2 愛しい彼に【R】

文字数 1,616文字

「ここ、いいの?」
 カリを刺激しながら問えば、奏斗は何も聞くなと言うように涙目で花穂を睨みつけた。
 花穂はそんな彼の目元に優しくキスをする。

──この子、ホントにしたことあるの?

 確かに感じているはずなのに、ちっとも乗り気ではないのだ。
「一回()かせてあげる。()くとこ見せてよ、奏斗」
「なんでそんなの見たいんだよ、変態」
「ふふ」
 首筋に手を這わせ、そのまま(うなじ)を撫でる。耳たぶを甘噛みすると彼が声にならない声を漏らした。
「耳、弱いのね。可愛い」
「可愛い……って言われるの、好きじゃない」
 花穂の肩に顔を埋めているため、くぐもった声で。
「子ども扱いしているわけじゃないわ。()でてるのよ」
「俺は鑑賞物か何かかよ……」
 愛しいと感じているだけなのに伝わらないし、伝えることはできない。もどかしさを感じながら彼の肩にキスを落とす。
 余裕なんかないはずなのに、一所懸命反抗的な態度をとる彼はやはり可愛いなと思う。

──撫でられるのは好きみたいなのにね。

 彼自身を根元から強くしごき上げる花穂。
 浅く息をし、快感に耐える奏斗。
 されたことがないなら、するほうなのだろうかとぼんやり思う。

──じゃあこんな奏斗を見られるのも、わたしだけ?
 それは嬉しいわね。

「花穂……」
 ()きそうなのか切なげに花穂の名を呼ぶ奏斗の顎に手を伸ばすと、その唇を塞ぐ。
「口開けて」
「ん……」
 素直に言うことを聞く彼が愛しい。
 最初はおずおずと応じていた奏斗も次第に夢中になっているように感じた。

 花穂は今まで一度も恋をしたことがなかった。奏斗に出会うまで。
 恋を知る前に男の汚い部分を知ってしまったから。
 それでも一人娘だった花穂は父の仕事を継げるのが自分しかいないこと理解していたから、いつかは結婚しなければならないと思っていた。
 それなら少しでも条件の良い相手がいいと思っていたが、結論から言えばそんな気持ちになれる相手はいなかったのである。

──条件がいいところか、奏斗は一般家庭の普通の子。見目は良いけれど、良家の子息というわけではない。

「いいのよ? ()って」
「はあッ……」
 恨みがましい目を向ける彼。
 男でも見られることを恥じるのだろうか? そんな偏見にまみれた感想を持ちながら彼の鈴口を見つめていた。
「なんで、そんなじっと見るんだよ」
「見たいの。奏斗がわたしにいかされるとこ」
「……っ」
 彼はぎゅっと目を閉じる。

 花穂は奏斗が鈴口から熱を放つの見つめていた。
 そもそもそんなトコさえ見たいと思ったことはない。

「こんなの見て、何が……楽しいんだよ」
 真っ赤な顔をして腕で顔を覆う彼。
 花穂はその腕に触れる。
「そんなに恥ずかしい?」
 優しくその腕を掴み問いかけるともう片方の手でわき腹を撫でた。
「当たり前だろ」
 びくっと身体を震わせ、瞬きをする。
「感じやすくなっているのね」
 花穂は着ていたシャツを脱ぎ捨てると避妊具に手を伸ばす。
 
「ちょ……待って」
「つけてあげるわよ?」
 封を切る花穂に慌てる奏斗。
「覚悟の上って話したじゃない。まだ怯んでるの?」
「ホントに最後までするのかよ」
 花穂の手元に手を伸ばそうとしたその手を掴み、再びその唇を塞ぐ。
「わたしが相手じゃ嫌なの? ココ、まだこんなにしてるのに」
 再び彼自身を握りこむと、奏斗は小さく声を漏らす。

 脅してでも繋がりたいと思うのは異常だと思う。
 それくらい彼が好きなのだ。

『お前、もしかして本気なの』
 それは岸倉に聞かれた言葉。
『実は以前から噂では知っていたし、会ってみたかったの』
 ”実際会ってみたら、理想そのものだった”と続ければ、険しい表情をされた。
『だったらこういう出会い方は良くないんじゃないのか?』
『そうはいっても、和馬と義姉弟となってしまったんだもの。そういう繋がりでしか出会えないでしょう?』
『そうだけどさ』
『奏斗には言わないでね』
 脅してつき合いを迫ったような女に彼が好意を(いだ)くなんて思えなかったから。
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