vs, ブロブ Round.6

文字数 3,040文字


 とりあえず尋問(じんもん)は終わった。
 まだまだ知りたい事はあるけれど、これ以上はラムス自身も引き出しを持っていないようだ。
 つまり聞き出せる情報は、(おおむ)ね聞き出したという事。
「で、これからどうすんの?」
 誰に言うとでもなく、ボクは今後の指針を求める。
「しばらくは相手の出方(でかた)(うかが)うしかない。つまり、これまで通り」と、クルロリ。
「みたいね。受け身一点張りっていうのは(しゃく)だけど」と、ジュン。
「じゃなくて、ラムスだよ」
 ボクの指摘に全員が直面した課題を気付く。ラムス本人も含めて。
「どうもこうも、人間に危害を加える〈ベガ〉を放置しておけないわよ」と、ジュン。
「心配無用。(しか)るべき処置で拘留(こうりゅう)しておく」と、同意クルコクによる事務的提案。
(すで)に覚悟は出来ていますわ。煮るなり焼くなり、どうぞ御自由に……」
 涼しい態度でラムスは(うそぶ)いた。
 どうやら素直に(じゅん)ずる覚悟のようだ。
 観念したかのような乾いた(うれ)いが、彼女の心理を物語っている。
(しか)るべき処置……ねぇ?」ボクは背凭(せもた)れへと()()りつつ、釈然(しゃくぜん)としない気持ちを整理してみた。「ねえ? キミの対価(・・)は何さ?」
「え?」
 意表を突かれたといった具合に驚いていたよ。
 ラムスも……だけど、(こと)にジュンとクルロリが。
「そうか、失念(しつねん)していたわ。契約関係なら相互的にメリットがあるはず……」
「でしょ? だから、この()のメリットは何かなぁ……って」
「あなたって、時として鋭いのよね。普段は考えなしの無計画(ランダム)バカなのに」
 それ、()めてるんだよね?
「で、何さ?」
 ボクは興味津々(きょうみしんしん)で、ラムスの顔を覗き込む。
「それは、その……か……家族を──」
「え? 明るい家族計画?」
「違いますけどッ?」
 ガチで怒気(どき)られた。地球外生命体から。
 興奮を(しず)めると、彼女は物憂(ものう)いに吐露(とろ)を始める。
「誰でもよかったんです。(わたくし)の孤独を(いや)してくれるのならば……」
「ふぇ? 孤独って……友達とかいないの?」
「友人は(おろ)か、家族すら存在しませんわ。私は〈地球外生命体(・・・・・・)〉ですもの」
「なるほど、合点がいった」クルロリが分析論を(はさ)んだ。「正体が〈ベガ〉である以上、彼女は人間社会に()いて忌避(きひ)される怪物。素性(すじょう)を隠して潜伏するしかない。かといって、源泉(げんせん)種族(しゅぞく)たる〈ブロブ〉からも許容されない非共感的存在(・・・・・・)になってしまった。どちらに()いても〝異端(・・)〟でしかない」
 (さび)しげな眼差(まなざ)しを落とし、ラムスは述懐(じゅっかい)(つづ)り続ける。
「来る日も来る日も孤独──地球人を(よそお)って人間社会へ溶け込もうと(つと)め続け、自分自身を(いつわ)(かく)して平穏な日常を()(つくろ)う。誰一人(だれひとり)として〝本当の私(・・・・)〟を知らない──だから、自然と他人から距離を置くようにもなった」
 ボクの心に(しこ)っていた違和感が、ようやく氷解した。
 それで、あの〝まったり女子会〟だったワケか。
 嬉しそうだったもんね。この()
「そうした日々に虚無感が(つの)り、心のコップが(あふ)れるかもしれないと思えた。そんな(あや)うさの中で〝()〟が姿を現したのですわ」
「ジャイーヴァ……か」
 噛み締めるように呟くジュン。
 その声音は一転して〝ひとりぼっちの異邦人〟への同情を(はら)んでいる。
「じゃあ、ジャイーヴァと子作りを?」
「ですから! 直接的に子供を設けたいわけではありませんわよ!」
 また怒気(どき)られた。今度は喰い気味に。
「あなたの心情は判ったとしても、肝心の〝家族(・・)〟は、どうするつもりだったのよ? まさか一般人を誘拐洗脳するつもりだったんじゃないでしょうね?」
 ジュンからの強い追求。
「正直、(わたくし)存知(ぞんじ)ません。報酬の手筈(てはず)は、ジャイーヴァ様に御任(おまか)せしていたので……」
「ええ? そんなの絶対ダメだよ! 平穏な家族を引き裂いてまで、アブるなんて!」
 ボクの率直(そっちょく)な道徳観に、孤独な〈ベガ〉は「(おっしゃ)る通りですわね」と懺悔(ざんげ)のように零す。
「もしも、そのような事態になっていたら、後悔しきれませんでしたわ」
 そして、彼女はボクを正視した。
(あやま)ちを犯す前に、負けてよかったのかもしれません……貴女(あなた)になら」
 (うる)むような(はかな)微笑(ほほえ)み。
 う~ん……何か納得できない。
 これじゃラムスの気持ち、投げっぱじゃん。
 だから、ボクは提案した。
「もう、さ? ユー、ボクん()に住んじゃいなよ?」
「……え?」「……は?」
「そうだ、家族になろう!」
「「ええぇぇぇ?」」
 室内反響するほど驚愕(きょうがく)されたよ。
 ラムスとジュン、双方から。
「あっけらかんと『そうだ、京都へ行こう』みたいに言うな!」
「正気ですの? そんな重大な決断を即興(そっきょう)的に?」
「もう、二人してウルサイなぁ」
 あまりに興奮した抗議のウザさに、ボクは耳の穴をほじくって流す。
「この()ベガ(・・)〉なのよ?」
「そうですわよ! (わたくし)が言うのも何ですけど!」
 ボクは(さわ)やかサムズアップで明答。
「そこは無問題(モーマンタイ)! 愚妹(ぐまい)も喜んでウェルカムだろうし!」
「理由になっていませんけれどッ?」
 メイドベガ本人からツッコまれた。
 ってか、キミのために提案したんですけど?
日向(ひなた)マドカ、その案は実現不可能。(すで)日向(ひなた)ヒメカの記憶は消去してある」
「あ……」
 ラムスが(さび)しさを零した。
 けれど、これまたヘラヘラと無問題(モーマンタイ)
「へーきへーき。またボクがイチから教えるもん」
「……不合理」
 クルロリは理解不能といった表情を浮かべていた。
 間髪入れずに、ジュンが(せき)を切って問い詰める。
「だいたい、あなたのお母様はどうする気なの!」
「だから〈ベガ(・・)〉って事は隠してもらう。それから、一般人に危害は加えない(・・・・・・・・・・・)──それが最低限な約束。それさえ守ってもらえれば、あとは何とか説得するよ」
「何とか……って、具体的にはどう説明する気なのよ?」
 不安げに確認するジュン。
「う~ん?」──(しば)し、腕組みに考え──「橋架下(きょうかした)河川敷(かせんじき)衰弱(すいじゃく)していたところを拾ってきた……って、シチュでよくない?」
「「まさかの捨て猫扱いッ?」」
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登場人物紹介

名前:

 日向マドカ

 (Madoka Hinata)


種別:アートルベガ


性格:

 常に明朗快活で楽観的。考えなしの即決行動派。

 思考や言動も突飛なので、状況を予想外の展開へと引っ張る事が多い。

 しかし、根本的に底抜けに明るく他人思いな性格のため、憎めないカリスマ性を抱かせる。


特徴:

 ある日『アブダクション( UFO による拉致)』によって〈アートルベガ〉へと生体改造された少女。

 その能力で地球の平穏を脅かす〈ベガ〉と戦う〈SJK(SpeaceJK=宇宙女子高生)〉の使命を負わされる。


 相棒の〝星河ジュン〟に対しては尋常じゃないほど執着的な好意を抱くが、それが『大好き』の域なのか『同性愛』なのかは不明(本人にも自覚無し)。

名前:星河ジュン

(Jun Hoshikawa)


性格:

 理知的な常識派。

 学年トップレベルの秀才でもある。


特徴:

 主人公〝日向マドカ〟の親友だが、彼女の突飛な言動には振り回されっぱなしで、常に沸点の低いツッコミ役としてのポジションが確立してしまっている。

 しかしながら、マドカに対して母性にも似た強い愛情も抱いているようで、どうしても放っておけない世話役女房的な関係性でもある。


名前:クルロリ

(Kururori)

 ※ 本名は不明。

 この〝クルロリ〟という名前も、日向マドカが『クールロリータ(Cool Lolita)』から捩って命名した便宜的呼び名に過ぎない。


性格:

 無表情。無抑揚。

 沈着冷静な合理論者。

 反面、朴訥にして朴念仁。


特徴:

 正体不明。

 小柄な謎の少女。

 その言動から、少なくとも〈宇宙人〉である事は確実。

名前:ラムス

(Ramus)


性格:

 しとやかにして柔和。沈着冷静。

 反面、結構したたかで抜け目が無い。

 基本的に人当たりは良いが、相手によっては毒舌で心理的ダメージを与える辛口な面もある(特にマドカには)。

 しかしながら、根は心優しい。

 何は無くとも『ヒメカ溺愛』という固執愛を持つ。


特徴:

 惑星ジェルダの原生生物〈ブロブ〉であったが〈ヒトゲノム〉移植により〈ベガゲノム〉を得て〈ベガ〉へと新生した。

 それと同時に高度な知的生命体へと昇華された。

名前:

 胡蝶宮シノブ

 (Shinobu Kochoumiya)

 ※ 日向マドカからはフランクに〝シノブン〟と呼ばれるが、本人はプライド的に嫌がっている。


性格:

 自尊心は強いが、沈着な理知派。

 忍者として培った性格は、時に冷淡非情にも切り替わる。

 愚直なまでに使命感が強いが、四角四面な性格は狭隘に審美眼を曇らせてしまう危険性も孕む。


特徴:

 胡蝶流忍者の次期頭領。

 ある日、突然にして〈モスマンベガ〉へと生体改造されて〝人間の姿〟へ戻れなくなってしまい、憧れていた『普通の女子ライフ』と訣別せざる得なくなった。

 途方に暮れていた折に、謎の宇宙人〝シャイーヴァ〟が接触し、彼女を懐刀的存在と召し抱える。

 以降、利害一致からジャイーヴァへの貢献に奔走。

 無敗にして順風満帆であったところに、運命の天敵〝日向マドカ〟と接触する羽目となる……。

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