vs, ボクらのファイナルバトル Round.3

文字数 4,274文字


『グ……ウゥゥ……お……重いよぅ……!』
 漆黒の巨大宮殿を押し戻そうと試みるモエル!
 底面中央の巨大球体〈光速推進力発生メインコンバータ〉へと取り付き、スカートバーニアを最大出力!
 だけど、如何(いかん)せん体積が違い過ぎる。
 単純に見ても〈ジャイアントわたし〉の(およ)そ八倍弱だ。
 この比率は、素人目にも絶望的!
『グゥゥ……ガンバレわたし! ジャイアントわたし!』
 自分への鼓舞(こぶ)(よりどころ)として、モエルは(さら)に気力を振り絞る!
 少しだけ──それは微々たる域だけど、確実な体感として──落下速度が弱まった。
 けれど落下防止には、まだ遠い。
「やっぱり無理よ! モエル一人(ひとり)じゃ!」
 刻一刻(こくいっこく)と迫るタイムリミットに、()えきれない焦燥を吐くジュン。
「ですわね」と、相変わらずラムスは沈着冷静に同感。「せめて彼女が数機いれば、話は別ですけれど」
「それだ!」
 ボクは起死回生を閃いた!
「シノブン! コントロール不能なのは、この艦の制御系統だけ?」
「どういう意味だ?」
「だから、通信系統とか格納庫(ドッグ)系統とかは?」
「う……うむ、それは生きているが?」
「上等 ♪ 」
 作戦遂行可能を知ったボクは「にひひ ♪ 」と笑った。



『ガンバレわたし! 負けるなわたし!』
 孤軍奮闘で押し返し続けるモエル。
 けれど、さすがにセルフ鼓舞(こぶ)だけでは、現実は(くつがえ)らない。
『ふぐぅ……もう……ガンバれないかも……しれない……マドカちゃん……ゴメンね』
「お待っとさんでしたァァァーーッ!」
 矢のようなスピードで飛来する〝初代宣伝部長〟の勇姿……じゃなくて、赤い〈フラットウッズ・モンスター〉の勇姿!
 そのまま〈ジャイアントわたし〉の隣で、共に巨大宮殿へと取り付く!
 約半分弱の体躯で一緒に支える姿は、(さなが)ら〝親子フラモン〟にも映るだろう。
『え? その声……マドカちゃん?』
「うん、ボク(・・)だよ? 私が来た!」
 某〝平和の象徴〟の如く、根拠なき自負を誇示!
 ちなみに万一(まんいち)に備え、全身鋼質化は発現済み。言うまでもなく〈PHW〉も着用。
 ビバ! 宇宙服()らず!
『どうして? ダメだよ! マドカちゃんも死んじゃうよ!』
「おい、コラ! 『死ぬ』って何だ!」
『え?』
「んじゃ、キミは死ぬ前提(・・・・)でやってたのか! 最初から、そのつもりで名乗り出たのか! このバカチンが!」
『だ……だって、そうしないとマドカちゃん達が死んじゃうもん! わたし、マドカちゃんには生還して欲しかったの! 大好きなマドカちゃんには!』
 秘めたる想いを独白(どくはく)した事で、彼女の本音が(せき)を切った。
『マドカちゃんがいたから、いまのわたし(・・・・・・)がいるんだもん! 侵略兵器〈A3-2006〉じゃなくて〝モエル〟としてのわたし(・・・)萌芽(ほうが)したんだもん!」
 ……オイ、人聞きの悪い事を言うな。
 それじゃ、ボクが〝ストーカープログラムの元凶〟みたいじゃないかよぅ?
「それにマドカちゃん達は〝人間(・・)〟みたいに接してくれた! 処罰され掛かった時だって、(かば)ってくれた!』
 うん? 庇った(・・・)
 (かば)ったけ? ボク?
 (しば)し記憶を手繰(たぐ)り……ああ、アレ(・・)か?
 シノブンとの再戦時か?
 いや、アレはキミじゃなくても(かば)っていたよ。
 仮に〝野良イノシシ〟でも(かば)っていた。
 何故なら、そういう性格だから。
 後先考えず貧乏クジ引く性分だから。
 でも……それがボク(・・)だ。
 そんなヤンチャな自分が可愛い ♪  てへ ♪
(わず)かな時間だったけど、みんなでジャレ合えた! バカバカしい事も楽しかった! 侵略兵器のままだったら、きっと体験できなかった! 感謝しても、しきれないよ!』
 ……スイマソン。
 その〝バカバカしい事〟っての、ボクにとっては日常茶飯事です。
 ってか、もはや日常そのものです。
『お願いだよ、マドカちゃん! 引き返して! ううん、その機体に乗ってるなら戦線離脱だって出来る! そうだ! ジュンちゃんやみんなも一緒に脱出すればいいんだよ! そしたら、マドカちゃんの大事な人も、全員無事だよ? ね?』
 (つと)めて明るい声色を(つくろ)って、何を必死にブッコいてんだ? コイツは?
 うん、却下します!
「そしたら、この艦に乗ってる〈ベガ〉は、どうなるのさ! あのド変態グレイは!」
『マドカちゃんが犠牲になる事ないよ! みんな〝敵〟だよ? 関係ないじゃん!』
「明日には〝友達〟かもしんないだろ!」
『マドカ……ちゃん?』
「ああ、いや……あのド変態グレイは除くけどね?」
 さすがに機体が悲鳴を軋ませてきた。
『マドカちゃん! その機体は限界だよ! 通常機だから、わたし(・・・)より(もろ)いの! お願い、早く離脱して!』
「友達見捨てて生還なんかできるか! そんなんしたら……今度はお母さんに、どんな殺人技で折檻(せっかん)されるか……ガタガタブルブル」
『お願いだから! このままじゃ、マドカちゃんまで死んじゃう!』
「死ィィィぬかァァァーーーーッ!」
 悲観を叱責(しっせき)するかの(ごと)く、ボクは自信満々に雄叫(おたけ)んだ!
 バーニア出力が上がる!
「勝手に殺すな! ボクの可能性(・・・)まで! やってみなけりゃ分からないだろ!」
 そう、だから〝マドナの激マズバーガー〟だって食う!
 食ってみけりゃ分からない!
『無茶だよ!』
「やるだけやったら、どうにかなる!」
 全エネルギー供給回路(バイパス)を、アームとバーニアのみに優先した!
 先の『逆 ● ャア』で、今回と同じシチュになった〝ア ● ロ・レイ〟は言っていた──「たかが隕石(いしコロ)ひとつ、ガ ● ダムで押し返してやる──人類に絶望なんかしていない!」と。
 ボクだって、絶望なんかしちゃいない!
 そんな(ひま)なんか無い!
 さっさと帰って、深夜バラエティ観たいから!
「モエル、いい事教えてやる! こういうシチュでこそ、人型(ひとがた)ロボットは奇跡を起こせるもんなんだ! キミの先輩達は、どんな逆境でも(くつがえ)してきた! 不屈の魂で!」
『せ……先輩? モエルの?』
「そうだよ! キミの先輩! 正義の味方だ!」
『モ……モエル、正義の味方(・・・・・)なの? 地球制圧の(ため)に造られたのに?』
どうして生まれたか(・・・・・・・・・)なんて関係ないよ! 何かを守ろうとする者が〈正義の味方(ヒーロー)〉って呼ばれるんだ!」
 二体共々、一部外装が剥がれ落ちる!
『マ……ドカちゃん? どんな先輩がい……るの? クゥッ! 教……えて?』
 とてつもない重圧を踏ん張りながら、モエルはボクを頼った。
 うん、ようやく〝友達(・・)〟を頼ってくれた。
 だから、ボクは……深呼吸の一間(ひとま)に気合を溜める!
「いいよ、教えてやる!」
 普段(つちか)った趣味が──周囲(まわり)から白い目で見られても続けていたヲタ趣味が、誰か(・・)(ため)に役立つなら『はい、喜んで』だ!
 いくぞ! ヲタ趣味全開でッ!
「鉄人 ● 号! ジャ ● アントロボ! マ ● ンガーZ! ゲッ ● ーロボ! ラ ● ディーン! コン・ ● トラー(ブイ)! ボル ● ス(ファイブ)! ラ ● ジンオー! エクス ● イザー! ガオガ ● ガー!」
『グウ……ゥゥゥ……ほ……他には?』
 (あらが)う苦悶にねだられて、ピー音の大出血サービス!
「ガイキ ● グ! 鋼鉄 ● ーグ! ザン ● ット(スリー)! ダ ● ターン(スリー)! ゴッド ● ーズ! ゴーショー ● ン! ブ ● イガー! ダン ● ーガ! ゴールドラ ● タン! ダル ● ニアス! ゴラ ● オン! ビクトリー ● イバー! バイカ ● フー! GERA(ギア)戦士(ファイター) ● 童! ゴーダ ● ナー! イ ● サーロボ! レイ ● ース! エリ ● ル! 龍 ● 丸! グ ● ディオン! シン ● リオン! そして、コ ● ボイ司令官ことオプティ ● ス・プライム!」
『ホント……だ……モエルの先輩、いっぱい……いっぱいだね?』
 パモカ越しの声音が、(ほの)かな涙声になっていた。
 きっといま、彼女は生まれ変わった事を実感したのだと思う。
 侵略兵器から〝自分自身(・・・・)〟へと!
「まだまだいるよ! もっと教えてやる! だから、ガンバレ! そして、一緒に帰るぞ!」
『うん……うん!』
 奮起の決意!
 ダブルフラモンのバーニアが、(さら)に出力を上げた!
『まったく……こんな時でも男の子趣味全開なのね、あなたは』
「ジュン?」
 青い〈フラットウッズ・モンスター〉が飛来した!
 いや、青だけじゃない!
 緑も! 紫も!
日向(ひなた)マドカ、ヒョイヒョイと死地へと(おもむ)いてくれるな! 貴様に死なれたら、私が〈エムセル〉のプロセス情報を得れなくなる!』
 紫の機体が辟易(へきえき)と釘を刺す。
「シノブン!」
『相変わらず無策無鉄砲で恣意(しい)的ですこと……マドカ様らしいと言えば、それまでですけれど』と、緑の機体。
「ラムス!」
日向(ひなた)マドカ、遅くなった』
 パモカからは作戦指揮官──クルロリの声が!
「もう! 遅いよ、みんな!」
『仕方ないでしょ! 私、こんなの初めて操縦するんだから! これでも最小限の技能講習(レクチャー)だけで出撃したんだからね!』
(わたくし)の美観に叶う機体が、なかなか見つかりませんでしたので……』
『そ……その……羽根がな? 羽根がコックピットへ収まらなくて……だな?』
 口々(くちぐち)に言い訳を並べる。
 ってか、最後の二人(ふたり)
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登場人物紹介

名前:

 日向マドカ

 (Madoka Hinata)


種別:アートルベガ


性格:

 常に明朗快活で楽観的。考えなしの即決行動派。

 思考や言動も突飛なので、状況を予想外の展開へと引っ張る事が多い。

 しかし、根本的に底抜けに明るく他人思いな性格のため、憎めないカリスマ性を抱かせる。


特徴:

 ある日『アブダクション( UFO による拉致)』によって〈アートルベガ〉へと生体改造された少女。

 その能力で地球の平穏を脅かす〈ベガ〉と戦う〈SJK(SpeaceJK=宇宙女子高生)〉の使命を負わされる。


 相棒の〝星河ジュン〟に対しては尋常じゃないほど執着的な好意を抱くが、それが『大好き』の域なのか『同性愛』なのかは不明(本人にも自覚無し)。

名前:星河ジュン

(Jun Hoshikawa)


性格:

 理知的な常識派。

 学年トップレベルの秀才でもある。


特徴:

 主人公〝日向マドカ〟の親友だが、彼女の突飛な言動には振り回されっぱなしで、常に沸点の低いツッコミ役としてのポジションが確立してしまっている。

 しかしながら、マドカに対して母性にも似た強い愛情も抱いているようで、どうしても放っておけない世話役女房的な関係性でもある。


名前:クルロリ

(Kururori)

 ※ 本名は不明。

 この〝クルロリ〟という名前も、日向マドカが『クールロリータ(Cool Lolita)』から捩って命名した便宜的呼び名に過ぎない。


性格:

 無表情。無抑揚。

 沈着冷静な合理論者。

 反面、朴訥にして朴念仁。


特徴:

 正体不明。

 小柄な謎の少女。

 その言動から、少なくとも〈宇宙人〉である事は確実。

名前:ラムス

(Ramus)


性格:

 しとやかにして柔和。沈着冷静。

 反面、結構したたかで抜け目が無い。

 基本的に人当たりは良いが、相手によっては毒舌で心理的ダメージを与える辛口な面もある(特にマドカには)。

 しかしながら、根は心優しい。

 何は無くとも『ヒメカ溺愛』という固執愛を持つ。


特徴:

 惑星ジェルダの原生生物〈ブロブ〉であったが〈ヒトゲノム〉移植により〈ベガゲノム〉を得て〈ベガ〉へと新生した。

 それと同時に高度な知的生命体へと昇華された。

名前:

 胡蝶宮シノブ

 (Shinobu Kochoumiya)

 ※ 日向マドカからはフランクに〝シノブン〟と呼ばれるが、本人はプライド的に嫌がっている。


性格:

 自尊心は強いが、沈着な理知派。

 忍者として培った性格は、時に冷淡非情にも切り替わる。

 愚直なまでに使命感が強いが、四角四面な性格は狭隘に審美眼を曇らせてしまう危険性も孕む。


特徴:

 胡蝶流忍者の次期頭領。

 ある日、突然にして〈モスマンベガ〉へと生体改造されて〝人間の姿〟へ戻れなくなってしまい、憧れていた『普通の女子ライフ』と訣別せざる得なくなった。

 途方に暮れていた折に、謎の宇宙人〝シャイーヴァ〟が接触し、彼女を懐刀的存在と召し抱える。

 以降、利害一致からジャイーヴァへの貢献に奔走。

 無敗にして順風満帆であったところに、運命の天敵〝日向マドカ〟と接触する羽目となる……。

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