第13話 腑に落ちない点
文字数 7,997文字
11月19日
研究所本棟 1F
――『医務室』
【00:48現在】
ロッキー山脈の懐深くで人知れず芽吹いていた、抗体医薬の新たな可能性。それは“恩恵”にも“災い”にも成り得る『未知なる産物』であった。
ジュード達は生き残りの研究員――ランドリッジの告白により、その隠されし秘事と研究所で何があったかを、大筋ではあったがようやく知ることができた。
ただ残念ながら、今の状況を好転させるほどのネタを得られたわけでもなく、肝心の“装置の所在”は不明なまま。
ダリオの云うとおり、分の悪すぎるミッション・クリアを断念し、早急な撤退を判断する選択肢も確かにあったのだ。
それでも互いの思惑や都合に折り合いを付け“意見の一致”が図られた。
バケモノが解き放たれた地獄の淵へと進むことを決めたのだ。
そうなると、
「まずは“装置の捜索”をどうするかだが」
美しい眉を悩ませるイメルダが、皆に解決案を求めるも、すぐに妙案が出されることはない。
さすがに苦悩の沈黙がしばらく続くかと思われたが、
「……もしかしたら、GPSの捕捉システムが使えるかもしれない」
クォンが顎をしごきながら何かを閃く。それに当然の疑念をぶつけるのはイメルダだ。
「地中で電波は拾えないと云わなかったか?」
「ああ、外部の施設ではね」
だからダメだと思い込んでいたのだと。
「けれど、この施設内には警備用wifiの回線網が張り巡らされている。これだって電波を拾う仕組みには違いない。なら、GPS信号をキャッチできるのが道理じゃないか?」
「そうなのか?」
専門外のイメルダに答えられるはずもなく、問いかけたクォンも回答を期待していたわけではないようだ。
「先ほどの、個人無線をリンクさせた手法の応用だよ。まあ、分析ソフトの改良は簡単じゃないけどね……トライしてみる価値はあると思う」
「しかし間に合うか? 時間がないのは分かっているな?」
疑心が消えないイメルダに、「会社を通して専門家の支援を得ればいい」とクォンはあっさりしたものだ。
「ウチの会社のイイトコは、素早く外部の適任者を見出し、交渉して、協力関係を結ぶ実行力にある。そこは期待してくれていい」
「可能性があるなら、やらせてみよう」
そう後押しするのはジュード。イメルダも別に異論はないらしい。
「なら、その件は任せる」
「よし、すぐに会社と相談してみる」
クォンが自信ありげに請け合ったところで、エンゲルが安堵の表情を浮かべた。
「これで捜索範囲が絞れれば、しっかりした作戦も立てられるな」
「だったら、今のうちに装備を固めておくのはどうだ? 使えるモンがあるなら、ありったけ使わせてもらいてーな」
イメルダの云っていた『武器庫』の話をしているのだろう。切り替えの早いダリオが声を上げ、
「あ、私はこのままでいいから休みます。なんかヘンに疲れちゃって」
クリスがマイペースに宣言する。だが勝手は許さんとイメルダが命じる。
「悪いが装備の準備は全員でやる。撤退刻限まで、残り3時間しかないことを忘れるな」
「……」
ぶすっと頬を膨らませシブイ顔になるクリス。
より目付きの悪くなった娘をイメルダは一顧だにせず、「ただしベイルは別だ」と顔を
「出発までに、できるだけ体力を回復しておけ」
「……わかった」
蒼白い顔のベイルが弱々しく返事する。
何だかさっきよりも表情が優れないようだ。
「ひとりで大丈夫だな?」
「でしたら、私が付き添いましょう」
サッと手を挙げ悪あがきするクリスに、
「いや、おまえはこっちだ」
ジュードが頭を鷲掴みにして、強引に回れ右をさせる。
首が痛いと喚くクリスをスルーして。
彼らは久しぶりに『ビジター・センター』へと戻ることにした。
◇◇◇
【01:00現在】
ゲートをくぐった先の『警備室』でクォンと別れたジュード達は、そこからイメルダを先導者に、渡り廊下を歩いて『大倉庫』へ。
駐車された雪上車を横目に倉庫奥へ進むと、大扉で封じられた幾つかの庫室の前に辿り着いた。
「ずいぶんと立派な『武器庫』じゃねえか」
呆れ混じりにダリオが大扉を軽く見上げる。
元々が政府軍ベースであった施設の経歴を考えると、扉を最新式に換えただけで、庫室そのものは流用しているのだろう。
実際、中に踏み込んでみると、広さに比べて空きスペースがさすがに目立っていた。
「まあ、そうだよな」
「それでも警備員の人数とこの物量は不釣り合いだがな」
エンゲルの感想どおり、庫室の一画に20挺近いSMGと拳銃、それに麻酔銃と思しき武器ケースが整然と並べられていた。
無論、そばにはたっぷりと弾薬箱も積み重ねられている。これなら所員総出で防御陣を構えれば、一個中隊に攻められても抗えそうだ。
他にはスタンガンや警棒、メットに防弾着など各種装備品の名前が入ったBOXがそろっていた。
さすがに一流企業、警備部門からの要求にすべて応じているような品揃えだ。
「おう、こりゃ【UMP】の45口径バージョンじゃねえか?」
「拳銃も45口径があるな」
喜色を浮かべるダリオにエンゲルも銃を手に持ち丹念にチェックする。
「弾薬も通常弾に
「そいつぁいい。硬ぇ化けモンが出たら、一発ぶち抜いてやれる」
上機嫌で応じるダリオは両手に拳銃を持ち、他にないかと物色する。
「オレはこれにするか」
反対側で長物を手にするのはイメルダ。
雰囲気のある散弾銃を掲げ、シャクッと独特のポンプ・アクションを響かせる。
アイサイトをのぞき込み、軽く振り回して銃のバランスをチェック。
「【ベネリM3】か……YDSの好みなのか?」
ジュードの質問にイメルダは「オレの趣味ではない」と素っ気ない。
「だが、弾種が“散弾”に“一発弾”と二種類用意してある。使わない手はない」
「“一発弾”? 暇つぶしにハンティングでもしてたのか?」
およそ対人戦で使うとは思えない過激な弾薬に、ジュードは眉をひそめたがそれだけだ。
「ま、俺は無難に45口径へのバージョン・アップをするとしよう」
現役時代にも、45口径の“
大型ゴブリンの脅威を思い起こせば、絶対的な火力はどうしても欲しくなる。
「“弾数”よりも“パワー”ですか。……男ってほんとにノウキンですね」
呆れるクリスは、せっせと徹甲弾ばかりをパウチに押し込んでいた。
だがゴブリン相手の経験を踏まえると、貫通性よりもST弾の打撃性能が優れているのは明らかだ。
見かねたジュードが「それでいいのか?」と眉をひそめると、
「あのデカブツに効くのはこっちですから」
「ああ、『ゴブリン・ジャイアント』か……」
B3で遭遇した長身の人形怪物。
クリスにとってもあのインパクトは強烈だったようだ。
「確実にヒットさせたのに、あまりダメージが入ってるようには見えませんでした。神経が鈍いのか、あるいは異常発達した筋肉で防がれたのか……だったら、ライフル弾か徹甲弾で押し切るしかないですよね?」
小さな唇を三日月にするクリスに、「あるいは」とイメルダがショットガン用のスラッグ弾をつまんでみせる。
「“獣打ち”をぶち込むかだ」
拳銃弾とは比べものにならない大きさと火薬量。
肉厚な猪を仕留めるための専用弾なら、強靱化されたサルの化け物相手でも十分通用するはずだ。
期待感のこもる皆の視線に気付いたクリスが、声を尖らせる。
「すみませんが、アレは私の獲物です」
「よせよせ。ちっちゃい嬢ちゃんが相手できるようなデカさじゃねえ。
わざとらしく下卑た笑みを浮かべるダリオに「確かに
「でもこのタマで、あいつの“ミートバー”を短く切り詰めてやりますよ」
「タマをタマで? ……たいしたタマだな」
「……」
なぜかシブミを利かせるダリオの言に、表情を消し飛ばすクリス。
「何とかしろ」とイメルダに目線を向けられたジュードは、わざとらしく咳払いする。
「……あー、防弾ジャケットもゴツいのがあるようだぞ? こいつにプレートを差し込んでおけば、肉を抉られることだけは避けれそうだ」
「私はパス。動きがにぶると困るので」
敏捷性重視のクリスがさっくり拒否すると、
「俺もパスだ。
別の敏捷性を重視するダリオも拒否をする。
逆にパワーのあるエンゲルはプレートを二枚重ねにして強引に防御力をアップさせた。これでゴブリン・ジャイアントの一撃にも耐えられることを期待して。
「できれば、弾薬運びにバックパックがほしいトコだな」
豊富な弾薬を目にすれば、それなりの分量を持参したくなるのが兵士の人情だ。ジュードの呟きにダリオが案を出す。
「この倉庫なら、あるんじゃねーのか? いや、施設の連中なら、宿泊用具の持ち運び用に持ってるだろ」
「状況が状況だ。倉庫になければ、他人様のもんでも借りるしかない、か」
それから少しばかり時間をかけて、ジュード達は対バケモノ戦を想定した装備一式のパワーアップを図るのだった。
◇◇◇
【01:35現在】
装備強化を終えて『警備室』に戻ったところで、一時、休息を入れることになった。
理由はクォンのアイディアが技術的課題をクリアできる目処が立ったからであり、そのための準備作業にもう少し時間がかかるからである。
あてどもなく危険な施設をさまようよりははるかにマシなため、当然の判断と言えるだろう。
「――以上、再集合は午前2時。それまで休憩だ」
イメルダの宣言と同時にパタリと両手を広げてデスクに突っ伏すクリス。「いい夢を」と幸せそうに笑みを浮かべて寝落ちするのはダリオ。
その中で、イメルダの姿がないことに気付いたジュードが呆れ混じりに嘆息した。
また見張り番でもするつもりかと。
放っとけばいいのにジュードは重い身体を持ち上げ、部屋を出た。
行ける道は三方向。
普通なら境界ゲート方面を選ぶべきなのに、少し迷ったジュードは『受付』へ向けて歩き出す。
やはり、いた。
まっすぐ突き抜けた展望ラウンジの方で人影が。
何となく足音を忍ばせ近づくと、遺体のそばでうずくまるイメルダの姿があった。
「……何をしている?」
「これをみて、何も感じなかったのか?」
質問に質問で返される。
声に驚きも戸惑いもないのは、ジュードの接近を感付いていたからか。
「施設での“トラブル発覚”は午後9時近く。窓から吹き付ける雪にまみれたとしても、たった数時間で、遺体がこんなに凍るものじゃない。それにこの傷を見ろ」
イメルダが指し示すのは警備員の首。
雪片で見えにくかった部位を軽く払うと、フラッシュ・ライトに照らされた傷口は、赤く、ぱっくりと切り裂かれているのに気付く。
「……ナイフ傷。監視室にいた警備員か」
期待された答えを口にするジュードはクリスの報告を思い出していた。
あの時は“人質として利用された”と推察していたが間違っていたことになる。
「そしてなぜか研究員の方は、銃で殺られている」
「殺害方法の異なる死体が、同じ場所に……
イメルダの抱いた違和感が、それか。
その違和感に対する答えを女兵士がさぐる。
「弔うための一時的な保管には見えない。逆に死体を隠すつもりなら、こんな目立つ場所を選ぶはずがない」
それでもこの場所を選んだ理由。
外の遺体と目の前にある雪まみれの遺体を目にしながら呟くジュード。
「……冷やすため?」
ただ思い付きを口にしただけのジュードへ、イメルダが振り向きジロリと目線を上げる。
「つまり、
「別に――ああ、そうかも、しれん」
ジュードが思い起こすのは、食堂での出来事。
古びた食事。
乾ききった血痕。
研究所全体が肌寒いのも――これまで任務の緊張感で気にもしなかったが――わざと設定温度を下げているためだと考えれば。
「いや、そうだな。すべては“侵入者”が
これが刑事ドラマなら、犯罪者のアリバイ証明が目的となるが、今回はそうじゃない。
ジュードは“侵入者”の狙いを的確に推測する。
「仮に逃走用ヘリが当局に不審機として捕捉されていたとしても、日時が分からなければヘリの特定に時間が掛かり、追跡に支障をきたす。
実際、今から日時を割り出したところで、この侵入者はとっくに逃げおおせている」
「それだと、データが奪われていることになる。だがGPS信号を捉えた事実はない」
しっかと否定するイメルダに、「事前に追跡装置の存在を知っていれば話は別だ。装置をシールドするなり対処法はいくらでもある」とジュードは強気で反論する。
「こうなると、通信設備を壊さず生かしたのも小憎らしい小細工だな。おそらく本社への警報を遅らせることが目的だったんだ」
ジュードは忌々しげに唇を歪めながら、
「おかげで俺達は現在進行形でトラブルが発生していると勘違いし、監視室から機密保管室――果ては最深部の『B7』まで探索させられた。挙げ句、バケモノに襲われるハメになるなんてな」
そう吐き捨てる。
腹立たしいのは、相手にとっては目くらまし程度の小細工にすぎないということ。
そのためにイメルダは部下を2人失い、ジュード達の生還も紙一重だった。
むかつくついでに思い出すのがもうひとつ。
「――まさか、あの“謎かけ”もそうなのか?」
言葉にしてなおさら、腑に落ちるジュード。その脳裏に蘇るのは、
As you sow
so you reap!!
まいた種は、刈らねばならない
(自業自得の意)
境界ゲートに書き殴られたペイントのリドル。
内容としては、実験動物を行うセオドラへの当てこすり――あれで環境テロが起きていると思わせられたのは確かだが、時間稼ぎが目的だとすれば、どんな意味になるのだろう。
「正直、あんなラクガキをする方が、時間の無駄としか思えない。けど、そいつにとっては何らかの意味があった。あるいはセオドラにとっても。実はクォンのヤツ」
「そんなことはどうでもいい――」
イメルダが遺体の検分を終わらせ、ゆっくりと立ち上がる。
「肝心なのは、本当に装置が盗まれてしまったのかだ。正直、それ以外のことはどうでもいい。――侵入者が描いた強奪計画はもちろん、その正体も含めてな」
「同感だ。ただしそれは、クォンの作業成果を確認するまでのお預けだ。だからこうして、愚にも付かない憶測をこねくり回し、暇を潰してる」
皮肉るジュードに、イメルダは「分かってる」と内心の腹立たしさを滲ませる。小細工に振り回されて最も憤っているのは彼女なのだ。その腹いせじゃあるまいが、「あとひとつ」と付け加えて。
「そちらのお嬢さんはトラブルと侵入者――ふたつの事件発生を“偶然”で片付けようとしたが、その説をあらためる必要も出てきたな」
「まあそうだな」
ジュードは素直に頷くだけだ。
「確かに、追跡装置の仕組みは誰もが知り得る情報じゃない。そしてあのペイント文字など、研究の中身を知っていたヤツのセリフを思わせる。
さらにこのコロシの技は、テロリストというよりも特殊部隊の手際に似ている。首へのナイフのあて方、銃の狙いも“眉間に一発”だしな」
つまり情報収集にも長けた“一流の工作員が”絡んでいるのではと、ジュードは匂わせる。それなら“偶然”じゃなく“計画的な犯行”だと。だが。
「あるいはもっと単純に見知ってる人間――“内部にいる者”の犯行だ」
裏切り者がいたであろうとイメルダは指摘する。
語調が重くなるのは、ある可能性に思い至ったためか。
「ここは堂々と侵入できる場所じゃない。それに争った形跡がないのも不自然すぎる。だが、はじめから内部にいる者の仕業なら、話は別だ」
つまり“侵入者”の存在さえフェイクだと。
ラクガキをした狙いもそこにあるのだと。
「だとしたら、ただの研究員にコロシは無理だ。おたくのメンツが怪しいぞ?」
ズバリ痛いところを突かれてもイメルダの美しき相貌にさざ波さえ立つことはない。
「ウチも人員は選りすぐっている」
「それでもカネの魅力には抗えんさ」
と断言するジュード。
「狙うは地下の最深部に秘匿されたデータ。正面突破は無理だから、わざと実験トラブルを起こさせ、移送プロトコルを実行させることにした。プロトコル発動に伴う警備員の分断も計画のウチだろう。
まずは“味方の仮面”を隠れ蓑に少数となった地上班を楽に始末できれば、迎えのヘリも安心して呼べる。
同様に味方を装って近づき、移送中のデータを奪って逃げれば、“任務完了”というわけだ」
これは環境テロではなく、産業スパイとして寝返った者の謀略だと。
いや、YDSにとっては純粋な裏切り行為だ。
「もしそうだとしたら、このまま簡単に終わらせるものか。裏切り者を突き止めれば、まだ、奪い返せる可能性があるかもしれない」
イメルダが意気込んで思考を巡らせる。
「まずは死んだ警備員を除外して、研究所内でも化け物に襲われた者の遺留品をみつければ、さらに絞り込むことは可能だろう。
それにくどいようだが、GPSの捕捉システムを信じるなら、まだスパイは施設から脱出できてない可能性もある」
「それは否定しないさ」
そう同意するジュードが「そして別の可能性だってないわけじゃない」と意味深に告げる。
「どういう意味だ?」
「その裏切り者が、ランドリッジである可能性だ」
「!」
思わず碧眼をみはらせるイメルダ。
さすがの彼女も、疲労困憊しきったか弱き研究者を疑いもしなかったらしい。
だがジュードは違う。
「あの状況で一人だけ生還したというのは、出来過ぎだ。白衣も血塗られているだけで傷ひとつなかったしな。あんたは偶然で片付けるのか?」
「……」
はっきり否定しないのは、イメルダも納得するからか。
さらにジュードは切り込んだ話をする。
「それに、裏切り者が一人ともかぎらない」
「モノがモノだ」
応じるイメルダもそれだけの価値があると認めていた。
「政府もセオドラも、いや関係者なら誰もが腹にイチモツ抱いて当然だ。――そうだろう、ジュード・マクラクラン?」
不意に突きつけられたイメルダの鋭い視線に、一拍置いてからジュードは平然と返す。
「――ああ、互いにな」
そうして空気を張り詰めさせる2人。
だがその緊張感は、長くは続かなかった。
「ただそんな風に疑いだしたら、やってられない」
そう言ってイメルダが矛を収めたからだ。
彼女の云いたいことは分かる。
疑心暗鬼に囚われた状態で、チームとして機能させ危険地帯を抜けるのは不可能ということ。
命を預け合うなら、嫌でも互いを信頼するしかない。
「とにかく、今はクォンの成果待ちだ。あいつのアイディアが実現すれば装置の在処がはっきりする」
イメルダが断定を避けて話を進める。
「仮に所内で信号をキャッチすれば、装置を所持する裏切り者も一緒だから、ランドリッジはシロとなる。そうでなければ――」
「裏切り者は逃走していて、やはりランドリッジはシロになるな」
結局彼女はシロでないかと。
なのにジュードもイメルダも押し黙る。
一度芽生えた疑心が、そう簡単に拭えるはずもない。
肩をすくめるジュードが妥協案を示す。
「……やはり、これ以上は憶測の域を出ない。ここはふたりだけの話にして、注意深く様子を見守ることでどうだ?」
「構わない」
イメルダの了承を得て、ジュードは息をつく。
「……化け物対策でも十分厄介なのに、獅子身中の虫か。1万ドルの追加報酬が安くなってきたな」