41 本当の目的は何処に

文字数 1,584文字

【Side:奏斗】

 簡単に結菜の父に面会できるわけはないと思っていた奏斗はどう説明するか悩みつつ、彼女の実家に向かい拍子抜けした。
 なぜなら門にて名乗っただけで奥に通されたからである。

「君が白石奏斗君?」
 君がという言い方に奏斗は、やはり愛美が関わっているのだと感じた。
「挨拶が遅れてすみません。先日まで結菜さんとおつき合いをさせていただいておりました」
 彼女の父の質問に肯定の意を示したのち、そのように切り出し丁寧に腰を折ると驚いた顔をした彼。
 どの部分に驚いたのか気になったが、言葉を発する前に座るようにとソファに手を向けられ言葉に従った。
 
「先日まで?」
 奏斗が腰掛けると結菜の母が飲み物を置き出ていく。それを見届けてからの質問だった。
 そこが一番重要なのだろかと怪訝に思いながらも奏斗は頷く。
「そうか……で、君はどのような要件で私に会いに来たのかね?」
「結菜さんから助けてほしいと連絡を受け、事情を伺いました」
「その件か」
「彼女は見合いをしたくないと言ってます。子供であっても彼女の人生は彼女のものです」
 彼の様子から見合いは強行されるものと感じた奏斗がそう切り出すと意外な反応をされる。
「そうだな。私とて望んではいないよ」
「え?」
 予想外の返答に奏斗は黙った。しばしの沈黙が流れる。

「経緯について伺っても?」
 結菜の父はいままで娘の交際関係に口を出したことがないらしい。そして服装についても何も言われたことがないと本人が言っていたことを思い出す。
 つまり今まで自由にさせていたのに急に口出しをしなくてはならない事情が出来たということだ。そう考えて間違いないだろう。
「うむ。君には話した方がいいだろう」
 彼は小さくため息をつくと、
「別れた、ということでいいのだな?」
と再確認した。
 奏斗が頷くと、
「君は美月愛美という女性とおつきあいをしていたと聞いたが」
と前置きをする。
 その言葉を聞き、やはり愛美が関係していたのだなと奏斗は思った。

 一週間前、美月の父が訪ねて来たらしい。
 そこで言われたことは、結菜と奏斗を別れさせて欲しいということだった。
「できなければ、契約を打ち切ると言われた」
 美月は大川にとって取引先の社長。何故急にそんなことを言い出したのか分からず、もう少し詳しく聞くことにしたらしい。
「確かに交際をしていたことはありましたが、高校の時のことです」
「うむ。私も紹介もされていない相手と別れさせることは難しいと言った」
 元々の条件は二人を別れさせるということだった。だが彼にとっては、交際相手がいることすら寝耳に水。相手の言い分としては、別れるように本人に行ったが聞き入れて貰えなかったとのこと。実力行使に出たということだろう。
「それならばと、見合い話を持って来たんだ」
「別れているなら、その条件は破棄できるのでは?」
 先方の要求は二人が別れることのみ。
 どうやらこの話は流れそうだなと思っていた。 

 拗れた場合は自分が話に行くことを約束し、大川邸を後にする。もちろんこれで終わりだとは思っていない。
 恐らく次のターゲットは花穂。だが自分は彼女と別れるという選択はできない。やっと手に入れた安らぎを手放すことなど考えていなかった。

──まずは一旦ホテルに戻り状況を説明するべきだな。

 奏斗は車に乗り込むとホテルへ向かう。
 恐らくもう、愛美を説得することはできないだろう。そうなれば戦うしかないのだ。罪悪感を持っているから強く出ることが出来ない。それでは相手の思惑通りになってしまう。

──どうすればいい?

 一人で考えても答えなんて出ない。
 結菜の実家から宿泊先はそう遠くはない。答えがでないまま目的地へ。
 この後相手がどう出るかもわからないのに対策を立てるのは無謀なのかもしれない。駐車場に車を停めると奏斗はハンドルに突っ伏し、ため息をついたのだった。
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