4 好戦的な二人【R】

文字数 1,717文字

 身も心も、全てが熱を帯びていた。
 優しいからいけないのだと思いながらも、快感に身を任せる花穂。
「んん……ああッ」
 このまま一緒に逃げてしまえば良いのに。
 いけない考えが頭をよぎる。それでも自分が戻ってくる場所であれば良いのにと願った。

 花穂の柔らかい胸のふくらみを優しく揉みしだくその手。
 彼の腕をなぞるように、手を滑らせる花穂。
 視線が絡まり何度もその唇を求めあう。

「良い? 俺の……」
「ん……変なこと言うんじゃないわよ」
 両頬を掴み微笑んで見せると、奏斗は切なげな表情(かお)をする。
「何よ、()きそうなの?」
「ちが……」
 奥をきゅっと締め付けてやれば、”いじわる”と言われた。
「奏斗のそういうところ、好きよ」
「どういうことだよ」
 意味が分からないというように困った顔をする彼の肌を撫でる。
 どんなに愛しても、世界は味方をしてくれはしない。
 現状が変わることもない。
 決めるのは彼なのだから。

「明日はどうするの?」
 ゆっくりしていくのか? という意味で問えば、
「デート。結菜と」
という言葉。
 ”最低な男だわ”と思いつつも、花穂は奏斗の髪に手を伸ばす。
「最低とか思っただろ? 今」
「思った」
「それは、正直なことで」
 花穂から目を逸らす彼を、花穂は許しはしなかった。
「ちょ……」
「罪悪感でいっぱいになるくらいなら、こんなことしなきゃいいのよ?」
 花穂を逃げ場にしている奏斗。
 そこであることに気づく。 

──もしかして、奏斗ってこういうことしなきゃ一緒にいられないとでも思ってるのかしら?

 つき合っていた時、確かにこういうことはしていた。
 頻繁に感じるのは単に、いつでも会える関係ではなかっただけ。
 もし、花穂のところに逃げるためにこんなことをしているのだとしたら?

──よっぽどの性欲の塊でもない限り、三股なんてかけようとはしないと思うのよ、普通は。

 たまに何股もかけている芸能人の話しなどを目にはするがモテるモテない以前に、バレないように気も使うし、時間も使うだろう。仮に相手にバレて公開状態だったとしても、何人もの相手をするのは楽ではない。
 いわば営業のようなもの。
 プライベートだとしても、接客しているのと変わりはしないのだ。

 とすれば、彼は花穂を他の男に取られないよう必死ということ。好きな相手がいることを知ったのだから。

──だから、あんただっつーの。

 奏斗の行動の意味を理解した花穂は呆れながらも、自分の気持ちを伝えることはできなかった。それが間違いであることを自ら気づかせなければならない。

「ちょ……ああああッ」
「集中してよ、花穂」
 花穂の首筋に顔を埋め、絶頂に導こうとリズミカルに奥を突く彼。
「んッ……」
「自分でわかるでしょ? 熱いのどんどん溢れて来るよ」
 ”やらしい身体している”と言われ、『相手があんただからよ』と言い返したいのを耐える。
「いつも気丈に振舞う花穂がこんな風に乱れるの、たまらないね」
 
──今日は随分、言葉で攻めて来るじゃないの。

 花穂は心の中で不敵な笑みを浮かべると、
「いつもはクールなくせに、そんなに興奮してる奏斗もやらしくて最高よ?」
と応戦する。
 すると、彼は口元を手で押さえた。
「?」
 間接照明のみの少し暗い中でもわかる。
 彼は真っ赤な顔をして固まっていた。
「なんなの? 変なところで純情なのやめてよ」
「変なこと言うからだろ……ッ」
 ”もう手加減してやらない”と涙目で言う奏斗。
「なに、なん……あッ……やんッ」
 花穂はそのまま激しく刺激され、絶頂を迎えたのだった。

──可愛い……。


「寝かせる気ないんだけど?」
 自分から立ち向かって来たくせに、一回でぐったりとベッドに突っ伏す奏斗。
 花穂は彼の背中を撫でながら、そう言って見せれば、
「鬼かよ。最低男は明日デートなんですよ」
とくぐもった声。
「いいじゃない、徹夜で行けば」
と花穂。
「事故ったらどうしてくれんの」
 横を向き、花穂の長い髪に指先を伸ばす奏斗。
「責任もって面倒見るわよ」
「なにそれ、結婚してくれるってこと?」
「え……? どんな大事故起こすつもりなのよ」
 一瞬奏斗の言葉に驚いた花穂は絶句するが、巧く切り抜けた。

──何よ、ドキドキさせるんじゃないわよ。
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