vs, ……え? Round.4

文字数 3,181文字


 とりあえず、シノブンの件は解決した。
 話題は再び大局的な問題へと戻る。
 つまり〈ジャイーヴァ〉の事だ。
 クーラーボックスから魚肉ソーセージを頂戴し、ボクはクルロリへと訊ねた。
「モグモグ……で、結局〈ジャイーヴァ〉の目的は、何なのさ?」
「組織結成の意図は依然不明」
 クルロリが簡潔に答える。
「ベガ軍団を結成して宇宙侵略……でもなさそうだよね? シノブンの話を聞く限り。本格的な全面攻撃も仕掛けてこないし」不得意な憶測を巡らせた後、ボクは改めて貴重な情報源へと訊いてみる事とした。「ねえ、シノブン?」
「……シノブンやめろ」
 忙々とブルマ体操着から忍装束(しのびしょうぞく)へと着替えつつも、そこはやっぱり譲らない。
「キミは何も聞いてないの?」
「生憎、私も聞いてはいない。各自の目的が異なっていても、相互的メリットがあれば()しとする関係性だったからな」
「ラムスも……だよね?」
「ええ。以前、御話した通りに」
「う~ん? 八方塞がりか……。それに何故、ジュンを拉致(らち)ったんだろ?」
「確かに、その辺は()せませんわね。一般人の星河様を(さら)ったところで、何のメリットもございませんもの」
「だよねー?」
 ボクは御手上げとばかりにシートに深く背凭(せもた)れ、シノブンへと視線を送る。
 気付いた彼女は(まと)った忍装束(しのびしょうぞく)を整えつつ、暗黙の否定に首を振った。
「まったく……ジュンを(さら)っても育乳大明神の御利益だけじゃん? 後は、せいぜい〈コンダクター能力〉だけだし……」
「……はい?」「……何?」
 急にラムスとシノブンの顔色が変わった。
「マドカ様? いま、何と(おっしゃ)いました?」
「育乳大明神の御利益」
「……その後です」
「うん? コンダクター能力?」
「それですわよ!」
 どれですわよ?
「そういえば最初に会った時、口論(こうろん)の中でそんな事を言っていた。あまりにも自然に織り込んでいたので、すっかり失念していた」と、運転席からクルロリが感情(とぼ)しく自己反省。
 もう、このうっかりさん ♪
「そんな重大な事、何故スルーなさっていたのです!」
 ラムスにしては珍しく血相変えていた。
「重大……って、UFO呼べるだけじゃん?」
「ですから、それが重大なのですわ!」
「ふぇ? 何で?」
 理解出来ないでいるボクへ、シノブンが助け船を出す。
「確かに局地的戦闘に()いては実戦的ではない。だが、大局的な見地では、どうだ? もしも、他星系銀河からUFOを呼べるとしたら……」
「宇宙中の育乳信者が集まる」
「違うわッ!」
「つまり星河様のパワーレベル如何(いかん)では、労せずして大軍勢を結成出来るという事ですわよ!」
「なるほど、合点がいった」と、クルロリの(ひと)り納得。「どうして私に、アナタ達二人(ふたり)接触意思(コンダクション)だけが強力に届いたのか──他の人間による呼び掛けは微弱な感知だったのに。それは(ひとえ)に、星河ジュンの〈コンダクター能力〉に起因している。おそらく彼女の潜在パワーレベルは〈コンダクター〉の中でも驚異的に高い」
 ああ、だから幼少期からUFOと頻繁に遭遇してたのか。
「じゃあ、ジュンを(さら)った目的って──」
「おそらく」
「──いよいよ〝育乳教〟発足?」
「違う」
 クルロリ、淡々と否定して下さった。
 そして、彼女は今後の指針を決定着ける。
「もっとも、これは演繹(えんえき)に過ぎない。依然(いぜん)として真相は不明。圧倒的に情報が不足している。直接、ジャイーヴァ本人に問い正すしかない」
「直接って、敵の本拠地? ってか、この〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉は何処へ向かってるのさ?」
「月の裏側だ」と、シノブン。「そこにジャイーヴァ殿の拠点──つまり〝母艦〟が待機している」
「ふ~ん?」軽く納得すると同時に、ボクは彼女の行動に違和感を気付く。「あれ? シノブン、どしたの? 武装なんか確かめて?」
「実行前に万全の状態か確かめる……突入作戦の鉄則だ」
「って、もしかして一緒に戦ってくれるの?」
「フッ……何を今更(いまさら)
 クールに(たずさ)えた微笑(びしょう)が、彼女の返答だった。
 と、運転席から振り向きもせずに、クルロリが警鐘を告げる。
胡蝶宮(こちょうみや)シノブ……そして、ラムス。その装備では(まん)(いち)真空状態での交戦となった場合、要酸素生態のアナタ達は死亡確率が高い。よって、アナタ達にも〈PHW〉の着用を義務付ける」
「ちょ……ちょっと待て! また、あの〝ブルマ体操着〟を着ろと言うのかッ?」
(わたくし)も……ですの?」
「嫌ならば別仕様もある」
「う……うむ、それならば……」
「ふぅ……宇宙空間での活動では仕方ありませんか」
 そして、運転シートの背面に据えられたボックス台が開いた。ウィィィンと電動で。
 そこには、きちんと()(たた)まれた〈PHW〉が二着(にちゃく)
 一着(いっちゃく)は、お馴染みの〝セーラー服仕様〟。
 もう一着(いっちゃく)は……。
「こちらにしますわッ!」
 ろくすっぽ見ない内に、ラムスが〝セーラー服仕様〟を奪い取った!
 音速かと思える(ほど)、シュババっと素早く!
 必然的に、残ったのはシノブンの物。
「ちょっと待てッ! 何だコレ(・・)はッ?」
 広げたと同時に激昂(げっこう)
 動揺と憤慨(ふんがい)が等しく混じっていた。
 無理もない。
 だって、まさかの〝バニーガール仕様〟だもの。
「ネット検索で書いてあった……『バニーガール最強!』と」
 だから、ドコのアダルトサイトを参照?
「ここここんな格好で戦えるか! 破廉恥(ハレンチ)な!」
 某〝小 ● 川さん〟みたいな事言い出した。
 うん、でも拒否るわな?
「嫌ならば、先程の〈PHW〉になる」
「アレはアレで〝ブルマ体操着〟だろうがッ!」
「どっち?」と、無垢にクルコクン。
 軽いデジャヴの『どっ ● の料理ショー』が向けられる。
「う……うう……」
 究極の選択にテンパるシノブン。
 ってか、どっち選んでもエロッ!



「……やっぱ、そっち(・・・)選んだか」
「見るなぁぁぁーーーーッ!」
 シノブンは涙目&超絶赤面で、車内の(すみ)へと丸まる。
 うん、選択は〝ブルマ体操着〟だ。
 それを例の忍装束(しのびしょうぞく)(かさ)()している。
 しなやかに生える四肢には、薄く白肌が()ける暖色の鎖帷子(くさりかたびら)。そして、忍装束(しのびしょうぞく)の上から、豊かな(バスト)をふっくらと浮かばせる白い体操着とムチムチブルマを着用。ところどころにはみ出した忍装束(しのびしょうぞく)木地(きじ)が、なまじい乱れを感受させて悩ましい。
 エロッ!
 シノブン、エロッ!
「うう……何故〝胡蝶(こちょう)流忍軍次期党首〟の私が、こんな(はずか)しめを……」
「大丈夫! これで、一部マニアック層の人気は〝シノブン()し〟に集中!」
「どんな励ましを向けているのだッ! 貴様はッ?」
 怒気(どき)られた。
 楽観的なサムズアップでフォローしただけなのに。
 コミュニケーションを取れるようになって、ボクは漠然と悟った──この人の立ち位置〝クールビューティー〟じゃなくて〝イジられ役〟だ。
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登場人物紹介

名前:

 日向マドカ

 (Madoka Hinata)


種別:アートルベガ


性格:

 常に明朗快活で楽観的。考えなしの即決行動派。

 思考や言動も突飛なので、状況を予想外の展開へと引っ張る事が多い。

 しかし、根本的に底抜けに明るく他人思いな性格のため、憎めないカリスマ性を抱かせる。


特徴:

 ある日『アブダクション( UFO による拉致)』によって〈アートルベガ〉へと生体改造された少女。

 その能力で地球の平穏を脅かす〈ベガ〉と戦う〈SJK(SpeaceJK=宇宙女子高生)〉の使命を負わされる。


 相棒の〝星河ジュン〟に対しては尋常じゃないほど執着的な好意を抱くが、それが『大好き』の域なのか『同性愛』なのかは不明(本人にも自覚無し)。

名前:星河ジュン

(Jun Hoshikawa)


性格:

 理知的な常識派。

 学年トップレベルの秀才でもある。


特徴:

 主人公〝日向マドカ〟の親友だが、彼女の突飛な言動には振り回されっぱなしで、常に沸点の低いツッコミ役としてのポジションが確立してしまっている。

 しかしながら、マドカに対して母性にも似た強い愛情も抱いているようで、どうしても放っておけない世話役女房的な関係性でもある。


名前:クルロリ

(Kururori)

 ※ 本名は不明。

 この〝クルロリ〟という名前も、日向マドカが『クールロリータ(Cool Lolita)』から捩って命名した便宜的呼び名に過ぎない。


性格:

 無表情。無抑揚。

 沈着冷静な合理論者。

 反面、朴訥にして朴念仁。


特徴:

 正体不明。

 小柄な謎の少女。

 その言動から、少なくとも〈宇宙人〉である事は確実。

名前:ラムス

(Ramus)


性格:

 しとやかにして柔和。沈着冷静。

 反面、結構したたかで抜け目が無い。

 基本的に人当たりは良いが、相手によっては毒舌で心理的ダメージを与える辛口な面もある(特にマドカには)。

 しかしながら、根は心優しい。

 何は無くとも『ヒメカ溺愛』という固執愛を持つ。


特徴:

 惑星ジェルダの原生生物〈ブロブ〉であったが〈ヒトゲノム〉移植により〈ベガゲノム〉を得て〈ベガ〉へと新生した。

 それと同時に高度な知的生命体へと昇華された。

名前:

 胡蝶宮シノブ

 (Shinobu Kochoumiya)

 ※ 日向マドカからはフランクに〝シノブン〟と呼ばれるが、本人はプライド的に嫌がっている。


性格:

 自尊心は強いが、沈着な理知派。

 忍者として培った性格は、時に冷淡非情にも切り替わる。

 愚直なまでに使命感が強いが、四角四面な性格は狭隘に審美眼を曇らせてしまう危険性も孕む。


特徴:

 胡蝶流忍者の次期頭領。

 ある日、突然にして〈モスマンベガ〉へと生体改造されて〝人間の姿〟へ戻れなくなってしまい、憧れていた『普通の女子ライフ』と訣別せざる得なくなった。

 途方に暮れていた折に、謎の宇宙人〝シャイーヴァ〟が接触し、彼女を懐刀的存在と召し抱える。

 以降、利害一致からジャイーヴァへの貢献に奔走。

 無敗にして順風満帆であったところに、運命の天敵〝日向マドカ〟と接触する羽目となる……。

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