俺たちは白石の味方だよ」
 古川の言葉を皮切りに現在の状況の説明が始まった。
「学生会の方では、花穂先輩の足取りについての情報集めをした」
 奏斗は”いつの間に”という感想を持ったが、彼のが言っていた『特権階級の集まりでしょ?』という言葉を思い出す。
 あれは伏線だったのだと。
 そして圭一があの時、古川に”何言ってんだ、お前”という視線を向けた意味に気づく。

 『古川悠』は、圭一たちと仲が良い。
 中等部からの外部生なのにも関わらず生徒会長にも就任したし、学生会にも入っている。このままいけば恐らく会長に就任するだろう。
 K学園は圧倒的に内部生が多い。生徒会役員はもちろん指名制ではなく、投票によって立候補者から選ばれる。
 そう、彼は紛れもなく生徒から支持されているのだ。
 高等部二年の時は風紀委員会の副委員長も務めている。普段、冗談ばかり言っているから気づかなかったが、皆から敬愛される人格者ということだ。

「その中で、有力な情報がこれ」
 ”今日まで話せなくてソワソワしちゃったよ”と場を和ませつつ、二枚の写真をローテーブルの上に置く古川。
「よく見つかりましたわね」
「古川は有能だからな。人望もあるし」
 ”古川が声かけすれば協力を申し出るやつはいくらでもいる”と圭一は続けて。
「まあ、特権階級の力ってやつ?」
「何言ってんだ、お前は」
 古川の努力や苦労を知っているのは他でもない圭一なのだろう。

 奏斗はローテーブルの上に置かれた写真を一枚取り上げ、じっと見つめた。
「それはたまたま映りこんでしまっただけのようですけど、花穂に気づいた撮影者は確かに見たと言っておりますわ」
「場所は空港みたいだね」
 愛花に続いて古川が説明をする。
「どこに向かったのか調べるのは、そう大変でもありませんでしたわ」
 圭一は何も言わないが、学生課で在籍確認などを行ったらしい。
 総合すると花穂は和馬に会いに行くと言ったその日を境に、日本から離れたらしい。奏斗はなんと言っていいのか分からず、俯いた。
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