第66話

文字数 1,216文字

管理物件の整備が進み、いよいよ明日からキャンプ場としてオープンするGW前。
みんなで昼間のうちに準備を済ませ、オープン祝いのバーベキューをした。
海はもうすぐ3歳、保育所に通い始めた太陽が良く面倒みてくれる。
妊娠中の桃子に煙が行かない様に必死な袴田。
有給使って駆け付けて手伝ってくれた課長と明美さん。
あ、しのさんもSPと結婚して今産休だそうだ。
SPが入社してくれたおかげで、会社もうまくまわってるみたい。
しのさんもいずれこっちに来たいと言ってるって。
そんな話をしながら、みんなの輪から離れ、るりちゃんとふたり。
真四角に切り取られた様な星空を眺める。
「この星空、ぜったいお客さん感動するよー」
ねえ、るりちゃん
「んー、なーに?たいぽん」
トテ子って、いったい何だったんだろうか?
珍しく真面目な顔。
「わたしね、みんなと戦えなかった時、考えたの。
例えばさ、お金って、たいぽんにとってなに?」
あればあったで良いけど、怖いよ。かあさん、ずっと金に追われてたから。
「ずっと近くに居て、なんでたいぽんだけトテちゃんとシなかったのか、考えたんだよ。怖かったんでしょ?」
「お金もトテちゃんも、実体があるのかな?ほんとはだれも知らないものだから、知ったつもりになった人を狂わせる。それがたいぽん怖かったのかな?って」
「それって、実は愛と同質で、たいぽんはそっちだったから、うまくいえないけど、わたしも、みんなも一緒に居たいんじゃないかな、とかさ」
るりちゃん!さすが僕の奥さんだ。
「わたしはたいぽんの事考えるだけで、何も出来ないけどー。今も育児で手一杯だし。」
いや、十分だ。
おかげで良い事思いついたよ。
僕らだけの通貨をつくるんだ。
その担保は、愛。
僕らみんな愛を持ってる集まりだからさ。
その僕らひとりひとりの愛への信用を担保にして。
日本円に対して少しレート低くしてさ、そのかわりここでしか使えないけど、ここではそれ以上の価値を与える努力をするんだ。
そのうちにお客さんの満足がレートを上げて、僕らを潤してくれる。
それは、お客さんからの愛。
あたらしいお金を作るんだ。
たぶん、お金って劣化しないものが担保になってて、それが金から国家の信用みたいなアテにならないモノに変わってしまってるんだと思う。
だから、僕らひとりひとり、愛を絶やさず生きて、その信用でお金を発行して、やさしいちいさな国を作るんだ。
その通貨の単位を「トテ」にしようよ。
トテ子は愛にも闇にもなれた。
だから、僕らは愛にしよう、これからずっと。
もう彼女があんな風に現れないで済むように。
ね、るりちゃ、
あ、寝てる。
「ん?あ、ごめん、むつかしくて、ねむくなった。うん、良いと思う。海や、お腹のこの子がしあわせに引き継げるように、頑張ろーよ!」
男の子だよね。そろそろ名前決めようか。
いくよ、せーのお、
「だいち!」
ふたり、目を合わせて笑った。
あ、れ?
るりちゃんの顔がぐにゃりと歪んで…
ザーッ
ブラウン管テレビの砂嵐
プツッ
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