vs, フラモン Round.8

文字数 4,928文字


(もと)より覚悟は出来ている。如何様(いかよう)にもすればいい」
 気高さに凄んだ慧眼(けいがん)(にら)み返すシノブン。
 ロープに変質させたラムスの左腕でグルグル巻きの()()、地面へと転がされた芋虫(いもむし)状態で。
 うん〝()〟から〝芋虫(いもむし)〟へ『逆モス ● 』状態。
気丈(きじょう)(よそお)うのも結構ですけれど、御自分の立場を理解しておいた方が(よろ)しいかと」
 ラムスが冷厳(れいげん)に敵意を(にお)わせた。
「もう! 二人共、喧嘩腰にならない!」
 ボクは辟易(へきえき)と不仲を(なだ)めつつ、ゴソゴソとポケットを(あさ)る。
 あ、あったあった ♪
 購買で買った焼きそばパン ♪
「ねえ? コレ食べる?」
 シノブンを(のぞ)き込んで、明るく(うなが)す。
「な……何?」
「お腹に何か入れりゃ、少しは冷静になるって」
「ふ……ふざけるな!」
「はい、あ~んして?」
 開封して口元へと差し出した。
「あ……あ~ん ♪ 」
 (まぶた)()じて、頬を赤らめた顔を近付ける。モエルが。
 いや、キミじゃないよ? ストーカーベガ?
「て……敵の(ほどこ)しなど受けん!」
 頑として抵抗するシノブン。
「いいから、あ~ん ♪ 」
()らんと言っている!」
「はい、あ~ん ♪ 」
「ぅぅ……あ……あ~ん」
 優しい無理強(むりじ)いに躊躇(とまど)っていたが、ややあって素直に従った。
 視線を()らして恥じる表情が、意外とギャップ萌えで可愛い。
「はむ……ムグムグ」
「ふむ? 消費期限を過ぎても、一週間程度ならまだいける……と」
「ぶふぅーーーーッ!」
 派手に()いたよ。
 あ、これがホントの『噴飯(ふんぱん)もの』か。
「……何をやってますの」
 ラムスのジト目が(とが)める。
「いや、まだ食えるかなぁ~って……モグモグ」
「……臆せず食べますのね」
 何だよぅ?
 食べ物粗末にしちゃいけないんだぞぉ?
 でも、よいこのみんなはマネすんな?
 ボクは日頃から鍛えてるから大丈夫。マドナで。
「いいなぁ……マドカちゃんと間接キスいいなぁ……」  
 モエルは身悶(みもだ)えモジモジ。
 いまのところ、この作品きっての変態だからな? キミ?
「うう……殺せぇ……いっそ一思(ひとおも)いにぃ……」
 ぐったりと項垂(うなだ)れ、弱音を吐くシノブン。
「あら? 効果的な拷問だったみたいですわね」と、ラムスが感心。
「失敬だな! 善意だよ!」
 その時、唐突に「ピーピー」と微音が聞こえた。
 腹を壊したワケじゃない。
 安っぽいアラームみたいな電子音。
 出所を探って辿り着いたのは──シノブンだった。
「クックックッ……」グロッキー状態から静かに(ふく)み笑いを浮かべる。「礼を言うぞ、日向(ひなた)マドカ──いや、改めて〈SJK〉と呼んでやるべきか」
「ああ、さっきの焼きそばパン?」
「言うかッ!」
 何だよぅ?
 おいしいって言ったじゃんかよぅ?
 噴き出す前まで。
「貴様達と(たわむ)れている(すき)に、もうひとつの目的(・・・・・・・・)は達成された」
「ふぇ? もうひとつの目的?」
 まだあったのか。
 意外と欲張り屋さんだなぁ、シノブン。
「さあ、心してアレを見るがいい!」
「ヤダよ! ド変態!」
「……は?」
「いきなり『アレ(・・)を見ろ』なんて……はしたない! 縛られて興奮してきたのか知らないけど、もっと貞操(ていそう)は大事にしなよ! 他人(ひと)性癖(せいへき)に、とやかく言う気は無いけどさ?」
「はしたないのは貴様だッ! どんな飛躍をしているのだッ! 貴様はッッッ!」
 真っ赤になって怒気(どき)られた。何故か。
「……マドカ様、発言には責任を持って下さいませ? レーティングに影響します」
 ラムスからも(たしな)められたよ。意味不明に。
「私が()しているのは……アレだ!」
 キッと顔を上げ、空を見上げる。
 ボク達は、その視線を追った。
 遥か高空に浮遊する黒い人影──遠目過ぎて明確な視認は難しいけど、おそらく二対(につい)だ。
「ああ、アレってば〈フライング・ヒューマノイド〉か」
「何ですの? それは?」
 ラムスが怪訝(けげん)そうに眉間を曇らせる。
「珍しいね? ジュンならいざ知らず、キミが〈UMA〉を知らないなんて?」
「別に網羅しているわけではありませんから。(こと)に近年現れた〈UMA〉ならば、さすがの私も知りませんわ」
「ああ、なるほどね。要は『世代差(ジェネレーション・ギャップ)』ってヤツか。ブロブ(キミ)ってば、激動の時代を生き抜いた〈バナナ世代ベム〉だもんね」
「……団塊(だんかい)高齢者みたいに言わないで頂けます?」ジロリと不服そうな目。「で? どういった〈UMA〉ですの?」
「うん。アレは〈フライング・ヒューマノイド〉って呼ばれるヤツでね、近年になって頻繁に目撃されるようになった〈UMA〉だよ。ま、平たく言えば『空飛ぶ人型物体』だね」
「特徴は?」
「飛ぶだけ」
「……飛ぶだけ?」
「うん、飛ぶだけ」
「それだけですの?」
「うん、それだけ」
「たいした事ありませんわね」
 興醒(きょうざ)めとばかりに、(あき)れた嘆息(たんそく)()(くく)った。
 うん、そだね。
 此処に集結している〈ベガ〉に比べたら(かす)むよね。
 だって〈アートル〉に〈ブロブ〉に〈モスマン〉──終いには〈フラットウッズ・モンスター〉だもんね。
 花形UMA勢揃いだもんね。
「ねえねえ、マドカちゃん? あの人達、何か運んでない?」
 モエルが気づいて指摘。
「よく見えるなぁ、此処から」
「えへへ♪  本体の〈マルチセンサーアイ〉だよ♪ 」
 得意気に鋼鉄巨人を指差す。
 ああ、ホントだ。
 饅頭面(まんじゅうづら)が天空を凝視(ぎょうし)している……犬這(いぬば)い姿勢のまま。
 画面(えづら)、怖ッ!
「何運んでるだろ?」
「え……っとね? あ、ジュンちゃんだよ?」
「……ふぇ?」
 一瞬、思考が情報(ワード)を拒否る。
「だからぁ、ジュンちゃんだってば」
「何ィィィーーーーッ!」
 パニくった!
 この上無いほどパニくった!
「見せろ! ボクにも見せろ!」
「ええ~? 見せろって言われてもぉ~……」
「信じないぞ! この目で見るまでは信じない!」
「パモカの望遠カメラアプリで御覧になれば(よろ)しいじゃありませんか」と、平静然にラムス。
「ふぇ? んな機能あるの?」
「ありますわよ? ちょっと拝借(はいしゃく)しますわね」差し出したボクのパモカを、アレコレと操作し始めた。「はい、どうぞ」
 夕焼け空へと(かざ)して、スマホVR(よろ)しく覗き込む。
 ボリューミーなショートツインテールに、ムチムチ肉感の肢体……うん、間違いない。ジュンだ。
「あぁあぁぁあ! どうしよう!」
 頭抱えて大悶絶!
「ジュンだよ! (まご)う事無きジュンだよ!  Fカップだもの! 魅惑のFカップだもの! ボクが、あのFカップを見間違うはずがないもの! だって、何度も()んだFカップだもの!」
 スカーーンと、鋼質化顔面を何かが直撃!
「ぎゃおす!」
 あ、コレってばジュンの上履(うわば)きだ。
 あの高空からツッコミを入れてくるとは……ジュン、おそろしい()(白目)!
「どういうつもりさ! シノブンブンブブブン!」
「増えたぞッ?」
 あ、ゴメン。
 興奮して間違えちった。
「クックックッ……今回は、最初から両面作戦だったのだ。(すなわ)ち『日向(ひなた)マドカの捕獲』か『星河ジュンの拉致』か……な」
「星河様を拉致して、どうするつもりですの?」
 ()に落ちないといった様子で、ラムスが追究する。
()む気かッ!」
()むかッ!」
「何だ、()ないのか……もったいない。ボクなら()みまくるのに──って、ぎゃおす!」
 スカーーンと上履(うわば)きミサイル二発目!
 ってか、聞こえてんの?
 あの高空で?
 てんやわんやで収拾が着かないまま、どんどんジュンが小さくなる!
「どうしよう! どうすれば! どうするとき! どうするぞなもし!」
「追えば(よろ)しいのではありませんこと? いまなら、まだ間に合うかと……」
「そっか! ヘリウムバーニアで……!」
 ──ぷすすん。
「ガァァァス欠だァァァーーッ?」
 大慟哭(だいどうこく)
 巨体(フラモン)相手に使い過ぎた!
 おまけに、その後シノブンとの空中戦だったし!
「任せて! マドカちゃん!」
 凛としてモエルが名乗り出た!
「モエル? 協力してくれんの?」
「大好きなマドカちゃんのためだもん ♪ 」
 ニッコリと優しい笑み。
 うう、ありがたい!
 この際、(わら)でも変態(ストーカー)にでも(すが)りたい気分だよ!
「よし!」
 シリアスモードに気持ちを切り替え、モエルは前腕部アームレットへとパモカをセットした。
 それを口元(くちもと)に近づけて命令を下す!
「動け! ジャイアントわたし!」
 ……いや〈ジャイアントわたし〉って何なん?
 とか思った直後、スフィンクス体勢だった鋼鉄巨人(フラッドウッズ・モンスター)が鈍重に巨躯(きょく)を起こした!
 そして、両腕を大きく右へ振り──続けて、大きく左へ振り──うん、垂直に(ひじ)を立てて──『マ「それ以上言うなァァァーーッ!」ッ!』
 慌てて(さえぎ)ったよ!
「どうしたの? マドカちゃん?」
「いろいろと、ややこしい事になるだろ! 『 ● 映』とか『光プ ● 』とか!」
「はぇ?」
 無垢に小首コクン。
 知らんでやってたんか、この天然ストーカー娘。
 恐るべしモエル──(いな)、宇宙にまで浸透していた『ジャイ ● ントロボ』の影響力!
「何かよく分からないけど……とりあえず、やるね ♪ 」
 明るくモエルが宣言すると、大きな手がボクを掴み上げ──何する気?
「いっけえーーっ!」
「だぁぁぁいリィィィグボォォォーール?」
 ブン投げやがった!
 江 ● 卓の豪腕(さなが)らに!
 グングンと高度を追い上げて行く!
 風どころか雲まで裂いた!
「うひぃぃぃーーッ!」
 寒い! 重い! 痛い!
 完全鋼質化じゃなかったら、間違いなく死んでるぞ! コレ!
 だけど、その甲斐あって追いついた!
 予想外の追撃に動揺する〈フライング・ヒューマノイド〉達!
 その間に意識を失ったジュンが吊るされていた!
 おそらく抵抗はしたんだろう──〈PHW〉を着込んでいるし。
 ただ無力だっただけだ。
 けれど、これは不幸中の幸いかもしれない!
 クルロリの説明によれば〈PHW〉とは〈パーソナル・ハブビタル・ウェア〉の略──身も(ふた)もなく言うなら〝スーパー宇宙服〟とでも呼ぶべき代物(しろもの)
 だからこそ、生身にも(かか)わらす、ジュンは高空の過酷環境でも無事でいられる!
「ジューーーーンッッッ!」
 絶対に救い出す!
 その決意のままに手を差し伸べた!
 追い越した!
 飛んでいった!
「あ~~~~れ~~~~~~…………」
 ()くして、ボクは流星と化した。
 ジュン救出作戦、失敗。
 彼女が何処へ連れ去られたのか──それは判らない。
 ついでに、ボクが何処へ投げ飛ばされたのか──それも判らなかった……シクシク。
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登場人物紹介

名前:

 日向マドカ

 (Madoka Hinata)


種別:アートルベガ


性格:

 常に明朗快活で楽観的。考えなしの即決行動派。

 思考や言動も突飛なので、状況を予想外の展開へと引っ張る事が多い。

 しかし、根本的に底抜けに明るく他人思いな性格のため、憎めないカリスマ性を抱かせる。


特徴:

 ある日『アブダクション( UFO による拉致)』によって〈アートルベガ〉へと生体改造された少女。

 その能力で地球の平穏を脅かす〈ベガ〉と戦う〈SJK(SpeaceJK=宇宙女子高生)〉の使命を負わされる。


 相棒の〝星河ジュン〟に対しては尋常じゃないほど執着的な好意を抱くが、それが『大好き』の域なのか『同性愛』なのかは不明(本人にも自覚無し)。

名前:星河ジュン

(Jun Hoshikawa)


性格:

 理知的な常識派。

 学年トップレベルの秀才でもある。


特徴:

 主人公〝日向マドカ〟の親友だが、彼女の突飛な言動には振り回されっぱなしで、常に沸点の低いツッコミ役としてのポジションが確立してしまっている。

 しかしながら、マドカに対して母性にも似た強い愛情も抱いているようで、どうしても放っておけない世話役女房的な関係性でもある。


名前:クルロリ

(Kururori)

 ※ 本名は不明。

 この〝クルロリ〟という名前も、日向マドカが『クールロリータ(Cool Lolita)』から捩って命名した便宜的呼び名に過ぎない。


性格:

 無表情。無抑揚。

 沈着冷静な合理論者。

 反面、朴訥にして朴念仁。


特徴:

 正体不明。

 小柄な謎の少女。

 その言動から、少なくとも〈宇宙人〉である事は確実。

名前:ラムス

(Ramus)


性格:

 しとやかにして柔和。沈着冷静。

 反面、結構したたかで抜け目が無い。

 基本的に人当たりは良いが、相手によっては毒舌で心理的ダメージを与える辛口な面もある(特にマドカには)。

 しかしながら、根は心優しい。

 何は無くとも『ヒメカ溺愛』という固執愛を持つ。


特徴:

 惑星ジェルダの原生生物〈ブロブ〉であったが〈ヒトゲノム〉移植により〈ベガゲノム〉を得て〈ベガ〉へと新生した。

 それと同時に高度な知的生命体へと昇華された。

名前:

 胡蝶宮シノブ

 (Shinobu Kochoumiya)

 ※ 日向マドカからはフランクに〝シノブン〟と呼ばれるが、本人はプライド的に嫌がっている。


性格:

 自尊心は強いが、沈着な理知派。

 忍者として培った性格は、時に冷淡非情にも切り替わる。

 愚直なまでに使命感が強いが、四角四面な性格は狭隘に審美眼を曇らせてしまう危険性も孕む。


特徴:

 胡蝶流忍者の次期頭領。

 ある日、突然にして〈モスマンベガ〉へと生体改造されて〝人間の姿〟へ戻れなくなってしまい、憧れていた『普通の女子ライフ』と訣別せざる得なくなった。

 途方に暮れていた折に、謎の宇宙人〝シャイーヴァ〟が接触し、彼女を懐刀的存在と召し抱える。

 以降、利害一致からジャイーヴァへの貢献に奔走。

 無敗にして順風満帆であったところに、運命の天敵〝日向マドカ〟と接触する羽目となる……。

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