(三・六)よこすか開国祭

文字数 1,637文字

 その国際平和委員会であるが、委員会の会合(勿論、極秘会議である)の場所について第二次世界大戦終戦から二十世紀の間は、米国はニューヨークにある国連本部で行って来た。しかし二十一世紀になるや、突如その場所を移した。
 新たな国際平和委員会の会合場所とは、日本は神奈川県の横須賀市にある三笠公園内の記念艦、即ち三笠の艦内であった。では三笠の何処かと言えば、国際平和委員会の絶大なる力を行使して上映室の裏側に極秘で改造し設置した、常人立ち入り禁止の会議室であった。世界の大国、英国、米国、ロシア、中国、フランス、ドイツ……にいる委員会の主要メンバーは、空路を使って一旦横須賀の米軍基地に降り立ち、そこから三笠へと足を向けていたのだった。

 こうして三笠の中のその秘密の会議室にて、全世界に影響を与える重要事項が次々と決められていった。そのひとつが東海村で完成したプルトニウム核爆弾、オーガストボーイの扱いであった。
 先ずオーガストボーイを二〇〇五年八月より以前、具体的には六月中旬に、ここ三笠に移す。オーガストボーイは核弾頭として製造された小型爆弾であるから、円周十五センチ、二十キログラムの重量である。従って物として見れば大した荷物ではないが、何しろ核兵器である。輸送には注意を払い慎重に、かつ厳戒態勢で国家機密として秘密裏に臨まねばならないのは、言うまでもない。
 そこでこの重要かつ危険極まりない輸送の任務に抜擢されたのが、我らが横須賀の海上自衛隊だった。輸送には、護衛艦『かでな』が使われた。但し自衛隊メンバーにはたとえ幹部にすら、誰一人として自分たちが運ぶ物が核爆弾であるなどとは知らされていなかった。ただ国家にとって重要かつ危険な兵器であるという認識を、持たされただけである。
 同時にこれまた秘密裏に、二〇〇五年七月末を期限として三笠の改造工事を行うことにした。如何なる改造かと言えば三笠の艦砲から、あのオーガストボーイを発射出来るようにするというもの。詰まり記念艦である三笠の現在の艦砲は、実際には弾を発射出来ないようコンクリート製のレプリカにしてあるのだが、これを復元させようというのである。三笠の艦砲は主砲と副砲とが有り、このうち主砲を復元させ、主砲からオーガストボーイを発射させ、砲撃可能とする。
 しかしそんな大胆な改造など行えば、直ぐにばれてしまう。それになぜ今更そんなことが必要なのかと、専門家は勿論一般市民層にまで怪しまれるであろう。そこで国際平和委員会は横須賀市役所に手を回し、次のような尤もらしい理由を世間的に広報、周知させ、それから改造工事に着手した。
 横須賀市民の皆さん、この工事は花火大会の為なんですよ。三笠の艦砲から打ち上げるのは、弾は弾でも花火の弾なんです。ですからご安心下さい……。
 すると市民の反応は悪くなかった。ほう、三笠から花火ねえ。役所もたまには粋なことをするもんだ。今年の花火大会は、例年にもまして大いに盛り上がりそうですなあ。いやあ、今から楽しみ、楽しみ……。

 その花火大会であるが、横須賀市ではペリー来航百五十周年を迎えた二〇〇三年より、八月の初めに『よこすか開国祭』なるものを催していた。その一環として花火大会を行い、毎年一万発の花火を打ち上げているのだった。
 本年二〇〇五年は、八月六日(土)と八月七日(日)の両日を予定しており、花火大会は当初八月七日の午後七時三十分より行い、一万発を打ち上げる予定だった。ところが急きょこれに加えて八月六日午後八時より、花火一千発を三笠から打ち上げることが決まった。横須賀市役所は、新聞、TV、ネットを通じて、全国津々浦々にこれを告知した。
 そして三笠の艦砲を操作して一千発の花火を打ち上げる役目を仰せ付かったのが、これまた他でもない横須賀の海上自衛隊だったのである。この命を受け横須賀地方総監部は、護衛艦『かでな』による東海村から三笠への兵器輸送の任務完了後、三笠の花火係の人選を行った。
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