第17話 ケージ02

文字数 7,522文字



11月19日
研究所本棟 B7

            ――『監視エリア通路』




【04:03現在】


 ジュードに油断したつもりはなかった。
 だが膝を撃ち砕かれ、床に這いつくばったバケモノが、まさか自分に跳びかかってくるなんて、予測できるはずもなく。
 完全に意表を突かれたジュードは、迎撃も避けることも許されず、大型SUVの衝突に等しい体当たりを真っ正面からまともに喰らっていた。そのまま強烈な力で押し出され、宙を横切り、


「――――がっ」


 硬い壁面に押し潰されて、肺の中の空気を強制的に吐き出させられるジュード。同時に電気ショックのような激痛が、背中から手足の指先へ向けてスパークする。
 咽奥からじんわりと滲んでくる鉄の味。 
 肋骨を何本やられた?
 指先の痺れはすぐにとれるのか?


 ――くそったれ!!


 銃撃の手応えに嬉しくなるあまり、バケモノ相手であることを一瞬でも失念させた痛恨のミス。
 悔しさと痛みで歪められるジュードの顔に、その時、ムワリと生暖かい息が吐きかけられる。


 カハァ――……


 まるで腐りかけの魚の腑に、生き血を混ぜ込んだような吐き気をもよおすその悪臭。
 それは目と鼻の先にあるゴブリン・ジャイアントの、半笑いのように開かれた口腔から漂ってきた。

(こいつ――)

 一瞬、そいつの醜悪なる面貌に、ジュードが“喜悦”を感じ取ったのは妄想にすぎないか?

 だったら半月に細めた目は何だ。
 血に塗れた唇の端を、どうしてそこまで吊り上げる?

 そいつはジュードのマヌケぶりを確かに嘲笑っていた。そして報復の機会を得た悦びに、心から奮えていた。

「……舐めるなよっ」

 その時、ジュードの胸中に沸いたのは、屈辱と抑えきれないほどの暴力的な怒気。それが利き手の指を少しだけ動かせる力を与えてくれた。
 そう。
 ゴブリン・ジャイアントの肩と自身の胸前で押し挟まれていた、UMP45のトリガーを引けるだけの力を。


 BAM!!
  ――GYA?!


 至近距離でくぐもった発砲音が轟き、優れた聴力故にド肝を抜かれたゴブリン・ジャイアントが、反射的に身を離す。
 おかげで壁に抑え付けられていた圧力が消え、ジュードの身は床上へと両膝から崩れ落ちる。
 いや、ジュードは倒れながらでも、銃口を忌々しいバケモノの巨躯に向けていた。
 反撃のチャンスなど今しかないのだと、本能的に察して。


 TATATA!!
  TATATA!!


 虚を突く至近攻撃で全弾クリーンヒット!
 だが二射目は初弾のみが命中し、二発三発と空を撃つ。驚くべきタフさと反応速度でゴブリン・ジャイアントが回避したためだ!
 しかし片膝での無理な緊急跳躍で方向がズレて壁に激突。その背に、すかさずクリスの徹甲弾が容赦なく叩きつけられる。しかも急所に等しき脊髄へのピンポイント痛打で。


 ――?!


 バケモノが声もなく仰け反った。
 徹甲弾の特徴である、硬度のある弾殻が、強靱なバケモノの肉を抉り骨を砕いて、肉体的なダメージと明らかな“痛み”を与えていた。
 やはり徹甲弾は効果があるのだっ。

「クリス……!!」

 ジュードが叫ぶ。
 今度こそ殺れる、との手応えがジュードの胸に希望と自信を漲らせる。
 だがここぞ、たたみ掛けたい思いとは裏腹に、倒れ込んだ身体に力が入らない。少しでも両腕に力を込めれば、激痛が走って身もだえる。

「……っ」
「ボス?」

 バカヤロウ。
 敵から意識を反らすクリスにジュードは腹を立てる。俺に構っている場合かと。倒すことに集中しろと。

「……いいから、撃てっ……」

 ジュードは激痛を堪えて肘つく姿勢をとり、狙いもそこそこにトリガーを引き絞った。
 外れたって構わない。
 ケツの青い小娘に戦う気概を見せられれば、それでいい。

「逃がすな、クリスっ」
「ですが手当てを――」
「ここで……終わらせろ!!」

 必死に叫び、命じるジュード。
 ヤツを斃すなら今しかない。
 怯んでいる今がチャンスなんだと。


「撃てっ――」


 咽を絞り上げながら、ジュードは四つん這いになろうとして四肢に力を込めた。
 反射的に痛みの電流が走って身を強張らせる。
 息すらできない。
 ぶわりと額に滲み出た脂汗がボタボタと滴り落ちて。
 それでも「くあっ」と掛け声一発、ありったけの根性で痛みをねじ伏せて、ついに立ち上がるジュード。すぐにバランスを崩すも、背中を壁に預けて倒れこむのを防いで。
 銃口を上げろ。
 お次はトリガー。そして――

 撃つ。
 撃つ。
 撃ちまくる。

 俺はまだやれる。
 やれるぞ、クリス。
 だからおまえも――



「弾丸を、叩き込め!!」



 痛みに耐えるだけで精一杯のジュードに、バケモノの位置など正しく掴めるはずもない。それでも元兵士の“勘”を頼りにトリガーを何度も引き絞る。

 銃口が小刻みに震える。
 毎分580発の速度で吐き出される45口径弾。
 その頼もしきリコイルが肋骨に重く響く。

 思わず苦鳴を洩らしかけたジュードは、痛みを気合いで抑え付けようと腹の底から声を張り上げた。

「ぉぉおおおおっ!!」

 そんなボスの気迫に「オーケイ、ボス」とクリスも同調。
 乱れ飛ぶ45口径弾が外れても、9ミリ徹甲弾だけは精確にゴブリン・ジャイアントの体躯を捉え、着実にダメージを積み増していく。


 KRWOOOO!!


 さすがのバケモノも20発を越える高威力の弾幕に反撃の意志を断たれ、今や逃げの一手。
 あたりに血をまき散らしながら、力ある両腕を使って跳ね飛び、ガムシャラな軌道で逃げまくる。その暴れっぷりに巻き込まれる、生き残りのゴブリン達。
 床で気絶しているだけのモノも、後から駆けつけたモノも。
 潰され、へし折られ、弾き飛ばされて、ドハデに血飛沫をまき散らす。
 ついには迷走するゴブリン・ジャイアントの動きも鈍りはじめたところで。


「――よし、逃げるぞ」


 今ならT字路制圧も夢ではないのに、ジュードは惜しげも無く、その場からの“退避”を選択した。
 無論、負傷のせいで予定を変更したわけでなく、はじめからそのつもりだっただけだ。例えデカブツ一匹撃退したところで、フロア全体の戦局が劇的に好転することがない以上、常識的な判断だ。
 当然、クリスからの反論もなし。
 無言で肩を貸そうとしてくるクリスをジュードは手で制し、パスカードでもう一度『ケージ02』のドアを開けた。

「問題なし。行ってください」

 後方の安全を確認するクリス。
 それでも廊下の向こうから響いてくる、騒々しい足音やケモノの嬌声。いまだフロア奥から聞こえてくる銃声は、ダリオ達の奮戦が続いていることを指している。
 やはり長居は無用だ。
 今度こそ、ジュードは振り返ることなく、胸の痛みを堪えながら『02』の部屋に踏み込んだ。続いて後方を警戒しつつクリスが。
 これでようやく一息つけるかと思ったが、そうはならなかった。
 二人の目に思わぬ光景が跳び込んできたからだ。
 それと生理的嫌悪をもよおす不快な臭いも。 



 ◇◇◇



「――なんです、この臭い」

 入室してすぐ肉の焼ける臭いが鼻を突き、顔をしかめるクリス。その原因となったモノが複数、部屋のあちこちで小さな白煙をあげて燻っていた。その中で特に二人の目を引いたのが、

「例の『原種』ですかね?」
「おそらくな」

 それはヤシの実のごとく大きな乳房を持ち、大人ふたりを呑み込んだようにお腹を膨らませたゴブリン・ジャイアント。その黒く焦げた遺骸が、黒檀で彫り上げた彫像のごとく床上に横たわっていた。

 もちろん、絶命しているのは間違いない。

 なぜ焼死したかの疑問が残るにしても。
 しかし2人を困惑させる点は、遺骸の焼却だけではなかった。

異種交合(ハイブリッド)の実験をしていたと云ってたか? だがこれじゃ“実験”というより、ただの“乱交パーティ”だ」

 ジュードが不審感をあらわにするのは、焦げたメス・ゴブリンのそばに複数のオス・ゴブリンだけでなく、羊やウサギなど別種の遺骸まで転がっていたからだ。
 本来なら様々な交配パターンに区分けして検証するはずだ。このように全種別を解き放っては、変異体の凶暴性が刺激され、交合よりも先に種別間の争いがはじまるに決まっている。それを研究者が考慮しなかったとは考えにくい。

「おそらく、例の“実験トラブル”というのがこのことでは?」

 思い付きを口にするクリス。その目は、壁面に設けられた4×3段構成のケージ・マンションに向けられていた。
 檻には個別のネームプレートが付けられており、普段は生物種ごとに分類して管理していたことがうかがえた。
 肝心なのは、電子錠付きの扉がすべて開放されている点だ。

「ここがトラブルの発生点だったにしろ、そうでないにしろ――とにかく電子錠が一斉解除されてバケモノが逃げ出してしまった。これじゃ警備員が対処しきれなかったのも当然です」
「“一斉解除”か」

 状況から推測すればクリスの云うとおりだ。
 だがその言葉にジュードは引っ掛かりを覚える。
 仮にひとつづつ解除するなら、誰かがわざとやったに違いなく、逆に全ケージの同時解除などケアレス・ミスで起こり得る話でなく、システムから操作しないと成立しない方法だ。
 いずれにしても、何者かの関与(・・・・・・)を臭わせるのだ(・・・・・・・)
 「まさか」と思わず声に出すクリスも気付いたらしい。

「“実験トラブル”が人為的なもの――?」
「俺はそうだと思ってる」

 こうして目にすることで確証を得られたと。 
 ジュードはクリスの仮説であった“事故”と“事件”の偶発説を否定し、さらにイメルダと話し合った“新たな仮説”をここで初めて披露した。


 事件は数日前に起きていた可能性が高いこと。
 時間差トラップを仕掛けた理由は、逃走のための時間稼ぎと考えられるとも。
 ただし“侵入者”の有無はグレー。
 逆に、内部に“裏切り者”がいた可能性は高い。
 あるいは“裏切り者”による単独犯。
 その有力候補は警備員またはランドリッジではないか。
 そうして先ほど、GPS信号の位置により、装置を奪った者がサンプルをも狙っている可能性がでてきた。


 真剣な表情で聞き入るクリスは、眉をしかめながら何とか話を咀嚼しようとする。

「つまり“すべてはひとつの事件である”というわけですか。例えば“裏切り者”によって“実験トラブル”が起こされ、騒ぎに乗じて装置やサンプルが奪われたと」
「その証拠に――」

 手近な焼死体を仔細に眺めていたジュードが説明を加える。

「こいつらの身体には噛み傷や爪痕だけじゃない。撃たれた痕も残ってる(・・・・・・・・・・)
「それに焼かれてもいますしね」

 施設関係者なら先に麻酔銃を試す。ダメならガス処分だ。高価な機器の被損を防ぐため、研究室内での銃使用を許可することなどあるはずもない。
 だから目の前の惨状を起こした人間は、サンプル採取を目的にする者としか考えられなかった。
 「これが“裏切り者”の仕業なら、“ランドリッジの線”は薄いな」とジュード。裏切ったのは武装した警備員、あるいは“侵入者”の存在を認めた方がしっくりくると。
 ジュードは室内の惨状をじっくり眺めながら、サンプル採取者の動向を読み取ろうとする。

「できれば『02』の電子錠だけでも個別にロックしたかっただろう。結局そうできずにバケモノと戦うハメになり、制圧に手間取った」

 明らかに銃弾と思われる点痕は、床や壁だけでなく天井にまで穿たれていた。これだけでも銃を乱射した者の狼狽えぶりがうかがえる。

「それでも何とかサンプルの採取に成功し、ご丁寧なことに焼却処理まで実行した」

 もちろん嫌がらせのためではない。
 きっちり炭化させれば、もはやDNAのサンプリングもままならない。それは競合相手を作らないための抜け目ない措置。事実、部屋全体の焦げ具合を見ても、あえて強力な燃焼剤を使って入念に焼かれたことがうかがえた。
 
「当然、これをやったのはイメルダじゃない」
「ええ。この短時間でここまで燃やしきるのには無理があります」

 仮に焼夷手榴弾を使ったとしても、部屋に強烈な熱気が残っているはずで、それは感じられない。ただ一番の解決策は本人に尋ねることだが。

「そのイメルダだが、どうしてると思う――?」

 シンプル構造の部屋には隠れる場所もなく、一歩も動かず首を巡らせるだけで、誰もいないことが確認できた。
 そう。
 部屋の惨状に目を奪われ、状況の見極めを優先していたが、先に入室したはずの彼女の姿は、はじめから目にしていなかった。

「装置も見当たりませんね」
「とすると――」

 そこで2人の視線がある一点に据えられた。
 これも、はじめから気付いていたことだ。
 部屋隅に黒い穴がぽっかりと空いていることに。 頭から突っ込めば、何とか胴をくぐらせるだけの小さな抜け穴は、その淵をしっかり観察すると成形爆薬を使ったような焦げ痕が確認できた。

「“背を見失うな”――か」

 呟くジュードの考えをクリスも察したらしい。

「それって――」
「ああ。爆発音は聞いていない。つまり穴を開け、外から焼夷手榴弾を投げ込んだのは、先に辿り着いていた警備員か“侵入者”で間違いない。ただイメルダは、この脱出ルートに心当たりがあった(・・・・・・・・)――」

 そう言葉を途ぎらせたジュードに、

「そいつとイメルダが共犯(グル)だから」

 嫌な推測をはっきり口にするクリス。
 そう考えなければ、イメルダが去り際に言い残したセリフは出てこない。彼女は、『ケージ02』に辿り着けば装置もサンプルも入手でき、さらには脱出ルートも造られているだろうことを予め知っていたのだ。

「ですが、はじめから『管理通路』側からアプローチしていれば、ラクに来れたはず。なぜこんな危険を冒したのでしょう」

 そこにイメルダへの不信感を晴らす理由が見つかるかもしれない。どちらかと云えば、可能性のひとつを潰すために疑問を口にしたクリスに、

「仲間と俺達がバッティングするのを避けるため」

 ジュードが不機嫌な顔で答える。

「危険を冒せば冒すほど、俺達の彼女に対する“信頼性”は高まる。目的を達成し、かつ、自分が疑われずに済ますには、このくらいの危地は折り込み済みなんだろう。
 あわよくば、俺達が殲滅したらめっけもの――とかな」
「……あのメギツネ……」

 ドスの利いた声音で憤慨するクリス。
 だがジュードの感想は真逆だ。
 ある種のプロではある、と。
 ただの戦闘員なら熟練するほどに“生き延びる”ことを重視する。だから任務を優先し、己の身を危険にさらすのは、特別な意識を持つ者だけだ。
 イメルダは、自分達とは違うのだ。

「とにかく、感心してばかりもいられない」
「感心?」
「“急ぐぞ”って話だ」

 脳裏に過ぎった雑念を口にしてしまい、誤魔化すジュード。「俺達は後手を踏んでるんだ」と今がどういう状況にあるか、真剣な声音でクリスに説明。
無線を使う。

「クォン。『02』に着いたが目的のモノが見当たらない。GPS信号はどうなってる? 装置はまだ『02』にあるのか?」
≪……≫

 だがクォンからの応答はない。

「おいクォン。聞こえてるか?」
≪……≫

 さらに二度、繰り返したところで「クソッ」と吐き捨てるジュード。
 見かねたクリスが口を挟む。

「直接イメルダに尋ねては?」
「ダメだ。こっちの動きを悟られたくない。逆に誰かを本当に追跡中なら、物音を立てれば彼女を不利にさせる可能性がある」

 どちらにしても連絡すべきじゃないと。
 どこかで“敵”だと決めきれない思いが、ふたつのケースをジュードに想定させる。
 「美人ですからね」とクリスが小さく毒づくのを聞こえないフリをして、ジュードは無線で別の人物に声を掛ける。

「おいダリオ、何をやってる?」
≪そんな言い方ねえだろ≫

 無線越しに聞こえてくる激しい戦闘音で、今も懸命に粘ってくれているのだと知る。

≪俺だってな――≫
「そんな話はいい」

 恩着せがましくアピールしかけた年長者の言葉にかぶせて黙らせ。

「いいか、すぐにクォンのところへ行ってくれっ」
≪は? なんでまた?≫
「詳しくはあとだ。とにかく急げ、クォンを守るんだ!!」

 一方的に命じて無線を切る。
 すぐにUMPの弾倉をエジェクトさせ、残弾数が十分と確認してから、素早くフラッシュ・ライトを点灯させた。

「俺達も追うぞ」
「追うのはいいですが、イメルダはどうします?」

 撃ってもいいのかと尋ねるクリスに、ジュードは無言で穴に近づき荷物を下ろす。

「……イメルダがそいつ(・・・)――“強奪者”と共犯なのは間違いない。だが本気で俺達を害しようとしてるようには、思えない」
「何ですかソレ」

 煮え切らない返事に声が平坦になるクリス。
 「だってそうだろう」と語気を強めてジュードが言い訳する。

「俺達の死を望むなら、あんなことを云う必要はないし、ドアの開閉装置を壊しておけばそれでカタがついた。……本当に敵かどうかは、わからない」

 撃つなってことか?
 クリスが苛立たしげに「これだから男は」と愚痴をこぼす。

「やっぱり美人だから」
「関係ない」
「いいカラダしてますし」
「だから、関係ない!!」

 吠えた勢いで頭を上げてしまい、コンクリにぶつかるジュード。 

「……っおお……」
「これだから男は」

 クリスがため息をつきながら、ボスのケツを蹴飛ばし押し出してくれる。

「とにかく了解です」
「そう、か?」
「イメルダはそうでも、“強奪者(おなかま)”が優しいとは限らない――そういうことですね?」

 ジュードが先を急ぐ理由は理解できたと。
 万一、“強奪者”だけで先行し、クォンとかち合った場合、どうなるか。
 センターの凍り付いた死体がその答えだ。

「……イメルダが抑えてくれるといいが」

 身ひとつで穴をくぐり抜けたジュードが、荷物を受け取りながら祈るように呟く。その甘すぎる期待を、

「目的のためなら、オンナは非常になれますよ」

 クリスがきっちり台無しにしてくれる。
 現実を見ろと。
 現にクォンとの音信は途絶えており、無事である可能性は極めて低い。

「――警戒だけは怠るな」

 今のジュードに言えるのはそれだけだ。
 軽く息をついて、まわりに注意を向ける。
 管理用通路は薄暗く、ライトの明かりだけが頼りとなる。
 他に光明はない。
 まるで、今のジュードの心境を投影しているように――。


********* 業務メモ ********


●ケージ02の状況
 すべてのケージの電子錠がアンロック状態。
 原種のメス・ゴブリンほか数体の遺骸。
 (死因は銃撃による。殺害後に焼却)
 部屋の壁に空いた穴。

●ケージ02における考察
 イメルダ以外の先行者がいた形跡あり。
 先行者はサンプル採取したと思われる。
 イメルダと先行者が共犯の可能性あり。
 つまりイメルダは裏切り者か?
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