『
大男総身シャンタン、
周りカレー』──か、どうかは知らないけれど、やはり動きは愚鈍だった。
ボクは持ち前の運動神経を
活かして、
降り
注ぐ
巨拳を
避け続ける。どんな威力でも当たらなければ意味は無い──と、シャ ● 少佐も言ってたし。
とはいえ、二次被害は
甚大。
グラウンドにはボコボコと鉄拳の
跡が増産され、植え込みへと身を隠せば
空振る鉄腕に
植樹が
凪ぎ
折られる
始末。
「ガンバレー!」「負けるなー!」「行けー!」
身の安全を確信したからか、各教室から
他人事テンションな声援が向けられてきた。
事の成り行きから、どうやらボクを〝味方〟と判別したらしい。
ホント、現金なヤツラだよ。
全身鋼質化に加えて〈
PHW〉を着込んでいるから、正体がバレる心配は無いだろうけどさ。
「ちゃんと勝ってよね? 今月、ポケマガチヤバなんだから」
ネイルケアがてらにギャル系がゴネた。
「オマエらーーッ!
小遣い
稼ぎのトトカルチョ
開催してるだろーーッ!」
『マドカ、集中して』
胸ポケットのパモカが
諫める。
「ジュン? いま、何処さ? おっと危な!」
頭上からの鉄拳を回避しつつ、現在地を確かめた。
『二階の電算室。此処なら滅多に誰も来ないし、対策に
熟考できるもの』
「で、策は?」
『現状、圧倒的に情報不足なのよね……一応、此処のコンピュータをパモカ補佐に使って
模索してるんだけど』
「まさかの策無し?」
『う~ん?
大概〈人型ロボット〉っていうのは〝人間〟を
模してるせいか、
御丁寧に頭部へ重要回路を集中
搭載しているのよね……AIとか各種センサーとか。
そこを破壊できれば、
或いは勝算も──』「ラジャっす!」『──って、マドカッ? いまの、単に考察だからッ! 作戦じゃないからッ! マドカ、聞いてるッ?』
泡食って制止するも……ゴメン、もう後の祭り。
既にボクはフラモン頭部の高度まで急上昇していた!
「んにゃろ!」
渾身の鉄拳を
鉄面へと
叩き
込む!
効かない。
むしろボクの方が鏡返しを喰らった。
「シビビビビビ……ッ!」
鋼質化ボディの内側を衝撃の振動が駆け抜ける。
「なら、これで!」
玉葱頭を踏み台に、真上へと跳躍!
そのまま落下の勢いに乗せ、空中前転を加味した
踵落としを繰り出す!
続け
様に
延髄切り!
ローリングソバット!
ミドル! ハイ! ミドル! ロー! ミドル!
蹴りのラッシュを、がむしゃらに顔面へと打ち込む!
にも
拘わらず、フラモンは無表情に涼しい顔……腹立つ!
「クソッ! 効かないや!」
『じゃなくて、心配かけない! どうして考えなしに
即決するの!』
「考えるな、感じろ」
『……
香港の大スターに謝れ』
「ブゥブゥ! だって、もう行動に入ってたんだもん!」
『まったく……でも、あなたの〈エムセル〉よりも硬いって、どんな宇宙金属なのよ?』
「うん、宇宙は広いよね……って、ふぇ?」
眼界が薄暗く染まった。まるで日陰のように。
イヤな予感に頭上を
窺い見ると、高々と振り上げられている平手があった!
「どわわわわ~ッ? 待て待て待て!」
と、不意にボクの腰へと
何かが巻き付く!
弾力性に
富んだ極太ロープみたいなヤツ。緑色のタイヤチューブみたいな
代物。
「ん? 何さ、コレ?」
ロープの
出所を目で
手繰り追うと、
それは屋上から伸びていて──「でぇぇぇええーーッ?」──そのまま平行バンジーを
強いられたよ!
瞬発的なGがエグッ!
「何だ何だ何だ! コレは!」
「どうやら絶妙なタイミングだったようですわね」
バンジーロープが
喋った!
聞き覚えのある声で!
「って、ラムスーーッ?」
離陸数秒後には屋上へと投げ捨てられていた!
鋼の
尻餅が、床アスファルトを軽微に破砕!
「痛~い! おしり割れたぁ!」
「
元々割れていますから御心配なく」
人型を再形成しつつ、メイドベガが
醒めて流す。
「ラムス?
救けに来てくれたの?」
「勘違いしないで頂けます? 単に買い物帰りですわ。それに
貴女に何かありましたら、ヒメカが悲しみますから」
「相変わらずのヒメカ
愛だな……ってか、ボクは
愚妹のオマケか!」
釈然としない心境を押し殺す中、フラモンがボク達へと振り向いた。
「データ照合──〈ブロブベガ〉ノ〝ラムス〟ト認識。障害トシテ排除スル」
巨体がズンズンと迫り来る!
──ツルーン!
転んだ。すってんころりんと。
起きあがろうとして──ツルーン!
再度、
這い起きようとして──ツルーン!
「不確定障害発生──トラップ確認」
七転八倒を繰り返し、フラモンはようやく転倒要因に気付く。
手で
掬い拾ったのは、緑色の粘液。
それがヤツの足下周辺に
蒔いてあったのだ。
「
私自身から生成された特製ローションですわ」
「いつの間に仕掛けたのさ?」
「
先程、マドカ様と交戦していた時ですわよ。液状化して足下を
擦り抜ける
際に
蒔いて去りましたの」
閑雅に
種明かしをしながら、1リットルペトルのミネラルウォーターをゴキュゴキュ。
あ、ホントだ。
身長、ちょっと縮んでる。
ってか……
体積補填、
それじゃないだろうな?
足下のレジ袋に、いっぱい買い込んであるし。
「歩行ニヨル離脱可能確率十六パーセント──飛行シークエンス実行」
脱出を
謀るフラモンが、スカート部からバーニアを噴射!
飛翔離脱を
試みる
様は、
宛らヘリウムバーニアの巨大版だ!
「ヤバッ! そういえば、アイツって飛行能力があるんだっけ!」
「その点も御心配なく」
涼しい態度で長い
もみあげを
弄ぶラムス。
彼女の自信を立証するかのように、粘液がフラモンのスカートを掴んで放さない。まるで
とりもちのように
張力を発生していた。
「
私自身の
粘液ですから、
糸一本分でも
繋がっていれば性質自在。現在は
粘着張力性に特化させましたわ」
そう言って小指をヒラヒラ。
よく見りゃ、指先に納豆糸みたいなのが泳いでいる。
「張力均衡値想定外──出力上昇」
フラモンは、
更にバーニア噴出を上げた!
地表から数メートルは浮上できたが……そこまでだ。
ラムスローションは、しつこく食い下がる。
反発に引き合う二つのベクトル。
そして──どんがらがっしゃん──
根負けしたフラモンは、とうとう地面へと
縫いつけられた。後頭部を打ちつける墜落ぶりが、遠目で見ていても痛々しい。
「あらあら、無様ですわね……クスクス♪ 」
優位性に酔って、ほくそ笑んでいるし……。
怖ッ! コイツ怖ッ!