第20話

文字数 694文字

仕合せな世界。
あれは、夢だったんだろうか?
あまりに性欲を溜め込んだ僕の、夢精を伴う長い夢。
瑠璃子が妊娠した。
僕の子供が生まれる。
そう思うと、世界がこれで良いのか、わからなくなった。
あの夢の発端は、もちろんトテ子の存在だったのだけれど、事態が急転するきっかけは、丹羽課長の自殺だった。
もし我が子が、不慮の事故や、何かに苦しんだ際の解決として、簡単に落ちれば死ぬ環境。
それが、街には溢れている。
瑠璃子と付き合ってからふたりで温泉巡りをする様になり、山里を訪れる様になっていた。
平屋村。
その名の通り、平屋の建物しか、村が許さないそうだ。
そこで、地元の年寄に挨拶して少し話をした時、それとなく、「平屋しかないと、飛び降り自殺出来んで良いね」と言ってみると、とある伝説めいたものを話してくれた。
赤川。
正式名称とは別に、そう呼ばれる川が流れていた。
その中流域はこの村の居住域となる僅かな平地部に抱かれていた。
昔も山に登れば死ねる場所はあったが、そこまでの道のりは険しく、わざわざ飛び降りる為にそこまで行く者は、ほとんど居なかったという。
しかし、赤川には一か所、誰でも楽に行ける川床まで高い崖を有し大きな岩を敷きつめた淵があり、そこが飛び込み自殺や事故の名所となった。
昔はさほどではなかったが、特に自家用車が普及し、旅の人が増えると自殺含めた事件・事故が激増した為、村は観光名所とする事を断念、なるべく知られない様にしているとの事。
紅葉が見事だから、赤ケ淵、赤川、ではなく、そんな由来があるそうだ。
そこまで話したおばあさんは、あ、あんたらも旅のもんだったな、どうか、飛び込みなさらんでな、と付け加えた。
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